第47話 ファイナルアンサー
三時限目は騎士儀礼を学ぶ時間だった。
騎士儀礼とは、騎士が己の主君に対して行うものであり、君臣の秩序を確認または披露し、またそれを促す行事や作法を指すそうだ。
主君に対してしてはならぬこと、騎士としてふさわしい立ち居振る舞いなどを学ぶ。
跪いて主君に忠誠を示す臣従儀礼もこの中に含まれ、自らの主君の階級などにより、さまざまなバリエーションがあるようだ。
「いいですか~。騎士というのは、主君あっての存在です。主君を失った騎士は、もはや騎士ではない。ゆえに命をかけてお守りしなければなりません。主君を守ることは自分の存在意義を守ることにつながるのです」
担任教師テッツァーが唾を飛び散らかして、熱弁を振るっている。
この男、とにかく話が長いし、話し方も癖が強くて、聞いている方も忍耐が鍛えられる。
この後も延々と自分が満足するまで語り続け、時間の半分が経過してからようやく実技演習が始まった。
生徒たちは二人一組になり、主君役と騎士役を交互に行い先生の手本をまねて、練習を繰り返す。主君役は木で作られた剣を持ち、跪いた騎士役が宣誓したのち、両肩に剣を当てる。
西洋ドラマや映画でよく見るアレだ。
俺の相手は隣の席のアニエスではなく、近くに立っていた男子生徒だった。
顔や見た目に際立った特徴はなく、強いて言うなればすこしぽっちゃりしていた。
太っているのではない。少しぽっちゃりだ。
「ロラン、よろしくな」
「こちらこそ、よろしく」
あれ?こいつ誰だっけ。自己紹介は休憩時間に名前聞いた気がしてたけど、忘れた。
向こうは名前を憶えてくれたのに、忘れたからもう一度名前を教えて欲しいと言ったら、気を悪くするだろうか。
何とかうまく名前を言わなくて済むように誤魔化し、王様役と騎士役を交互に繰り返す。向こうは「騎士ロランよ」とか言っているのに、俺が主君役の時は不自然な台詞になってしまう。気まずい時間が続き、はやくこの苦行から解放されたいと願っていたその時。
「ねえ、おれの名前、覚えてる? さっき教えたよね」
まずい。不自然すぎたか。不審に思われたのか向こうから確認してきやがった。
観念して素直に謝るか、スキル≪カク・ヨム≫でこっそり確認するか決めなくてはならない。
スキル≪カク・ヨム≫は一日一回しか使用できないので、無駄遣いは避けたい。
ここは謝って、もう一度名前を聞こう。
ファイナルアンサー?
そんなことしたら、嫌われちゃうんじゃないの?
頭の中に一瞬、日焼けして黒光りした顔の司会者が浮かんだような気もしたが、振り払い、覚悟を決めた。
「ごめん、実はさっき……」
言いかけた言葉を遮るように女子の悲鳴が上がった。
その女子の視線の先にいたのは、金属鎧に身を固め、戦斧を持った髭面先輩こと騎士見習いのバルブゥだった。
「ぐひひ。ロック、この化け物め。お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ。どのみち故郷に帰っても、自害を命じられるか追放だ。命と引き換えに、お前も道連れにしてやる」
バルブゥの目は血走り、自分で毟ったのか、髪の毛はところどころ無く、乱れに乱れまくっていた。
口の端には泡が溜まり、顔は酷く青ざめていた。
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