第33話 ドナドナ
人間の評価など移ろいやすいものである。
好青年で、優等生然としていたダミアンと先ほどまで一緒に訓練をしていたはずの兵士たちは、「あいつは小さい頃から切れやすくて、いつか事件を起こすと思っていた」とか、「善人ぶっていたが、俺だけは本性を見抜いていた」などと口々に言いたい放題だった。
顔面を負傷したセドリックも、親代わりとしてダミアンに支援してやるなどして目をかけていたようだが、あの凶行と豹変ぶりを自分の目で見ては考えを改めざるを得なかったようだ。
酷く落胆した様子で、「しばらく地下牢で頭を冷やさせろ」と部下に命じていた。
セドリックから事の一部始終を聞いたジネットだけは、ダミアンを深く信じていたようで、「私は信じません。あの子は本当に心の優しい子なんです」と釈放を嘆願していた。
本当はあなた方夫妻の息子ヨナタンを殺したのもダミアンなのだと教えてやりたい気持ちに駆られたが、証拠もなく、信じてもらうことは困難だと判断し、自分の胸の内に納めておくことにした。
ダミアンが番所の地下牢につながれてから、二日後。
ロランは、例の騎士学校に編入する手続きのため、ダンマルタン子爵領の城下町カルカッソンに向かうことになった。これはセドリックの代官としての仕事のついでであり、手続きが済んだらそのまま寮に入れられるとの話だった。
セドリックの鼻の怪我は思ったよりも大したことないようで、血はすっかり止まっていたし、ダミアンのことなどもうすっかり気にしていないようだった。
義母ジネットとはほとんど交流を持つこともできず、心の距離を縮めるどころか、ほとんどお互いのことがわからないまま、御者付きの馬車で、二人の配下を連れ、出発してしまった。
寮か。正直、鬱だな。
俺、前世は一人っ子だったから、集団生活苦手なんだよな。
学校に通うというのだけでも、気が重いのに、野郎ばかりのむさ苦しい寮生活。
まさか相部屋とかじゃないだろうな。
嫌だ。嫌すぎる。
ジネットとのやり取りを見て確信したが、このセドリックというオヤジは人の意見を聞かないタイプだ。自分一人で勝手に決めて、相手の同意をとらず推し進める。
女、子供の意見など聞いてもしょうがない。黙ってわしが決めた通りやれ。
はっきり言って昭和初期の亭主関白そのものである。
騎士学校に通うかどうかも、騎士の家に養子に来たんだから当たり前だろぐらいにしか考えてないんじゃないのか。
「ねえ、お義父さん。騎士学校って何歳まで通うのかな? 」
「どうした、ロラン。何か心配事でもあるのか。いいかい。騎士あるいは従騎士の家に生まれた者は、六歳でスキルを授かったらすぐに、騎士学校に通うしきたりなんだ。だから、生徒はスキルを授かった者から順番に編入してくるから、入学の時期はばらばらだ。だが同じ学年の仲間とは、十四歳になる年まで一緒だから、学校生活で人脈を築いておくことも卒業後の進路に大きく影響する。最近では貴族連中も子弟の教育のため、騎士学校に入学させることが多いから、そういう子と仲良くなっておくと将来出世できるかもな。おっと、ロランにはそういう話はまだ早かったかな」
十四歳までだと?
八年間も男子校とか地獄じゃねえか。
しかも騎士だとバリバリの体育会系だろ。
鎧で蒸れた汗の酸っぱい香り漂う青春。
終わった。
この世界ではモテモテ桃色ロードを突き進む予定だったのに。
ウソン村より女っ気がないであろう騎士学園の寮生活。
教師も多分、おっさんばかりに違いない。
俺、絶対ルート選択間違ったわ。
セーブデータとか復活の呪文が存在するのなら、セドリックと出会う前に戻りたい。
カルカッソンに向かう馬車の揺れが、ドナドナの哀愁を連想させてくる。
この馬車が、輝かしい俺の青春を売り払う市場に向かう荷馬車のように思えてきた。
ドナ ドナ ドーナ ドーナ。
ロランを乗せて~。
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