第123話 散歩と訓練

「そうか筋肉をほぐす運動か、面白そうだな。時間があったら俺にも教えてくれ、すっかり体がなまっちまっているからな。あと、ジーンから聞いていると思うが今日にも連絡員が来るかもしれない。来た時は一緒に話を聞いてもらうからな。」


「そうだ、団長。今日は薬の在庫調べたいので、あとで子供たちと一緒に家に行きます。調べた在庫の書類はあそこの棚に置いておきますから。」


「わかった。でもそうだな… 傷薬や熱冷ましなんかの薬は食堂に置いておく方が良さそうか。あとで置き場所考える。」


 家の前には、サクラさんと子供たちが勢ぞろいでトーラとシーマの散歩に付き合う気満々で待っていたよ。

 さっそく東の入り口側に向かって出発する。入り口まで辿り着くと柵の内側を反時計回りに進んでいく、すっかりおなじみのコースだな。

 子供たちがクックの歌を歌いながら一緒に散歩をしている。


2,2ににん♪、2,3にさんろく♪・・・」


 もうすっかり覚えてるじゃないか、吸収力が半端ないです。今日は2桁の掛け算の勉強をしても問題ないよな。


 30分ほどで一周回り終わる、クックも5回は歌ったよな。今日は戻る前にもう少し運動させるかな?


「サクラさん、あれ持ってきてます?」


「あれですか? ふふふっ、もちろん持ってきていますよ。二つ。」


 ちょうどこの場所は古い柵を撤去していない、左右を柵で囲われたドックランみたいだよな。


「トーラ! シーマ! 今日はロープを外すぞ。呼んだらちゃんと戻ってくるんだぞ! いいな!」


 キャン! キャフ!


「みんな、二組に分かれてください。片方はトーラと僕、もう片方はシーマとサクラさんです。決め方は相談してください。いいかな?」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」


 見事に男女に別れたよ、サクラさん側はマルコ君以下男の子組、おれの方はルシアナちゃん以下女の子組。ハンザ君だけは少しまよってから最終的におれの組になったけど。


「サクラさん、ボールを… 今からこれを投げて、トーラとシーマに拾ってきてもらいます。両側の柵の外に投げない様にしてください。

 最初はサクラさんと僕が手本を見せます。

 じゃあ始めるよ! トーラ!お座り。よーしそのままだぞ。行くぞ!

 それっ! とって来い!」


 飛んでいるボールを追いかけてトーラが走り出す。シーマの方もサクラさんが投げたボールを追いかけていく。


 投げた距離の差で、シーマが先にサクラさんの元に戻ってくる。サクラさんの足元に咥えてきたボールと置くとお座りしている。

 サクラさんがシーマを褒めて撫でまわす。尻尾が今まで見たことも無い勢いで振られて地面に擦れている。シーマ… お前もか…

 横目で見ているとトーラが咥えてダッシュして戻ってくる。おれの前に来ると尻尾を振りながら咥えたまま右に左にウロウロ。こいつ…離さないつもりか?


「トーラ! お座り! 放せ!… トーラー!!」


 ようやく口から離した。


「よーしよしよし…」


 そう言いながら首元をワシャワシャと撫でてやる。口調がむつ〇ろうさんっぽくなってしまったけど。


「次はだれがやる?」


 子供たちが目を合わせて…


「やりたい!」


 ハンザ君が手を挙げた。


「じゃあハンザ君、トーラに一度見せてから投げるんだ。」


「わかった、トーラ… これだよ… エイッ!」


 ハンザ君は力み過ぎたみたいだ、3m先ぐらいにあった石にたたきつける感じになって大きく跳ね上がった。走り出したトーラも予想外だったのか踏ん張って立ち止まるとジャンプして空中にあるボールを咥える。


「「「「「 トーラすごい!! 」」」」」


 大喜びする子供たちの前に、ドヤ顔で尻尾を振りまくってトーラが戻ってくる。今度はしっかりとハンザ君の前でお座りをしてボールを離す、ハンザ君が抱きついて撫でまくる。


 その後、ルシアナちゃん、エリザちゃん、マリサちゃん、カーラちゃんと続いて何回か繰り返すうちに、みんなもなんとかボールが投げれるようになってきた。

 その時、遊んでいたおれたちを村に入ってきた人物が眺めていたなんて事には、全く気が付いていなかった。


 だいぶ遊んじゃったなそろそろ戻るか、シーマの足も問題なかったみたいだし良かった。


「じゃあ、戻ろうか」


 トーラとシーマにロープをつなぎ直して戻る、途中ハンザ君に聞かれた。


「ソーヤ、どうしたらソーヤみたいに上手に投げれるようになるの?」


 投げるのが上手くなる方法か、考えたことが無かったな。おれが子供の頃ってどうしてたかな? キャッチボールか… でもグローブが無いしなぁ… 素手でキャッチボールなんかしたら突き指とかしそうだし。


「すぐに上手になる方法って思いつかないな。考えておくよ。」


「わかった…」


 少しがっかりしたみたいだな。

 家の前に2匹をつないで水を出すとすごい勢いで飲み始めた。



 食堂に戻ると団長以下男衆とジーンさん、それに見慣れない人が一人… クワルに来た斥候隊の連絡員だ。


「揃ったな、すまんがサクラさん、子供たちをしばらく近付けない様にしてもらえるかな?」


「はい、わかりました。バラーピカの小屋に行ってます。」


 そう言うと食堂から出ていった。


「じゃあ、報告を聞こうか。頼む。」


「結果から先に申し上げます。追跡していた聖公国の間者はラドニにて捕縛完了。他の間者による追跡はありません。現状開拓団ラドサ付近において他の脅威は確認されていません。安全は確保されています。」


「そうか、その間者はどういった経緯で入り込んだ? 調べはついたか?」


「はい、今回捕縛した間者は、クワルに向かい死亡した一名を含め四名です。全員がサークーシュ準男爵の屋敷で働いておりました。現在、周辺を厳重な監視体制をとっており、ジャルティ様とアマート隊長の指示で一斉捕縛の計画を立案中と伺っております。春までには片付ける予定とのことです。」


「ひとまず安心と言う事か。みんな、他に確認したいことはあるか?」


 四名? 他にもいたと言う事か?


「四名といいましたが、追跡していたのは三名だったと思いますけど?」


「騎士団がドゥラ村に立ち寄った際に、逃げ出すように領都ラドへ向かおうとした人物が一名。不審に思ったロイズ分隊長が例の手段で判別して捕縛しました。サークーシュの使用人を名乗っていたそうです。」


 あの手段、まだ聖公国の工作員の間に広まっていないのか。


「他には? 無いようならこちらからの連絡事項を伝える。この手紙をそれぞれ宛先に届けてくれ。」


「わかりました。お預かりいたします。そういえば、入り口近くで子供たちが投擲訓練をしていたようですが、最悪を想定しておられたのですか?」


「ん? 投擲訓練? 知らんな。」

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