第114話 仲間として

 子供たちがテーブルを元に戻して勉強道具を持ち帰り、がらんとした食堂でサクラさんと話をする。


「サクラさん、明日からクックの勉強も始めようと思います。クックの歌って覚えていますか?」


「はい、覚えてますよ。今日もトーラちゃんの散歩の時に… 不思議と頭に残っちゃてて、思わず口ずさんじゃうんですよね。えへへ…」


 そういえば、領都ラドでも音楽とか歌唱なんかは聴かなかったよ。せいぜいリュートっぽい弦楽器を持った吟遊詩人?みたいな人達が辻立ちで韻を踏んだ口調で物語を歌っている程度だった、ベンリルさんと一緒に土産物探しで回った時も楽器らしい楽器って見かけなかったし。

 そうだ!楽器を造れば… 無理だな。おれ音痴だった。音感なんてものと無縁な前世だったし。


「じゃぁ、明日の勉強の時に子供たちにクックの歌教えてもらえませんか? クック表と歌の冊子は商業組合トレードギルドで造ってくれたものがありますので。」


「任せてください。」



 まだ夕食までには少し時間があるな。今のうちに共同トイレの掃除でもしてきちゃうかな。魔力MPも充分残っているし、柄付きたわしだろうが、デッキブラシだろうがバンバン召喚しても問題ない。

 そういえば団長はあの女神像どこに祭るつもりなんだ?

 お姉さま方の ”” が発覚した後だし、難しく考えないでさっさと場所を決めてほしいんだけどな。


 トーラとシーマにご飯を与える。そうだ、ついでに鑑定してみるか。シーマの足の怪我の回復具合も気になるし…


 刻んだ内臓を入れたボウルを取り出し二頭の前に置いて


 「待て! まだだぞ! よし!」


 いつもの躾を行う。上下関係はマジで大事だからね。

 2匹はご飯に夢中。では…


 ”鑑定!”


[ストライプウルフ]▽

 △ 名前 トーラ:性別 雄:1歳3カ月:健康状態 良好▽:使役獣 従順▽:使役者 ソーヤ

 △ 健康状態 肥満気味・栄養過多・塩分過多・繊維質不足 

 △ 馴致・訓練中


[ストライプウルフ]▽

 △ 名前 シーマ:性別 雌:1歳3カ月:健康状態 良好▽:使役獣 従順▽:使役者 ソーヤ

 △ 健康状態 下肢怪我▽・繊維質不足 

 △ 回復中 

 △ 馴致・訓練中


 あらら… トーラは肥満気味、やっぱり食べさせ過ぎたみたい、もう少し減らしておかないとな。塩分過多って、昨日味付け肉おねだりしてたせいだな。繊維質不足って出てるけど雑食だったの? でも肉ばかりじゃなくていいってことは助かる。



 --------------


「ベルナ、ちょっといいか?」


「なぁに? ザック?」


「実はな、さっきソーヤと話をしてきたんだが、子供たちの仕事の割り振りについて提案があってな、そのあとに、あいつに…開拓団ここの一年後、三年後にどうしたいのかと聞かれたんだ。」


「で、なんて答えたの?」


「いや、まだ答えてはいない。今夜家に呼んで話すつもりなんだが、どこまで話していいものかと思ってな。

 ソーヤが領都ラドから帰ってきた時にいろいろと話を聞いたが、どうやら鑑定ができるようになったらしい。あいつも勝手に人を鑑定するような真似はしないとは言っていたんだがな… 何かの拍子にあの件について… 時間の問題かもしれん。」


「でも、ザックもソーヤを信頼していない訳じゃないのよね。」


「ああ、正直話してしまってもな… 話すとしても俺の一存で使を巻き込むというのもな…」


「ザック、使とか関係なくソーヤは頭の回転も速いし、勘の鋭い子よ。何か隠しているのはもう気が付いていると思うわよ。」


「そうだよな… 常識からずれたことをするが、悪意があってのものじゃないし、むしろあいつなりの義侠心からなんだろうな。あの方たちにお伺いしてみるか。」





「すみません、わざわざお呼び立てしてしまって。」


「かまわないよ。開拓団ラドサの団長のお呼び出しだからね。で、何か問題でもあった?」


「はい、実は開拓団ラドサの設立経緯とあなた方の件について、ソーヤに知ってもらっておこうかと、正直戦いには向いていないでしょうが、今後の方針にもかかわることなので… 鑑定も使えるようなので何かの拍子に漏れる前にと。」


「そうか、ソーヤ君に話をするのか… 僕たちはかまわないけど、でもそれって彼に余計な負担をかけることにならない?

 でもザックがそう判断するなら異論はないよ。何しろことが可能な実力者はそうそう居ないからね。

 そのことで彼が身構えてしまって、今までの様に軽口が言えなくなったら悲しいけどね。」


「ザックは戦いに向いていないと言ってましたが、私はそうは思っておりません。領都ラドでは聖公国の間者を拘束、開拓団ラドサに戻ってくる途中には単身で鬼兎オーガラビット4匹を倒したそうですから。」


「ベルナ、本当か? 鬼兎オーガラビットを4匹なんて話は聞いていないぞ。だが… 最初に開拓団ラドサに現れた時に鬼兎オーガラビットを3匹狩ってきてたな。幸運に恵まれたみたいな話をしてたが…」


「ソーヤ君がそれなりに実力があるなら喜ばしいね。知恵もある、頭の回転も速い。確かに隠していて後で知った時の方がいろいろと面倒そうだ。根は正直みたいだから問題もないだろうし。」


「わかりました、では今夜ここに呼んで話をします。正式に開拓団ラドサの仲間として迎えるために。その時に御同席していただければ。」


「食堂でいいよ。子供たちが居なくなった後に話をしよう、皆も残っているだろうから。あと、斥候隊のジーンとドージョーの孫娘… サクラさんだったっけ? 彼女たちにも聞いておいてもらった方がいいかな。開拓団ラドサに避難してきたならいずれ知ることになるだろうし。」


「わかりました。」



 --------------



 さて、おれも晩飯… 食堂では、子供たちが配膳のお手伝いをしている。すでにみんなは集まってきているようだ。


「こんなに美味そうな飯なのに、なんで酒がないんだ…」


 とバルゴさんが嘆いている。でも今日はあきらめてお茶で我慢してください。お仕置き中なんですから。だけど、おれも鬼じゃないですよ、明日以降はお酒を元の倉庫小屋に戻しておきますから。適量なら文句は言いません。


 今日の夕食は、オーガラビットのソテーに付け合わせのニオラ炒め、キパンブ入りのスープ、焼きたてのバゲットみたいな黒パン。焼きたてだから柔らかいよ。家族がそろった人たちから祈りを捧げて食べ始めているよ。


 どうやらおれが一番最後だったみたいだ。ビラ爺のいるテーブルにはジーンさん、サクラさんが居る。おれの分も配膳してくれてあった。


「すみません。お待たせしました。」


「では頂こうかの。」


 祈りを捧げて、食事となった。久しぶりに食卓を囲んでの団らん、家族ではないけど…いや、これがおれの家族なんだ。ふいに涙が零れそうになった。

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