第4章 ソーヤ 領都ラドで奔走する

第59話 領都《ラド》の危機

 投げ込まれたその瞬間に湧き上がる異常な量の瘴気。

 ジーンは即座に反応していた。ドアを開け、外に出るとすぐに屋上へ移動する。屋上に上がって周囲を伺うとすぐに噴水広場に隣接する建物の中で、人々が苦しむ声が聞こえてきた。

 

「まずい…なんてことだ、隊長にすぐに報告を…」


 ジーンの目の前が暗くなる。しかし、なんとか意識を保ちその場を離れる


「クソ!この程度で……たまるか!!! 隊長に報告せねば…」


 ふらふらになりながら、辿りついた先。とある卸食品店兼住居の裏口から入り込み倒れ込む。


「アマート隊長、噴水広場で瘴気の発生を確認しま……」


 そこまで言うと、その場で意識を失ってしまった。

 そのことがを聞いたアマートは家人(隊員)に介抱を指示すると、即座にローベルト辺境伯の私邸に向かう。


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「ローベルト様、緊急報告です。領都ラド中央の噴水広場にて瘴気の異常発生を確認しました。」


「ん…ん……??  なんだと! すぐに騎士団による警戒・救護態勢を! 周囲への立ち入り禁止と周辺住民の安否確認・保護を急げ!」


 ローベルト辺境伯はベッドから起き上がり、そう家令に命じると、アマートを従えて隣接する公邸の執務室に移動する。


「これはまるで、80年前と同じではないか! アマート!第3騎士団に不審人物の捜索・捕縛を行わせろ。報告は事後でかまわん。それとかれらの監視・保護は怠るな!急げ!」


「は!」


 短い返事を返すと、すでにそこにはアマートの姿は無かった。



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 14日目 朝から非常に騒がしい。窓の外からガシャガシャという甲冑アーマーの擦れる音が響いてくる。食堂に行くと、4人ほどのグループの宿泊客がひそひそと話をしていた。

 ゴーロウさんがおれの目の前まで来て話す。


「ソーヤ様、本日の朝食はお部屋にお持ちしますので、お部屋でお待ちください。」


「わかりました。何かあったんですか?」


「わたくしどもにもわかりません、だた早朝に騎士団の方がお見えになって、ここの宿の警備をする事と、外出は控えるようにとだけ……」



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 しばらくすると、誰かがドアをノックする。


「どうぞ、カギは開いてますよ」


 入室してきたのは、騎士団で見かけたマールオさんだった。


「ソーヤさん。騎士団からあなたを警護するように命令が出ました。しばらくご不便でしょうが…」


「たしか、マールオさんでしたっけ? 理由は何ですか? ウーゴが逃げ出したとか? ですか?」


 おれの想定している理由…。転生の神様は起こる可能性がかなり低いと言っていたけど、争い自体はこの世界にもあるんだろうな。


「ウーゴが逃げたわけではありません…。また、理由を説明する許可を得てませんので、お答えもできません。」


 参ったな、これじゃ手がかりも何もあったもんじゃないな。


「後ほど、第二中隊隊長がお見えになります。その時に隊長から説明があると思います。」


 隊長から説明ね…かなりまずい状態かも、隊長がここを訪ねてきた時点で、ここにそれなりの何かがあるってあいつらに教えているようなもんじゃないか。


「マールオさん。隊長がここに来るのは悪手だと思います。隊長が自ら出向くとかえってまずいことになるかもしれません。」


「……私どもは命令されたことを遂行するのみ。なんら影響…」


「違います。そうじゃないんです。もう一度言います。 隊長が来ることによって今回の騒動を起こした何者かに、と教えてしまうのと同じなんです。なので、状況が落ち着くまで来ないで下さいと言う事です。」


「 ! 確かに…。 伝令を出して、隊長にその話を伝えます。」


「リボーク三等騎士、第二中隊隊長に伝令! ”意見具申、隊長の来訪を中止されたし。理由については追って報告あり。” 以上。急げ!」


「はっ!リボーク三等騎士、第二中隊隊長に以下伝令いたします! ”意見具申、隊長の来訪を中止されたし。理由については追って報告あり。” 」


 そう復唱して、ガシャガシャという甲冑アーマーの擦れる音を立てて走り去っていった。


 入れ違いに、サクラさんが朝食を持って入ってきた。


「マールオさん、朝食はお済みですか? まだでしたら…」


「任務中です。お構いなく。」


 朝食のトレーを置いて出ていこうとするサクラさんを呼び止める。一度マールオさんの様子を見てからこっそり耳打ちする。


「もし、この騒ぎの原因が聖公国・聖典派なら。日記あれの存在は危険です。隠す必要があります。ゴーロウさんに話をして持ってきてもらえませんか? 安全な保管場所に心当たりがあります。」



 --------------

 朝食を食べ終わるころ、ゴーロウさん、ナツコさん、サクラさんがそれぞれ、布に包んだあれを持ってきた。


「マールオさん、しばらく外していただけませんか?」


「部屋から出ないでいただければ…、部屋の外におりますので。」


 そう言うと、部屋から出ていく。3人と視線を合わせ小声で話す。


「先ほど、サクラさんにも話しましたが、たぶん騒動の原因は…聖典派あいつらだと思います。まだ、あちらもすべてを把握しているとは思えません。」


 マジックバックを机の上に置く。


「このマジックバック、僕しか使えないんです。ちょっと試してもらえますか?」


 そう言うと、ゴーロウさんに中を確認してもらう。


「何も入っていないようですが…」


 二人も中を確認する。そして頷く。


「でも、僕が使うと…」


 そう言って、仕舞ってあった着替えや算術台を次々に取り出す。


「こんな具合です。ここに仕舞ってしまえば、聖典派あいつらもそう簡単には…」


「こんなマジックバックが…、確かにソーヤ様にお預かりしていただくのが良さそうです。あとは……」


ゴーロウさんが言いよどむ。


「なんでしょうか?」


「食糧庫のあの模様…文字を隠さないとまずいのでは? 塗料を手配するにも…このような状況では…」


 確かに、元調理場に侵入されて、あの文字を見られたらまずい。


「…そうですね。塗装も今更新たに塗ったら、なにか隠しましたと言っているようなものですしね。」


「……ゴーロウさん、サーブロさんが残したものですが、あの文字… 消してしまいませんか?」


「…残して置きたいとは思いますが、遺産も見つかりましたので、危険を冒して…割り切れない思いもありますがそのほうが良いでしょうね。しかし、削り取るにしても時間がないのでは?」


 おれは、ニヤリとして一言。


「忘れてませんか? 僕の "たわし” を…。」



 マジックバックに、日本語で書かれたレシピ・素材の記録と日記を仕舞いこみ。三人と目で合図をするとマールオさんを呼んだ。

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