前のエピソード――第27話　スカーレットに気持ちを伝えたい～グレイ視点～

スカーレットの準備も整い、出掛けようとした時だった。見覚えのある馬車が、俺の家の前に停まった。あの家紋、まさか…

馬車から降りて来たのは、俺が心底嫌っている女、フェアレだ。俺を見るなり、抱き着いてくるフェアレ。

クソ、止めろ！スカーレットが誤解したらどうするんだ！そんな思いから、すかさず引き離し

「フィアレ殿、一体何をしにここにいらしたのですか？それから、急に抱き着くのはお止めください」

そうはっきりと告げた。それなのにあの女は、俺の婚約者だと言いやがった。そして、図々しくも家の中に入って行ったのだ。クソ、まだ鍵を掛ける前だったな。

確かに俺の父親は、あの女と俺を結婚させたがっていた。でも俺は、あの女が大っ嫌いだ。男爵家の一人娘として育ったあの女は、我が儘で傲慢で、気に入らないと癇癪を起す。

“グレイ、私と結婚すれば、あなたは男爵よ。どう、嬉しいでしょう？私に感謝しなさい”

それが口癖だった。正直俺は貴族が大嫌いだ。もちろん、男爵の地位何てこれっぽっちも興味がない。さらにあの女は、俺の母親にも

“元メイドの分際で、本当に図々しいわね。でも、グレイを生んだことだけは褒めてあげるわ。さあ、早く私の為にお茶を出しなさい、あなたは元メイドなのでしょう？”

そう言ってこき使っていた。俺は何度も母親に

”あんな女の為に何かをする必要はない”

そう伝えたが

”グレイには私のせいで、不自由な生活をしてほしくないの。私は元メイドだから、これくらい大丈夫よ“

そう言ってあの女のいう事を聞く母親。結局俺は、副騎士団長になって男爵家と縁を切り平民になったため、もう二度とあの女とは関わらなくていいと思っていたのに。まさか乗り込んでくるなんて！

体中から溢れる怒りを必死に抑え、急いであの女を追い出すため家に戻る。

「俺はもう平民になったんだ。もちろん、あなたと結婚して男爵になるつもりはない。とにかく出て行ってくれ」

そう告げたが、何を思ったのかソファーに座り

「貧相な家ね。騎士団長で男爵令息なのだから、もっときちんとしたお屋敷に住まないと」

何て言っている。こいつ、俺の言った意味が分からないのか？バカなのか？

その時だった。

「ちょっと、そこのあなた。使用人でしょう？早くお茶を入れなさい」

ふと入り口を見ると、スカーレットの姿が。クソ、スカーレットをメイド扱いするなんて、なんて女だ。すぐにスカーレットはメイドではないと反論した。すると2人の関係を聞かれた。

俺の大切な人だ！そう叫びたいが、さすがにこの場で告白する訳にはいかない。どうしようかと思っていると

「私はスカーレットと申します。訳あって、グレイ様の家に居候させていただいているのです」

そう挨拶をしたスカーレット。それを聞いて、さらにスカーレットにお茶を入れる様催促するあの女。さすがに堪忍袋の緒が切れた俺は、そのままあの女を追い出した。

遅くなってしまったが、とにかく予定通りスカーレットを街に連れ出した。でも、完全に出鼻をくじかれた俺は、そのまま告白出来ずじまい。

クソ、あの女のせいで！

それにスカーレットはきっと誤解をしている。何とか誤解を解かないと。今日は遅いから、明日騎士団から帰ったら、俺とあの女の関係をきっちり話そう。そう思っていたのに…

いつもの様に家に帰と、鍵がかかっているはずの玄関が開いている。どうしたんだ？不安になり、急いで玄関を開けた。

「ただいま、スカーレット。玄関のドアの鍵がかかっていなかったけれど…」

「おかえりなさい、グレイ」

俺の前に現れたのは、なんとフェアレだ。どうしてこの女が俺の家にいるんだ。一体スカーレットはどこに行ったんだ？

「どうして俺の家にあなたがいる？スカーレットは？」

「ああ、あの平民なら追い出したわよ。平民の分際で、どうしてああも図々しいのかしらね。本当にあなたの母親を見ている様だわ。そうそう、やっぱり平民は平民ね。あなたの事を話したら、あの女、貴族の私に向かって“グレイ様のお母様の事を悪く言うのはやめて下さい”と、そう言ったのよ。本当に身の程知らずもいいところだわ」

スカーレットを追い出しただと？身の程知らずはどっちなんだ！体中から怒りがこみ上げて来た。そして相変わらず俺の母親の事を悪く言いやがって、本当にクズ以外何物でもない。

「お嬢様、それからグレイ様、お食事の準備が整っております」

呼びに来たのは、なんとこの女の専属メイドだ。なぜメイドがこんなところにいるんだ。

「とにかくお腹が空いたでしょう。とりあえず今日はこの貧相な家で我慢するわ。明日には王都に戻って、早速結婚の準備を進めましょう。お父様も、あなたの帰りを待っているわ。そうそう、騎士団も辞めてもらうわよ、あなたは男爵になるのだから、これから覚える事が山ほどあるの。騎士団の仕事なんてやっていられないでしょう？」

この女は何を言っているんだ。本当に自分の事しか考えていないんだな。こいつだけは許せない！もう手加減なんかしないぞ！