第26話 フェアレ様がまたやって来ました
フェアレ様がいらした翌日、いつもの様にグレイ様をお見送りする。そして、いつもの様に掃除や洗濯を済ませ、仕事場でもある食堂へと向かった。
昨日の夜、ずっとフェアレ様とグレイ様の事を考えた。もしグレイ様がフェアレ様の事を好きだったら、その時は素直に諦めよう。そして、この家から出て行こう。そう心に決めたのだ。
そして今日、グレイ様にはっきりとフェアレ様との関係を聞こうと思っている。もしかしたら話してくれないかもしれない。それでも、このまま悶々とした気持ちのまま過ごすのは嫌なのだ。それから、出来れば自分の気持ちも伝えたい。
こんなタイミングで伝えても、グレイ様に迷惑がかかるだけかもしれない。それでも、どうしても自分の気持ちだけは伝えたいのだ。自分勝手なのはわかっている。でもグレイ様の事が好きと言う気持ちを抱えたまま、この家を出る事なんて出来ない。
しっかり気持ちを伝えて、クリーンな気持ちのままこの家を出たいのだ。そんな気持ちの中、いつもの様に仕事をこなす。ちなみに今日のランチメニューは、リンダさんの村のお料理、魚とパイの包み焼きだ。
リンダさんの村の郷土料理を出すようになってから、さらにお客さんが増え、大忙しだ。店長も
“リンダちゃんが来てくれて、本当によかったわ。あなたが来てくれてから、店の売り上げも2割増しよ”
そう言って喜んでいた。物凄く忙しいお店を終えた後は、市場に買い物をして帰る。
「スカーレットさん、私も市場で買い物をして帰るから、一緒に帰りましょう」
そう話しかけて来たのは、リンダさんだ。2人で仲良く歩いて市場に向かう。
「ねえ、スカーレットさん、なんだか元気がない様だけれど、何かあった?」
不安そうな顔で訪ねて来たリンダさん。そんなリンダさんに、昨日の事を話した。さらに、今日グレイ様にフェアレ様との関係を改めて聞く事、出来れば自分の気持ちも伝えたいことも伝えた。そして、場合によってはあの家を出る事も。
「随分と思い切ったわね。それで、行くあてはあるの?」
「とりあえずはホテルに泊まろうと思っているわ。幸い両親の遺産など、まとまったお金もあるし」
「ねえ、それなら家にいらっしゃいよ。うちはまだコメットと2人暮らしだし。部屋も余っているわ。あなたが1人やって来たくらい、どうってことないし」
「そんな、悪いわ。新婚さんの家にお世話になるなんて」
「大丈夫よ。新婚って言っても、私たちは元々幼馴染だし。いい、絶対家に訪ねてくるのよ。わかった?」
物凄い勢いで迫ってくるリンダさん。同じ年なのに、私なんかとは比べ物にならない程しっかりしている。
「ありがとう、それじゃあ、そうさせてもらうわ」
その後2人で仲良く買い物をして、それぞれ家に帰る。帰り際、何度も“必ず家に来るのよ”そう念押しをされた。心強い友人が出来て、私は本当に幸せだ。
もしかしたら今日の夜が、グレイ様と食べる最後の食事になるかもしれない。そう思い、今日はグレイ様の好物をたくさん作ろうと思い、色々と買い込んだ。とにかく急いで帰って、食事の準備に取り掛からなくっちゃ。
速足で家に向かう。すると家の前に、フェアレ様が待っていた。
「やっと帰って来たわね。メイドの分際で、一体何をしていたの。早く家に入れなさい」
私を見るなり、不機嫌そうにそう叫んだフェアレ様。急いで家の鍵を開け、中に通した。
「私、喉が渇いているの。早くお茶を持ってきなさい。それにしても、本当に貧相な家ね。よくグレイはこんな家に住めるわね」
そう文句を言っている。とにかく、急いでお茶とお菓子をだした。
「あの…フェアレ様はグレイ様とはどういったご関係なのですか?」
どうしても気になっていた事を本人に聞いた。
「どうしてあなた様な平民に教えないといけないの?でも、まあいいわ。教えてあげる。私とグレイは、家が隣同士だったの。グレイは男爵家の5男、私は男爵家の1人娘。だからグレイが私と結婚して、うちの実家を継がせるつもりだったの。それなのにグレイは、母親を連れて出て行ったのよ。あんな母親、放っておけばいいのに」
そう言い放ったフェアレ様。待って…今グレイ様が男爵令息と言ったわよね…でも、グレイ様は平民ではないの?
「あの、フェアレ様。グレイ様は平民ではないのですか?」
「はぁ?あなたグレイから何も教えてもらえていないのね。グレイはディースティン男爵家の5男よ。でも、母親がメイド上がりの平民だったからね。もしかしたら、男爵家の名を隠して、平民として生きていたのかもしれないわね。本当にディースティン男爵も、なんでメイドなんかに手を出したのかしら。母親が平民のせいで、随分とグレイは苦労したのよ」
身分を隠して、平民として生きて来た?グレイ様のお母様が平民だった?今まで聞いたこともない情報が、次から次へと出てくる。
「もしかしてあなた、グレイが好きとか言わないでしょうね?あなたは平民でしょう?確かに貴族は何人もの妻を持つことが出来るけれど、私は別の女とグレイを共有何てしたくはないわ。それに、平民と貴族が結婚しても、幸せにはなれない。グレイの母親の様にね。あの女、グレイの父親を誘惑して、第三夫人の座に収まったものの、結局他の夫人たちにイジメられたのよ。全く、平民の分際で男爵に手を出すからよ。本当に図々しい女は嫌だわ」
そう言い放ったフェアレ様。確かにフェアレ様の言った通り、男爵令息のグレイ様が何のとりえもない平民の私と結婚するはずがない…その事だけは、理解できた。でも…
「フェアレ様、私はグレイ様のお母様の事は存じ上げません。でも、グレイ様を生んで育てた大切なかけがえのない女性の事を、悪く言うのはお止めください」
グレイ様のお母様がどんな人かは知らない。でも、正義感が強く誰よりも優しいグレイ様を生み育てた人を、悪く言う事だけは許せなかったのだ。
「あんた平民の分際で、私に意見する気?まあいいわ、あなたもグレイの事が好きなのでしょう。悪いけれど、グレイは家の男爵家を継ぐことになっているの。どう考えても平民で居候のあなたと結婚するメリット何てないでしょう?グレイは優しい人なの、あなたを追い出せない事くらいわかるでしょう?いい加減出て行ってくれない?」
確かに私がそばに居る事で、グレイ様は身動きが取れないのかもしれない。それにどう考えても、男爵令息のグレイ様と親なしで離縁経験者の私とでは釣り合わない。
「わかりました、出ていきますわ…でも、最後にグレイ様と話だけはさせて下さい。きちんとお礼を言ってから出ていきたいのです」
「はあ、何言っているの?今すぐ出ていきなさい!あなた達、この女をすぐに追い出して」
そう叫ぶと、使用人らしき姿をした男女が部屋の中に入って来た。そして私の腕を掴む。
「お嬢様、この女の部屋と思われる場所から、荷物が詰まったカバンが見つかりました」
「あら、最初っから出ていくつもりだったのね。ちょうどよかったわ。カバンと一緒につまみ出しなさい」
「「「かしこまりました」」」
そのままカバン事馬車に乗せられると、中心街まで連れていかれ、そのまま放り出されたのだった。
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