ツーリング風景

 近江八幡から安土は面白かった。〆に安土城天守信長の館を見て、もう三時回ってもたな。


「ここからどれぐらい」

「ナビ通りやったら、一時間二十分ぐらい、距離にしたら五十キロぐらいや」

「五時までに着きそうね」


 目指すんは鈴鹿スカイライン。関西でも屈指の峠道や。どうやって行くかやが、県道三二八号から県道五〇八号で行くのがシンプルそうや。


「無理せず国道四七七号まで引き返したら」


 気持ち遠回りやねん。バイクにナビ積んでへんから、ユッキーとルートの確認をして出発や。最初は愛知川に沿って走るから・・・へぇ、愛知川沿いの道やけど堤防道みたいなもんやな。一車線半しかあらへんけど、真っすぐやし見通しエエから走りやすいな。二車線なって来たやんか。その代わりにちょっとクルマが増えて来た。


 この辺で川から離れるけど田んぼの中の一本道で走りやすいわ。そやけどだいぶ混んで来たな。


「コトリ、この辺で左に入るのじゃない」


 そのはずやねんけど、何も道路案内があらへんな。どれかいな、もういくらなんでも、


「ちょっとストップや」


 とにかくナビ積んどらへんから、見ようと思たら停めなあかん。ユッキーと確認すると、


「通り過ぎてるね」


 あそこやったんか。道路案内の一つぐらい出してねぇな。仕方がないから引き返して、


「あの橋のとこやな」

「たぶん」


 それにしても何も書いてあらへんな。


「合うてるやんな」

「山の方に向かってるから間違いじゃないと思う」


 ナビは便利やけど、時にトンデモナイ道を案内しよる。もしその道知っとったら通らへん道でも、ナビが示したら行ってまうやん。バイクやからマシやけど、クルマやったら往生する気がするで、なんか道が狭くなってきたやん。


「ストップ」

「う~ん、合ってるね」


 あそこ走るんか。これ路地やん。路地を抜けたらあの高架は名神やな。潜ると路地から道になってくれた。やっと道路案内があったけど、右が甲賀で、左が彦根やけど真っすぐはどこに行くんじゃ。


「山は確実に近づいてるから合ってるはずだよ。とりあえず真っすぐだし、田んぼばっかりで見通しも良いから走りやすいじゃない」


 そんなん言うけどまた路地やぞ。おっ、信号に出た。ここは赤信号なのがありがたい。


「コトリ、左折じゃない」

「そんな気がする」


 自信があらへんけど、広い方の道に入って・・・この道なんやろ。ちゃんとした二車線やけど・・・やっと道路案内があった。なになに桑名まで五十一キロで国道四二一号か。どっかで右に曲がらんとアカンはずやけど、道路案内がありますように。


 次の角を右折したら日野ってかいてあるけど、広域農道やからちゃうやろ。コトリが目指すんは県道やからな。


「コトリ、また通り過ぎたのじゃない」


 言うな。コトリかって不安やねんから。あった、あれや。


「国道から県道に変わりましたって感じだね」


 それ以下や。なんか旧街道って雰囲気もあるもんな。それでも集落抜けたら急に道が良うなった。


「ユッキー、なんで口笛吹いてるねん」

「だって丘を越える道だもん」


 それやったら、


「丘を越えて、行こよ、真澄の空は朗らかに・・・」

「そんな古い歌、誰も覚えてないよ」


 大きなお世話じゃ。丘を下りて来たところで、やったで真っすぐ行ったら国道四七七号や。トンネル抜けて、


「あれなんだろ」

「農業公園があったはずやけど」


 出たぁ、国道四七七号や。


「もう迷う心配ないね」

「ホッとしたわ」


 知らん道走るのは楽しいけど、どこ走っとるかわからんようになるのはドキドキするねん。今はナビあるけど、地図だけの時代やったら、助手席におるんが人間ナビするんやけど、頼んないのも多かった。


「そうだよね。次の赤い道曲がるとか」

「あと何センチぐらいやとか」


 それより本当に迷うと東西南北もわからんようになるんよ。必死になって目に付く地名を拾って、地図と照らし合わせるんやけど、地図に載ってる地名も粗いし、


「そもそも方向違いになってるから、見つからないのよね」


 ほいでもナビも万能やない。GPSはだいたいの位置を教えてくるけんど、やはり少しずれる。それより何より、ずっとナビ見て走られへん。クルマと違うてバイクに音声ナビは難しいからな。


「メットのインカムに連動するのはあるらしいけど、ある程度予想していないと、曲がれないものね」

「それそれ、これホンマに曲がるんかもあるもんな」


 それでも完全な迷子にならへんから役に立つのは言うまでもあらへん。


「あれダムじゃない」

「ロックフィルやな」


 この辺から登りに入って来てるな。トンネル抜けたら、へぇ、蔵王ダム言うんか。紅葉が映えて綺麗やんか。


「一休みしようよ」

「そやねんけど」


 もう一個ダムがあったはずやから・・・結構な急カーブやな。やっぱり蔵王ダムで休んどいたら良かったかな。行ってもたもんはしゃ~ないか。


「ここで休も」

「らじゃ」


 野洲川ダムって言うのか。なかなか立派なダムや。


「自販機ぐらいあればエエのに」

「代わりに赤い祠があるけど」


 ダム見ながら休憩や。今から鈴鹿スカイラインの本番やけど、距離にしたら二十キロぐらいやねん。そやからたぶん三十分ぐらいで宿に着くはずや。ここはしっかり休んで、ヒルクライムに挑戦するのが正解やろ。

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