第171話「シルヴェーヌさんには筆頭秘書になって頂こうと思います」

ランチ会食の後……

シルヴェーヌさんから提案があった。


それは、内々で決まった俺とシャルロットさんの『婚約』の発表を、

ジョルジエット様、アメリー様との『婚約発表』後にし、

それまで厳秘にするべきでは、というものであった。


俺はハッとした。

それって、王女ルクレツィア様との兼ね合いもあると。


まだお会いした事もないルクレツィア様だが、全てが万事上手く行った場合、

俺と婚約し、結婚する事となる。


その際、身分の序列を考えたら、王族のルクレツィア様との婚約発表を最初にしなければならない。

次いで、公爵令嬢たるジョルジエット様との婚約発表となるだろう。

その次は子爵家令嬢のアメリー様だ。


いくら大手商会のお嬢様という地位でも、王族と貴族には敵わない。

シャルロットさんとの婚約話が広まって、ひとり歩きしたらまずい。


シルヴェーヌさんも『俺の考えた事を感づいた』からの発言なんだ。


そんなシルヴェーヌさんの深謀遠慮を読み取り……

シャルロットさん本人は勿論、ルクレツィア様との話を知らない、

セドリック会頭とオーバンさんも了解してくれた。


ジョルジエット様との婚約の、正式発表まで、

商会内で厳重なかん口令を敷いてくれるという。


「シルヴェーヌさん、ありがとう」


思わず俺が礼を言えば、


「いえ、このような事は秘書として、当然の気配りですわ」


シルヴェーヌさんは、にっこりと微笑んだのである。


……という事で、午後は顧問室で事務仕事。


ルナール商会本社、各支店営業所における解決が必要な問題点の洗い出し作業だ。


おお!

すっごい数の支店、営業所だ。


そして大なり小なり、解決すべき課題を抱えている。

見て行くと、俺が出張るもの、そうじゃないものがあるが、将来シャルロットさんの『夫』として、現状を把握しておくようにという事だろう。


中には、強盗、魔物の被害等、

俺が対応したら改善されるのでは……と思える案件もいくつかある。


幸い、俺が依頼を完遂した支店営業所では、問題は起きていないようだ。


そして俺はいくつかの課題に関し、シャルロットさんへ不明な点を質問し、

回答を得た。……いろいろ勉強になった。

さすがにシャルロットさんは、良く勉強している。

商人修行に関しても、教えて貰おう。


シルヴェーヌさん、トリッシュさんもじっくりと読み込んだ上で、質問をする。


対して、シャルロットさんも詳しく丁寧に答えていた。


よしよし、ウチの秘書は全員真面目、そしてとんでもなく可愛い。

素敵な事だ。


最後に今度はトリッシュさんの提案でチーム全員が『商人修行』をしたら良いのではという話が出た。

講師は当然、シャルロットさんで。


俺は勿論、ふたりの秘書も大賛成。


これから、機会があれば出来るだけ、

勉強をさせて貰おうという話になったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


午後5時。

いろいろあったが……

ルナール商会の勤務も無事に終わり、俺と秘書達は帰途についた。


商会本館前に、リヴァロル公爵家の馬車が、騎士5名の護衛付きで迎えに来てくれていたので、全員で乗り込んだ。


とりあえず、冒険者ギルドとルナール商会における勤務に関して、

目途がついたって感じだ。


後は王宮だけど……どうだろう。

シャルロットさん、トリッシュさんは俺の秘書として、

立ち入りを認めて貰えるだろうか?

調整は、結構難しいと思うけど。

俺も出来る事があれば協力したい。


御者が合図をし、馬車は走り出した。


さて……

馬車が公爵邸へ到着するまでに、俺にはやる事がある。


「みんな、俺からひとつ提案があります」


「提案ですか? 何でしょう、ロイク様」

「お聞かせくださいませ」

「絶対、良い事ですよね?」


秘書達の興味は津々。


「シルヴェーヌさんの事なんだけど」


「わ、私!?」


「シルヴェーヌさんですか?」

「ロイク様、おっしゃってください」


「はい、俺が思うに、シルヴェーヌさんは、グレゴワール様の第三秘書を務めていただけあって、秘書業務は手慣れていますし、責任感が強く、各所で丁寧な気配りもして頂き、いろいろ頼りになります」


「そ、そんな!」

「私、ロイク様のおっしゃる事、分かります!」

「はあい! 私もでえす!」


「と、いう事で、シルヴェーヌさんには、シャルロットさん、トリッシュさんの上司として、ふたりを導く、筆頭秘書になって頂こうと思います。シャルロットさん、トリッシュさん、どうかな?」


「え!? わ、私が筆頭秘書!?」


驚くシルヴェーヌさん。


一方、シャルロットさん、トリッシュさんは笑顔で、


「大賛成です!」

「私も大賛成でっす!」


「と、いう事で、シルヴェーヌさん、筆頭秘書、お願いします」


「お願いします! シルヴェーヌさん!」

「シルヴェーヌさん、お願いしますう!」


「………………………………」


……元々、俺はシルヴェーヌさんに筆頭秘書をやって貰おうと思っていた。


今、このタイミングで話をしたのは、俺との結婚云々の話がジョルジエット様から出た際、シルヴェーヌさんが、微妙な顔つきをしていたから。


彼女には俺と無理くり結婚して貰わなくとも構わないし、

有能な秘書として仕事をしてくれれば良い。

それで、責任ある筆頭秘書就任を告げ、秘書の仕事にまい進して欲しいと思ったのだ。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか……シルヴェーヌさんは、


「分かりました。未熟者の私ですが、筆頭秘書、精一杯務めさせて頂きます」


とOKしてくれたのである。

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