第77話「再訪をせがまれてしまった」

味が美味しいのは勿論、

おもちゃ箱&遊園地感覚のフードコート。

自由、楽しさを追求した食べ放題。


そのふたつの場所を融合。

……居酒屋ビストロ『メルカートゥス』は、そんな店だ。


または現代ホテルのビュッフェ形式パーティが庶民的になった雰囲気とも言える。


さてさて!

メイド服姿のスタッフ女子の説明が終わり……

俺は、ジョルジエット様、アメリー様の手を引き、護衛騎士のアンヌさん、ジュリーさんを背後に従え歩き出す。


俺と一緒の女子達はまだ半信半疑。

この店のシステム、そして楽しさを充分に理解していないから無理もない。


まだ開店直後で、店内は混んではいない。


ちらっと見やれば、先発隊の騎士達5人は、片隅のテーブル席に陣取り、食事を始めようとしていた。


あちらもこちらを「ちらちら」見て、小さく頷いている。

護衛対象が入店したと認識したのだ。

何か、あればダッシュし、こちらへ接近。

任務を果たしてくれるはず。


そして後発部隊もたった今、入店を果たした。

スタッフ女子の説明を受け、料金を支払っている。

こちらを見ているから、席を決めたら近くに座ってくれるだろう。


よし!

段取りはOKだ!


まだまだ半信半疑の女子達へ、俺は言う。


「ここは2時間以内であれば、好きな場所へ座り、好きなものを選んで、飲み食いする先払い方式のお店です。では早速食べ物を選びましょう」


まずはジョルジエット様へ尋ねよう。


「ジョルジエット様は何が食べたいですか?」


「じゃ、じゃあ! お肉を!」


美しい碧眼を輝かせ、ジョルジエット様は言う。


あはは、肉食女子って事か!

……可愛いな、やっぱり。


「肉なら、串焼き、揚げ物、煮物等々、いろいろありますよ」


「では! 串焼きで!」


「了解です!」


俺はすぐ肉料理専門の露店を見つけ、串焼きを実演販売しているコーナーへ。

牛豚鶏、そしていろいろな部位の串焼きを売っている。


「当然、牛のロース串焼きですわ」


「じゃあ、5本貰いますよ」


という事で、一枚の皿に5本……5人分の牛のロース串焼きを、スタッフさんから受け取る。


「わ~お! 美味しそう! いっぱい食べちゃおう!」


その様子を、じっと見ていたアメリー様。

綺麗なとび色の瞳がやはりキラキラ。


「本当にお金が要らないとは。というか先払いしているのですね……じゃあ、私はチキンのレバー串焼きを!」


「了解です!」


という事で、こちらも一枚の皿に5本のチキンのレバー串焼きを、スタッフさんから受け取る。


「うふふふふ、こちらも美味しそう! 食べたいですわ!」


という、ジョルジエット様の希望で、

更に豚の塩ゆで肉を大型の器に盛って貰う。


という事で3種類の肉料理をゲット!


ここで一旦席の確保。

ゲットした3種類の肉料理をテーブルに並べておく。


ジュリーさんを座らせ席の確保をして貰ううちに、

再度、俺、ジョルジエット様、アメリー様、アンヌさんは料理の確保へ。


魚料理、卵料理各1種、それとサラダ、飲み物などをゲット!

テーブルの上は、様々な料理がてんこ盛り。


まずは、これくらいで良いだろう。

食べ残しはNGだから。


ここで俺がささっと走り、フォークとナイフ、それと取り皿をひとり2枚、計10枚ゲットし、席へ持ち帰る。


各自が自分の好きな料理を取り分けて食べる。


席の並びは、俺が座り、ジョルジエット様、アメリー様が両脇に、

アンヌさんがジョルジエット様の隣、ジュリーさんがアメリー様の隣。


「では、食べましょう!」


俺の合図とともに、楽しいランチタイムは始まったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ステディ・リインカネーションにおける貴族社会では、主と家臣がこうして席を同じくして、食事を摂る事は基本的にないらしい。


だが、今回の護衛みたいに例外はある。


俺は食べながらも周囲の様子に注意を払っている。

護衛騎士のアンヌさん、ジュリーさんも同じだ。


一方、庶民向けの居酒屋ビストロ料理初体験のジョルジエット様、アメリー様はといえば、購入を決め、料理が渡される間に、観察は済ませているようだ。


ビジュアルはまずOKという事で、しげしげと眺めたりはしない。


まずはひと口、慎重に味を確かめる。

という雰囲気で、ジョルジエット様は牛のロース串焼きを「はむっ」とかじってみる。


するとみるみるうちに、表情が変わった。


「お、美味しいっ!!」


と、にっこり。


その様子を見て、アメリー様もチキンのレバー串焼きを「かぷっ」と可愛くかじる。


「美味しいですわ!」


と、同じくにっこり。


当然、俺への「お口を開けてください、あ~ん」攻撃も行われた。


それらを見届け、アンヌさん、ジュリーさんもぱくっと。


「「美味しい!」」


こうなるともう庶民料理に抵抗はない。


何せ、全員が若い男女の食べ盛り。


はしが進む、否、ナイフとフォークが、ガンガン進む。


第一陣の料理はあっという間になくなった。


だが、食べ放題のいいところ。

好きなものを思う存分、いくらでも食べられる。


「ロイク様! 別の料理を取りに行きましょう!」

「私は、同じ料理をお代わりしたいですわ!」


ジョルジエット様、アメリー様にせがまれ、再び露店へ。

アンヌさん、ジュリーさん、どちらかが留守番という感じで。


食べ放題って、つい欲張って取り過ぎてしまうもの。


俺はジョルジエット様、アメリー様にブレーキをかけながら、いろいろな料理を席に持ち帰って食べて貰う。


ただ俺、アンヌさん、ジュリーさんは護衛役なので、満腹になるのは避けておく。

またプライベートで来れば良い。


テーブルの距離もほどほどあり、とんでもなく大声で話さなければ、

筒抜けになる事もない。


話も弾み、ジョルジエット様、アメリー様からは学校の話等を聞く。


俺は女子学校の事を知らないから、新鮮だった。

念の為、変な意味ではなく。


そんなこんなで、料理を美味しく楽しく食べ、最後はデザートでフィニッシュ。


食事の時間は2時間あるから、のんびり出来るし、店内はチェックが行き届いているから、犯罪行為は勿論、ナンパもない。


俺は『味』を一番心配していたのだが……

ジョルジエット様、アメリー様は、満足してくれたようだ。


なぜなら、食事を終え、店を出る時……


「ロイク様! 絶対にまた連れて来てくださいませ!」

「私、全部の料理を制覇してみたいですわ!」


と、再訪をせがまれてしまったのである。

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