第73話「ジョルジエット様、アメリー様は、聡明だった」
ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!
ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ! ぱかぽこ!
ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……
ガタガタゴトゴト…… ガタガタゴトゴト……
元気に馬車を牽ひく馬のひずめが、車輪の音が、のんびり響く。
職人通りを後にし、馬車は次の場所へ向かう。
すっかり上機嫌のジョルジエット様、アメリー様は、瞳をキラキラさせながら、
俺へ尋ねて来る。
「ロイク様、次はどこへ向かうのですか?」
「また秘密で、私達へサプライズ! ……なのでしょうか?」
「おふたりが良くご存知の場所ですよ」
と、俺が曖昧に答えを戻せば、更に追及して来る。
「え? 良くご存知の場所?」
「ヒントだけでも頂けますか?」
「残念ながらヒントはナシですが、おふたりには変身して頂きますよ」
俺が言葉を戻すと、ジョルジエット様、アメリー様は、驚き目を丸くする。
「「変身!!??」」
おいおいおい!
これって、反則だろ?
美少女は驚く様子も、めちゃ可愛いじゃないか!
そういえば、ジョルジエット様が怒った顔も可愛いかった。
けれど、険が取れた感のある今の方がもっともっと可愛い!
「私達がどうやって変身するのですか?」
「もしや! 魔法でとか? ですか?」
「到着すれば分かります。でも魔法で変身とか、そんなに大層なものではないですよ」
俺はそう答えながら記憶をたぐった。
そういえば……俺がステディ・リインカネーションでプレイしたアバター、
アラン・モーリアは変身魔法のスキルを有していたっけ。
変身魔法かあ……
習得優先順位は最上位というわけではないが、もしあれば重宝しそうだ。
もしも機会があれば、ぜひ習得してみたいものだ。
つらつらつらと考える俺。
そんな会話をしながら、馬車は順調に走り、様々な商館が建ち並ぶ商業街区へ……
馬車の窓から、外の風景を眺めたジョルジエット様、アメリー様は、
「ロイク様、ここは……商業街区ではありませんか?」
「もしかして……行先は、リヴァロル公爵家御用達商会の?」
「はい、次に立ち寄るのは、ルナール商会です」
「ルナール商会!?」
「で、でも! ルナール商会で、私達がどう変身するというのでしょう?」
「それは……到着してからのお楽しみですよ」
という会話も交わし、馬車は、商業街区のルナール商会本館前に止まった。
警護主任騎士のバジルさんから、連絡がされており、
本館前には幹部社員のオーバンさんが、部下の社員とともに待ち構えていた。
「おはようございます! 良くいらっしゃいました! ささ! どうぞ中へお入りくださいませ!」
オーバンさんの歓迎の言葉とともに、
俺達はルナール商会のVIP室へ案内されたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リヴァロル公爵家当主のグレゴワール様は勿論だが、
ジョルジエット様、アメリー様も、現代日本で言えば、
百貨店の外商顧客のようなもの。
補足しよう。
外商とは、百貨店の場以外で顧客に商いをする行為である。
優良顧客のもとへ外商担当者自らが出向き、
顧客の家庭や指定の場所で商品を紹介し、販売の交渉を行うのだ。
ちなみに外商顧客とは、年間必ず一定額以上の高額な買い物をするお客の事。
それゆえ、今回は一般の客が買い物をする場所ではなく、
VIP室へ通されたという次第。
さてさて!
VIP室へ行くと、俺がお願いしたものが用意されていた。
それは、ハンガーラックに掛けられたたくさんの衣装である。
その衣装のほとんどがブリオー。
可愛いデザインだが、庶民が着用する女子用ブリオーだ。
現在、ジョルジエット様、アメリー様が着ている高級品ではない。
しかし、ハンガーラックに掛かっているブリオーを見たふたりは、
綺麗な目を輝かせて笑顔。
「まあ、素敵!」
「可愛いです!」
アンヌさん、ジュリーさんも、気に入ったようでニコニコ。
よし!
素敵! 可愛い!
という女子に人気のパワーワードと笑顔が出たから、掴みはOK。
ここで俺は、伝えるべき事がある。
「ジョルジエット様は、アメリー様。お伝えする事があります」
「お伝えする事?」
「何でしょう、ロイク様」
「お気を悪くしないで頂きたいのですが、こちらの衣装は全て庶民向けの既製品です」
補足しよう。
ステディ・リインカネーションの世界で上流階級の人間が着る衣服は基本一点物。
つまり全てがオーダー品である。
庶民は安価な既製品を着る事もあるし、生産数に限りがあるので、
セカンドハンド商品と呼ばれる中古品を愛用したりもする。
俺は全くこだわらないので、中古品でも全然OKだが、
ジョルジエット様、アメリー様は、もろ上流階級の人間。
中古品は当然ダメだろうし、既製服にも抵抗を示すかもしれない。
それゆえ『お断り』を入れたのである。
しかし、ジョルジエット様、アメリー様は、聡明だった。
俺が先に伝えた『変身』という言葉を憶えていたのだ。
「ロイク様! 分かりましたわ!」
「この衣装を私達へ着せて、庶民に変身……というわけですね?」
俺の意図をすぐに理解した美少女ふたり。
「はい、ご推察の通りです」
俺が言葉を戻せば、更に深読み。
「そして、普段私達が行かない場所へ、連れて行ってくださると!」
「素晴らしいですわ」
「という事は?」
「ええ! 可愛くて素敵だし! 着用には、全然問題ありません!」
「試着もしたいですわ!」
という事で、ハンガーラックの衣装は別室へ運ばれ、試着が為され……
ジョルジエット様、アメリー様は、
麗しい貴族令嬢から……
『庶民の出でたち』さわやかな町娘の風体で再び俺の前に現れたのである。
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