第52話「うっわ! 言っちゃった! 言っちゃったよぉ!」

「そうなんだ。セドリックは既にロイク君へ仕事を発注し、返事待ちだと言っていた。だから私もロイク君への謝礼を用意し、セバスチャンへ託したのだ」


グレゴワール様は、そう言うと改めて俺を見つめた。


う~む。

話を聞けば、俺の素性と経歴は、グレゴワール様へもろバレって事か。


凄すぎる調査能力!

どういう秘密の『うら組織』が調査しているんだ?


しかし!

ここで更にジョルジエット様が言う。


「お父様が冒険者をお嫌いだと私は知っております。でも! ロイク様へお礼も言わずお金だけ渡すなど、貴族として、人間として、いかがなものかと思いますわ」


「はい! ジョルジエット様のおっしゃる通りですわ! それはそれ、これはこれで筋を通すべきです!」


アメリー様も追随ついずい

まあ、それはもっともだな。


しかし、ジョルジエット様の今の言葉で、

グレゴワール様は「冒険者が嫌い」だと確定した。


いろいろ状況が見えて来て、俺も今後の対処の仕方も増えて来る。


と、ここでグレゴワール様の反撃。


「先ほどから私を一方的に責めるが、ジョルよ。そもそもお前がわがままを言って、護衛なしで王都の街中へ出かけたのがいけないのだぞ」


ああ、それはもっともっと正論だ。

ジョルジエット様は深く反省すべきだろう。


「ええ、反省しましたわ。でも結果良しで、ございますから」


しれっと反省の弁を述べるジョルジエット様。

平然としている。


ああ、ジョルジエット様はタフだ。

いろいろな意味で。


ここで俺を見据え、ジョルジエット様は言う。


「改めて私からもお礼を申し上げますわ。ロイク・アルシェ様! 私とアメリーをお救い頂きありがとうございます」


頭を丁寧に下げたジョルジエット様は、アメリー様にも頭を下げる。


「アメリーにも深く感謝しますよ、あるじの私をまもろうとして、悪漢に殴られたとは、申し訳ない事をしました」


「いえ、そんな! ジョルジエット様! もったいない!」


愛娘と寄り子の娘のやりとりをうんうんと嬉しそうに見守っていたグレゴワール様。


幕引きへ入る。


「ふむ……では改めて謝礼を渡そう。金貨2,000枚だ。ノータックス、竜金貨で支払うから、たった2枚でかさばらないぞ」


「あ、ありがとうございます」


「うむ、これでロイク君の仕事も完了だな。お疲れさん! で、さよならだ!」


おお!

金貨2,000枚……2,000万円か!

それは凄い!

嬉しい!


ここで補足しよう。

ステディ・リインカネーションのこの異世界の通貨単位は、アウルムという。

1アウルムが1円くらいにあたる。


そして貨幣は小銅貨1枚が1アウルム。

そこから10進法で銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨、

王金貨、竜金貨と続いて行き、最後は神金貨の1億アウルム=1億円だそうだ。


つまり銀貨は1,000円、金貨が1万円換算となる。


ちなみに1億円金貨って、アラン・モーリアの時にはゲームプレイでは手にしたが、

この異世界で生きている内に、リアルで1回くらいは見てみたいものだ。


俺とグレゴワール様が、にこにこしていたら、烈火のごとく怒ったのは、

ジョルジエット様である。


「お父様!!」


「な、何だ、ジョル。目の色を変えて」


「目の色も変わりますわ! 私とアメリーの命が、たった金貨2,000枚ですか?」


「い、いや……そ、相応の謝礼だと思うが……」


「納得いきません!! 安すぎます!! ねえ、アメリー!」 


「はい! ジョルジエット様のおっしゃる通り! 安すぎますわっ!」


ジョルジエット様とアメリー様は大いに憤り、

グレゴワール様を責め立てたのである。 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


まさに嵐のようなジョルジエット様とアメリー様の猛攻。


グレゴワール様は降参し、謝礼金が一気に10倍となった!

金貨2万枚!!

何と何と! ノータックスで2億円である!!


神金貨2枚で払うと言うから、もう夢が叶った!

この目で見れるじゃないか、1枚1億円の神金貨!


すっごく!

嬉しいっす!!


それでもまだまだジョルジエット様とアメリー様は不満な様子。


しかし、これはジョルジエット様とアメリー様の駆け引きだった。


「お父様、まだまだ終わりませんわ。大事な話が残っております。勝手に幕引きなどさせません!」

「ですね!」


「な、何だ? ジョル、アメリー、大事な話とは?」


「お話しする前に約束して頂きますわ。私とアメリー救助の謝礼金額を、金貨2万枚で、お父様に譲歩した代わりに、こちらの要求を無条件でOKして頂きますわ」

「はい! グレゴワール様には、無条件でOKして頂きますわっ!」 


「え? まだ不服なのか! お前達の要求を無条件でOK? 一体なんだ、要求とは?」


「はい、簡単な事だし、我がリヴァロル公爵家の輝かしい未来をひらくきっかけとなる話ですわ。もしもOKしなかったら、お父様とは3か月……いえ、半年間は口を聞きません」


「サニエ子爵家にとっても、大きな吉報ですわ、グレゴワール様!」


「むむむ……仕方がない。そこまで言うのならば……分かった、OKする! 言ってみてくれ、要求とやらを!」


「お父様、約束ですよ」

「はい、私達との約束を破ったら、いけませんよ」


「わ、分かったよ」


よし!

言質げんちを取った!!


満足そうに笑い合う、ジョルジエット様とアメリー様。


ここでジョルジエット様、無言を通すセバスチャンにも呼びかける。


「セバスチャン!」


「は、はいっ!」


「お父様が約束した事、何かあったら、お前にも証人となって貰いますからね!」


「…………………」


ジョルジエット様の言葉に対し、さすがにセバスチャンは了解しなかった。

というか無言を通した。


ここで下手にOKをしたらまずい。

いくらジョルジエット様から、きっついお仕置きをされようとも、

セバスチャンの直接の主人はグレゴワール様だもの。


でもジョルジエット様へ表立って、「証人にはならない」とも言えない辛い立場。


残された対処方法は無言のみ。


まあ主グレゴワール様への忠義を示すには仕方がないなあ……

と、俺は同情した。


しかしジョルジエット様は、ふっと笑った。


この場に第三者のセバスチャンが居て、父と交わしたやりとりの証人となる。

それだけで、ジョルジエット様の計算通りとなるのだ。


うわ、ジョルジエット様、凄い、策士。


そして万全の態勢で、ジョルジエット様、アメリー様の衝撃発言がさく裂する。


「ロイク・アルシェ様と婚約、結婚を前提にした交際のOKですわ!」


「私もジョルジエット様と同じく! ロイク様との結婚を希望致します!」


うっわ!

言っちゃった!

言っちゃったよぉ!


はあ~とため息をつく俺。


「ええええええええええええ~~~!!!!!?????」


一方、グレゴワール様は完全に予想外!

衝撃発言を聞き、驚愕かつ、絶句してしまったのである。

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