第13話 夢
「秘拳・
闘気を纏った手刀で次々にオークの首を跳ね飛ばすと、糸が切れた胴体がゴロンゴロンと地面に転がった。焼き切られたような首の断面から煙が上がっている。
「……ベン君、凄いですね……ちょっと興奮しちゃいました」
「勝手に興奮するな」
「興奮してもいいですか?」
「駄目だ!」
赤髪の女、ビデールは俺の名前と年齢を聞くと、すぐに"ベン君"と呼ぶようになった。
「その拳法が使えれば、スキルなんていらない?」
「そんなことはない。拳法はあくまで拳法だ。スキルのような柔軟性はない。ウチの村でも本当に強い奴はスキル持ちだった」
「怖いところですね。最果ての村は」
ビデールはマント越しに自分の身体を抱きしめながら震え上がる。
「ビデールは何処の出身なんだ?」
「私はこのデンブ王国の南、プーシという港街の出身です。温暖な気候と海鮮が人気のちょっとした観光地で、なかなか賑やかな所なんですよ!」
「プーシ、初めて聞いた街だ。南に行く機会があれば寄ってみよう」
「本当ですか!? ウチの両親が酒場をやってるんで、是非寄ってください! 私と寝たって言えば多分安くになりますよ!」
「……どういうことだ?」
「ほら、私って男の人とベッドに入ると発火しちゃうので……その罪滅ぼし的な意味で飲み代を割引……」
なんだか気の毒になってきた。
「ビデールはスキル無効化のスキルが手に入ったらどうするんだ?」
「そりゃー決まってるでしょ! 今まで出来なかった分、男の人とやりまくって、いい人見つけて結婚します! そして両親の酒場を継げたらいいなって……」
「そうか。見つかるといいな。スキル無効化のスキル」
「ありがとうございます! ところで、ベン君はなんでダンジョンに潜ってるんですか?」
「別に、ありふれた理由だ。村での生活に飽きた若者が一旗あげようと思えば、冒険者になってダンジョンに潜るしかないだろ?」
「うーん、ちょっと意外です」
ビデールは首を捻って唸る。
「そうか?」
「ベン君って落ち着いてて他の新人冒険者とは違うから。有名になるぞー! みたいなノリがないし。何か他の目的があるのかと思いました」
「他の目的か……」
「あるんですか? これはありますね! あるある!」
グイっと身体を寄せて問い詰めてくる。逃さないという気迫が凄い。まぁ、隠すことでもないし、いいか。
「……俺が10歳の頃、父親がいなくなったんだ。"この世で一番デカい肛門をのぞいてくる"とだけ言って」
「この世で一番デカい肛門……」
「そうだ。ちょっと気にならないか?」
「いや、あんまり……」
「夢のない奴だ」
「ひどい!」
「お、どうやらついたようだぞ。魔結晶の鉱床に」
壁を灯りで照らすと魔結晶がキラキラと反射する。これはなかなかの量だ。ゴブリンダンジョンよりも稼げるな。
「よーし、スキル入りを見つけますよー! ちょっと興奮してきましたー!」
「落ち着け!!」
ビデールは瞳を輝かせながら、魔結晶の採取を始めた。スキル入りの魔結晶が見つかるといいのだが……。
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