最終章・雪原の決戦……そして、さらなる狂愛へ

第9話・非人道兵器【サイバァ】

 雪原の硬直対立していた二つの自治区州小国を裏から煽り、内戦に発展させ弱体化させ。

 その隙に乗じて両国の支配化に成功した、派遣将軍フリュ・ギアが雪原に作られた雪の出城に戻ってきた。


「ただいまピョン…… 二つの自治区州小国を制圧してきたピョン……母さん、外は寒かったねぇ」

 前髪を指先でいじくりながら、男装の犯罪卿アルメ・ニアが応える。

「おかえり、お兄ちゃん……温かい飲み物用意してあるよ」


 デス家とイザーヤ・ペンライトの攻防は。ずっと続いていた……勝ったり、負けたりの一進一退

で。派手なバトルというよりは北方地域の性質上、知的な読み合いでの勝敗が主流だった。


 温かい飲み物を飲みながらギアが呟く。

「戦わずして勝つのが、良戦だピョン……この間は魔女皇女イザーヤ・ペンライトに、川上から『パープルサーモン』の天敵となる肉食動物の毛皮の匂いを流されて、川が逆流してくる時期に遡上してくるパープルサーモンが天敵の匂いに恐れて、遡上してこなかったビョン……デス家兵士の食糧確保ができなくて、撤退させられたピョン」



『パープルサーモン』食用魚──北方地域固有種、一年に数日間だけ、大河が逆流してくる自然現象を利用して遡上してきて産卵する。大河が紫色に染まる光景は圧巻である。



 前髪をいじくりながらニアが言った。

「魔女皇女もなかなかの、知恵者だからね──あっ、そう言えばキリル・キルさまから。例の 兵器に改良流用したパワーアシスト装置の実戦配備が決定したって」


 黒髪のメイドが持ってきた図面をギアに見せるニア。

 そこには、人間の側面に装着した外骨格のゼンマイ仕掛け機械が、ペン画で描かれていた。

 顔をしかめる、派遣将軍。

「悪魔的な発想の兵器だピョン……デス家への裏切り者や、生産性が無い不要な者に装着して、無理矢理使い捨ての兵士として再利用するなんてピョン」

「新兵器の命名を任されていたから【サイバァ】と名づけた」

「サイバァ……サイバァ攻撃ピョン」


 黒髪のメイドが横から口を挟む。

「あたしも、これは少し酷すぎると思います」

 ニアがメイドを睨みつける。

「あたし?」

「い、いいえっ、ボクも少し酷すぎると」

 椅子から立ち上がる犯罪卿。

「ちょうど、数体サイバァのサンプルが届いているから……お兄ちゃん、ついてきて」

 ニアに案内されて入った雪壁の部屋には、サイバァを強制装着された三人の人間が立っていた。

 サイバァの近くには屈強なデス家兵士が数名立っていて。空のサイバァが一体あった。


 ニアが一体づつ説明する。

「この顔色が悪い貧弱な老人は、生産性が無くなった老人……死ぬまでのわずかな命の炎、デス家の為にサイバァ兵となって奉仕しろ」

 老人の片方の腕には鋭い剣がボルトで固定装着されていた。


 次にニアが紹介したのは、口に棒状の猿ぐつわを咥えさせられた知識人だった──片腕は球状のハンマーになっている。

「この男はデス家の侵攻に反対している活動家、街頭で民衆にデス家批判を繰り返していた……死体になって朽ちるまで、サイバァを装着して戦闘に従事させてやる」

「朽ちてサイバァから、外れたらどうするピョン?」

「その時は、洗浄して消毒して別の人間に装着するの……資源をムダにしないエコな、アイデアでしょう」


 ニアは、三人目のサイバァを装着された、恐怖に震える若い男の説明をする。

「この男は、酒場で酔った勢いでデス・ウィズさまに対する悪口をバラ蒔いていた者……終身サイバァ刑だ」

「一体、空のサイバァがあるピョン?」

「それはね、お兄ちゃん」

 ニアは、部屋にサイバァの図を持ってきた黒髪のメイドを指差す。

「こいつを入れるための、鳥カゴだぁ!」

 両側からデス家兵士に捕らえられた、メイドの顔色が蒼白になる。


 デス家兵士がメイドのポケットから折り畳んだ用紙と、指輪を取り出した。

 指輪と用紙を兵士から受け取って、ニアが言った。

「机の中から囮の機密文書を盗み出したのは、高く売るため? それとも誰かに盗んでくるように頼まれたの? 犯罪卿の机の中から、指輪まで盗んだのは失敗だったわね……屍になるまで、サイバァの一部になりなさい」

「ひっ! いやぁぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴を発するメイドの体が、強引に非人道兵器に装着される──メイドの片腕には、伸び縮みする槍がボルト固定された。

 ギアがニアに質問する。

「サイバァのゼンマイが切れそうになったら、どうするんだピョン?」

「その時は、別のサイバァがネジ巻きをするから大丈夫だよ、お兄ちゃん……サイバァは、半永久的機関だよ」

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