第348話 それぞれの思惑と

 今回のフェニックスハイランドでの一件は、なかなか告白してこない俺にしびれを切らしたミライが、俺が絶対に告白しなければいけないように仕向けただけだった。


 世界が窮地に陥って、自分が告白することでしか世界を救えないなら、さすがの誠道さんでも告白できるだろう。


 そう考えて、今回の作戦を決行したらしい。


 ゲンシドラゴンもアテウ・マークも、実は創流御九条さんが作ったロボットで、聖ちゃんたちも紫色のカラコン(これも創流御九条さんの発明品)を装着して、操られたふりをしているだけだった。


 つまり、俺はミライが書いた脚本上で踊らされていただけだったのだ。


「でもすごいですね。アテウ・マークもゲンシドラゴンもロボットとは思えない動きの滑らかさでしたし」


「当然なのだが」


 魔法使いっぽい衣装なのに実は発明家である創流御九条さんは、マントをばさりと翻しながらうなずいた。


 あれ、もしかしてこいつも普通にナルシストか?


 すごいって褒めたら当然のように肯定しやがったし。


「しかし、あんな巨大なドラゴン、この長いマントが邪魔で本当に作りにくかったよ」


「え? 脱げばいいだけじゃないですか。発明家にマントなんて必要ないんだし」


「誠道くん」


 俺が当たり前のことを指摘すると、創流御九条さんはあからさまな溜息をついた。


「君はなにもわかっていない。そういうことじゃないんだよ」


 いや、わかってるしそういうことだと思うんですけど。


「そんなことよりも、ミライさん」


 創流御九条さんがミライに目を向けて、その長髪をさらりと靡かせる。


「どうだったかい? 僕の作ったドラゴンは。びっくりしただろう。ピュアな二人の力になりたくて、僕のサービス精神が大爆発しちゃったんだよ」


「ありがとう。九条お兄ちゃん」


 ミライがなにか言う前に、創流御九条さんのもとにてくてくと歩いていったジツハフくんが、なぜかお礼を言っている。


「僕の願いも叶えてくれたんだよね。ドラゴン型ロボットに乗ってみたいっていう願いを」


「まあ、そういうことにもなるかな。君の願いは叶えておかないと、君のお姉さんからなにをされるかわからないからね」


「僕もそう思って、わがままは隠さないことにしているんだ」


 にぱっと満面の笑みを浮かべたジツハフくん。


 あれ?


 今ジツハフくん、さらっと爆弾発言しなかった?


 ジツハフくんってお姉ちゃんを愛しているんじゃなくて、お姉ちゃんをいいように利用してるだけ?


 そんなことないよね。


 だってジツハフくんはまだ、純真無垢で幼気な子供なんだから。


「なるほど。それで二人はいなくて代わりにドラゴンが……そういうことだったんですね」


 ミライは深くうなずいている。


「あのドラゴンには驚きました。私の書いた脚本には存在しなかったので、出てきたときは焦りました。失言しかけましたよ」


 その言葉を聞きつつ……俺はとあることにようやく気がついた。


「本当に『原作者のミライが知らないドラゴン』だったのかよ!」


 適当な名前つけやがって、とか思ってたけど事実だったのね。


 ごめんなさい。


「謙遜はよしてください、ミライさん」


 創流御九条さんがミライを褒めはじめる。


「ドラゴン登場からのあなたのアドリブは、本当に素晴らしかったです」


「褒めないでください。あれくらい当然ですよ。私は超優秀なメイドですからね」


「いや、本当に優秀なメイドは『原作者の知らないドラゴン』とかいうバレそうな名前つけないと思うぞ。なんなら失言しまくってたぞ」


 だってミライは、ゲンシドラゴンにジツハフくんと同乗していたイツモフさんに対して、


『早く敵として現れてくださーい。みんなだって操られているんですよー。ここは敵になる場面ですよねー。そういう展開ですよねー。自分の役割を遂行してくださーい』


 って叫んでたんだから。


 めちゃくちゃ脚本に執着していて、全然アドリブに対応できてなかったんだから。


「なぁなぁ」


 そのとき、禿げ散らかしたおじさん――リト・ディアさんが俺の肩をツンツンしてきた。


「ちなみに、アテウ・マークが発生させた魔法陣とか、ゲンシドラゴンの黒いブレスとか、全部わしが遠隔で出してたま・ほ・う。すごくない? ねぇ、あんな強い魔法を放てるわしすごくない? イケメンじゃない?」


「はいはい、イケメンかどうかは置いといて確かにすごいですね」


 褒めてくれオーラが半端なかったので、仕方なく褒めてやると。


「そうだろうそうだろう。あの時間を止める魔法もすごくない? あれ使えるの、この世界でわしだけだぞ」


 もっと褒めてぇ、みたいな目をして更なる自慢をしてきた。


「あれ? その魔法ってマーズが使ったんじゃ、ってかマーズは魔力をすべて……いや、ミライの脚本でみんなが演技してたってことは」


「ええ。私は魔力を失ってなどいないわよ」


 鞭に縛られたままのマーズが平然とそう答える。


 なんだ、それならよかった。


「いや普通によくなかったわ! 俺たち普通にゲンシドラゴンにやられかけてたんだけど! 普通にかなりのダメージ受けてるんだけど!」


 あの痛みが本物だったからこそ、あそこまでの絶望を覚えたのだ。


「なにを言っておるのじゃ、この男は」


 禿げ散らかしたおじさんであるリト・ディアが、俺を冷めた目で見ながらつづける。


「むしろわしたちはご褒美を与えていたんじゃが。そこのミライさんから、『二人はドMだから遠慮なく攻撃を仕掛けてくれ、それがご褒美になる』と言われていたから、その通りにしたまでじゃが」


「僕もそうだよ」


 ゲンシドラゴンを操っていたジツハフくんもつづく。


「誠道お兄ちゃんたちを傷つけるのは心苦しかったけど、僕は心を鬼にしてストレス発散……じゃなくてピンチを作って誠道お兄ちゃんが告白できるよう、ミライお姉ちゃんから言われたことを忠実に守っただけなんだ」


 ジツハフくんが弁明し終えると、操られていたふりをしていた聖ちゃんたちが、うんうんとうなずきはじめる。


 コハクちゃんにいたっては『これが誰かに必要とされることなんですねぇ』とつぶやいていた……後でその誤解は解いておかないと。


 そういえば、なんかやけにコハクちゃんの攻撃をマーズが受けていた気がするけど、そこに対する考察はもういいや。


「なるほど。だから俺と同じドMのマーズは操られてなかったのか。罪悪感なく攻撃をする対象として……って俺はドMじゃねぇから! ってかそもそも、こんな回りくどいことする必要あったのかよ!」


「緊迫感のためです! 誠道さんが告白してこないせいで、現実味を持たせるために私まで攻撃を何度も受けたんですよ! 大切な彼女を傷つけさせるなんて彼氏としてどうなんですか! 逆に誠道さんが謝るべきです! このままだとDV彼氏まっしぐらです!」


「そんな暴論許されるかぁ!」


「みんな! 私にはこれからもどんどん攻撃してきていいのよ! 特にコハクちゃん! あなたの攻撃はとてもよかったわ!」


「ありがとうございますマーズさん! でも恩人であるマーズさんにはもう攻撃はできません」


「そんなぁ」


「マーズもコハクちゃんもいいかげんにしろよ!」


 暴走している二人にツッコんでから、俺は誤魔化すように前髪をいじりつつ。


「ってかさミライ、そもそも前提が間違ってんだけど」

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