第288話 ミライの案、聖ちゃんの案
「でも、どうするんですか? 誠道さん」
神妙な面持ちのミライに尋ねられる。
「どうするって?」
「いや、この大会にエントリーしてるんですよね? 正直な話、誠道さんが本気を出せば、一勝もできないなんてことはあり得ないと思います」
「一生どころか、全勝するつもりだけど。だってそうすればハーレム確定――はっ、ミライはめやがったな! 何度も言うが俺は純然たる向上心で」
「今回は誠道さんが勝手にはまっただけのような気がするんですけど」
不服そうに首を振ったミライがつづける。
「そうではなくて、誠道さんが勝つということは、誠道さんが女化してしまうということなんですよ」
あ、たしかに。
この戦いで勝ってしまったら、俺は女化して奴隷になってしまう。
卑しい変態性獣貴族たちの慰み者になってしまう。
「それはたしかにいや」
「そういうことです!」
嫌だな、と言おうとしたら、なぜか興奮状態の聖ちゃんに言葉を遮られた。
なにが『そういうこと』なのかわからないので、目で聖ちゃんにつづきを促す。
聖ちゃんはえっへんと胸を張ってからはなしはじめた。
「誠道さんは女になってしまうこの大会に参加した。つまり! 誠道さんは睾丸をむしり取られたいという欲求を心に秘めていたんです! ってことは私が最初に言った通り、誠道さんは私に睾丸を取らせる約束をしているようなものなのです!」
「全然理屈になってないわ!! この大会の闇を知ってたら参加してないからね!」
ここはきちんと否定しておかないと、俺の立場も睾丸も性別も危うくなってしまう。
「ってかこんな危ない大会、いくら俺が純然たる向上心の持ち主でも、参加するわけないだろ。普通に辞退するよ……って」
喋っている最中に、俺は自分の手の甲にある魔方陣を見て、背筋が凍りついた。
「……ああっ!! 百那由多持ってねぇから辞退できないじゃんか!」
もしこのままバックレれば、この魔法陣が爆発してしまう。
体中から汗が吹き出し、冷静という言葉を忘れる。
このままじゃ、俺は睾丸を取られて、女になってしまう!
「おいおいどうすればいいんだよ。百那由多なんて払えるわけがないんだが!」
「大丈夫です。安心してください」
慌てふためく俺の肩にミライがポンと手を乗せる。
ミライの穏やかな微笑みを見て、なんだかちょっとだけ落ち着きを取りもどすことが出来た。
「百那由多リスズが払えない? それがどうしたんですか? お金がないなら借金すればいいじゃないですか」
「マリーアントワネットみたいに言うな! そんなこと言ってると斬首されるから! 一生肉体労働しても返せないから!」
「じゃあどうするんですか? このまま女になって奴隷になるのと、百那由多リスズの借金、どっちいいんですか?」
「どっちも嫌だよ!」
「わかりました。じゃあここは間を取って、女性奴隷になった誠道さんを、私が百那由多リスズで買い戻します」
「それだとどっちも背負ってんじゃねぇか! どこが間なんだよ! 一石二鳥、ただし悪い場合の、じゃねぇか!」
ああ、やっぱりミライはミライでした。
「あのぉ」
俺とミライの言い争いに、おずおずと手を上げた聖ちゃんが割って入る。
「別に、大会に参加して、ただ負けたらいいだけなのでは? 買ってしまえば女性奴隷にされてしまう。この真実を知っているのは私たちだけなので」
「……そうじゃん! でかした聖ちゃん! ただ負ければいいだけじゃん!」
俺は聖ちゃんの手を取り、大げさに感謝を伝える。
でも、普通に考えたらそうだよな。
冷静さを失ってしまったら、こんな簡単な解決策も思いつかないようになるんだな。
「あのぉ、そこまで感謝しているなら、見返りに誠道さんのこうが」
「ごめん。それとこれとは話が別だから!」
こうして俺の最弱を目指す戦いが、いま幕を開ける!!
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