第286話 ある意味真の勇者
「現実的かどうかは関係ありません。だって実際に去勢大会は開催されるんですから」
「だから今回の大会は『勝者はハーレム確定? 美女にあーんなことやこーんなこと、なんでも好きなことができる? ドキドキ、真夏のラッキーボーイ決定戦!』だろうが。どこに去勢要素があるんだよ」
そもそもさ、厳密にいえば去勢と睾丸をむしり取るって、違う行為だよね?
やってることは同じだけど、違うことだよね?
整形外科医? それとも生物学者?
そこんところ詳しく説明してほしいよ
「だから、その大会名自体が間違いなんです。そんなアホ丸出しの大会名はの八十年代のアイドルが参加する水泳大会という名の合コンテレビ番組にしか使われません!」
いいですか、と聖ちゃんがつづけざまに今回の大会の隠された真実を話してくれる。
「この大会の主催者は、元悪魔軍幹部の経理担当」
「ちょっと待て。経理担当ってなんだよ」
「いきなり話の腰を折らないでください」
「なんで悪魔軍っていう非現実的なワードに経理っていう現実的なワードがくっつくんだよ。おかしいだろ!」
「どんな世界でもお金の流れをきちんとすることは大事です。常識ですよね?」
「うわぁ、普段は睾丸だのぐちゃぐちゃだのしか言わない聖ちゃんが、珍しくまともなこと言ってるよ」
「なんだかすごくバカにされていますよね。ぐちゃぐちゃ道を究めることはこの世の真理なのに。明日の朝、誠道さんの股間が軽くなっていないといいですね」
「怖いこと言わないで。本当にすみませんでした」
ちょっとだけバカにし返したら、黒い笑みを浮かべる聖ちゃんに睾丸の殺害予告をされてしまった。
ただ、ぐちゃぐちゃ道を究めてもその先に心理は待っていないと思うとだけ、声を大にして言いたい。
「とにかく、この大会の主催者は、元悪魔軍幹部の経理担当、ゼイ・ダッツ・オリョウという人型の魔物で、性別は女だったはずです」
「……なぁ、ミライ。俺はいますぐにでも名前の件に関してツッコみたいんだけど」
「誠道さん。ここは我慢です。でないと誠道さんの睾丸が本当に危ういです」
ミライに宥められたおかげでなんとかツッコみ欲を制御することに成功する。
聖ちゃんの話はつづく。
「オリョウは魔王軍の経理担当でしたが、お金にがめつい性格なこともあって、魔王軍の資金をあらゆる不正を用いて自分のお金に換え、贅沢三昧をしていました。その結果、魔王軍の資金は枯渇し、弱体化。そんな魔王軍を見限って、オリョウは軍の資金をすべて持ち去って逃走。その後、勇者が魔王を倒し、現在に至ります」
ああ、我慢だ、誠道。
話が逸れていることはわかっているし、話の内容もツッコみどころ満載だが、聖ちゃんは、きっと自分の調べたことを語りたいだけなのだ。
自分の頑張りを誰かに誇りたいだけなのだ。
幼い子供によくある、話したいことがいっぱいでとっちらかってるやつなのだ。
「つまり! オリョウがいなければ魔王を倒すことはできなかった。オリョウのおかげで魔王は討伐された。つまりオリョウこそが影の英雄、真の勇者だと言っても過言ではないのです!」
「関係なくなっちゃってるから! 結構序盤で関係なくなっちゃってるから!」
ついに我慢ができなくなってしまう。
なんだか埼玉県出身の芸人の漫才終わりみたいなツッコみをしてしまった。
体がぽかぽかしてきたなぁ。
「ってか魔王かわいそうだな! 本当にお金の流れの把握は大事だったね。もし俺が社長になったら、経理はもっとも信頼のおける人を任命するよ」
「誠道さん。また話の腰を折りましたね。何度も言わせないでください。いいかげんあなたの睾丸を」
「聖さん。話がいつの間にかオリョウさん自体の説明になっています。私たちが聞きたいのは、この大会についての詳細なんですが」
「あ、そうでしたね。私ったらつい関係のないことまで。すみません、ミライさん」
ミライの忠告を聞いて、素直に引き下がってぺこりと頭を下げる聖ちゃん。
あれぇ、なんでミライには素直に従うのぉ。
俺の立場って、そんなに下なのぉ。
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