第280話 新種の転売対策
「いや、ミライが言ってたことだろ。このゲームなかなか売ってなくて、プレミアで、残りひとつって」
「誠道さんはなにを勘違いしてるんですか? このゲームは人気ではありませんよ?」
「は? でも転売できるって」
「私は、転売というあくどい商売を持ち掛けてきた誠道さんに、『転売なんかできるわけない』って言っただけですよ」
「だからさ、それってつまりこの人生ゲームが、手放したくないほど価値があるものってことだろ」
「手放したくないのは事実ですが、このリアルマネー人生ゲームは現実的に転売できないんです」
「……ごめん。なんか話がすれ違ってるんだけど、アンジャってるんだけど、一から説明してくれる?」
「仕方ないですねぇ」
ミライは面倒くさそうにため息をついたあと、流暢に話しはじめた。
「まず、私は創流雅さんの作品をすごく面白そうだと思って、琴線を激しく揺さぶられまして、ずっと買いたいと思っていたのは事実です」
うん、そこまでは理解してるよ。
アイドルに金銭を貢ぐオタクよろしく、創流雅に金銭を搾り取られてるもんね。
「ただ、それはあくまで私の主観です。誠道さんはこの商品を人気で品薄、手放したくないほど価値があるとおっしゃいましたが、実はすべて逆なんです」
「逆……って?」
「創流雅さんの作品は人気がないのに高い値段なので売れ残りが連続、返品殺到。その結果、創流雅さん自体の作家としての信頼がなくなり、どの店も創流雅さんの作品を扱わなくなりました。だからこそ、土産店の奥に眠っている創流雅さんの作品を見たとき、本当にラッキーだと思ったんです。人気がないせいでどこも取り扱おうとしない商品が見つかった。私はなんて幸せ者なんだろうと」
「最近のカードゲーム市場の逆パターンかよ! 大人が買い占めるせいで品薄になってどこにも売ってないんじゃないのかよ!」
そんな珍しいパターンあるんですね!
「勝手に勘違いしないでください。そもそも品薄って表現も、なんといいますか、ねぇ」
ミライは腹を抱えて笑いはじめる。
「この人が作るものは一点ものですよ。どうも一回作ると満足して興味を失くすらしくて。そういう意味では常時品薄でどこにも売っていないプレミア価格の人気商品と言っても過言ではありませんね!」
「過言だろ! かかか過言くらいだわ!」
「しかも誠道さんの言う通り、人気がないので、カードゲーム市場とは違って転売ヤーが儲けることもできない。そういう意味でも素晴らしい商品ですね」
「褒めてるのか貶してるのかわかんなくなってきたよ」
その後、俺たちはなんとかこのメンタルブレイククソリアルマネー闇堕ち人生の辛さ身に染みるゲームをクリアした。
が、俺は人生の残酷さに打ちのめされて、心に深い傷を負った。
ただ、最後のマスに『二人は幸せに暮らしましたとさ、だから一生散財生活』と書かれてあって、恥ずかしいやらムカつくやら。
なに?
俺は一生散財するの?
ってこれだと俺がミライと一生いるってことになるじゃん。
まあ、別に進んで離れるつもりもないけど。
俺がミライを見放さないのは、奇跡じゃなくて心の問題だし。
「これ……最後の、マス……」
ミライは最後のマスを見たとたん無言になって、ちょっとだけ気まずくなる。
俺は思わず顔を逸らし、それからしばらくの間ミライの方を見ることができなかった。
元の世界に帰還したあと目の前に現れた借用書の金額も見ることができなかった。
創流雅のやろう。
絶対あったら文句言ってやるからな!
クレーマー上等だよ!
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