第256話 ユニコーンと同じにおい
「とにかく、どうしてジツハフくんはあんな茶番をしていたのかな?」
「誠道お兄ちゃんは大人なのにそんな簡単なこともわからないの?」
「こいつ無駄に煽りやがって。子供のくせに生意気な」
「そうやって〇〇のくせにって誰かを否定する大人にはなりたくないよね。視野が狭い証拠だよ」
「だからさっきから大人みたいなこと言うなよ!」
なんならジツハフくんの語彙力は昔と比べて進化してあるまである。
アメリカで暮らしていたら絶対に飛び級するタイプの子供だ。
「誠道さん、いい加減落ち着いてください。話が一向に進みません」
ぐぬぬと歯噛みする俺の肩に、ミライが手を乗せて宥めてくる。
それから、ミライは目でジツハフくんにつづきを話すように促した。
「わかった。誠道お兄ちゃんのために、わかりやすい言葉を使って話すよ」
「おいまたこいつ」
「誠道さん。静かに。子供にキレるなんて教育的によくないです」
なぜ俺が怒られているのでしょうか。
教育的観点から見ても、大人を煽るジツハフくんを指導すべきだと思うんだが。
まあ、とにかく、ジツハフくんの話をまとめると、こういうことだ。
大人の前で迷子だと主張することで、迷子センターに連れていってもらえる。
その途中にある食べ物の屋台の前で、お腹すいたと駄々をこねて泣くという純真力を使えばかわいそうに思われてタダ飯ゲット。
しかもその店はイツモフさんがやっている店だから、売り上げにも貢献できる!
「ふざけんな! 迷子の子猫ちゃん詐欺ってか。アカデミー自作自演賞授賞おめでとうだよ!」
「さっきからなに言ってるの? ただの創意工夫だよ?」
「ただの詐欺なんだよ!」
「そうか、創意工夫って言葉が難しかったんだね」
「それくらい知ってるわ!」
ってかそもそも子供が純真なんて言葉を使うなよ。
純真じゃなく見えるぞ。
ジツハフくんのせいでツッコみまくるはめになった俺は、海で泳ぎまくった後みたいに疲れてしまった。
「まあでも、今回のお姉ちゃんの屋台は姑息な――迷子の子猫ちゃん詐――高尚な泣き虫大作戦を取らなくても大繁盛なんだけどね」
「言い間違えるってことは罪の意識があるんですね! ってか姑息も高尚も大人しか使わない言葉だから!」
「僕はまだいたいけな子供だよ。とにかく、誠道お兄ちゃんたちもよかったらお姉ちゃんの海の家においでよ。うちの店ではね……ほら、あれ、あれを売ってるんだ」
ジツハフくんが指差した先には、イカ焼き? のような食べ物を持った女性客がいた。
醤油の香ばしい匂いとともに、その女性客の声が聞こえてくる。
「ほんとおいしいね。このクラーケン焼き」
「こんな高級食材をあんなに安く売ってるなんて、ほんと、私たち運がいいわ」
あれ。
なんか俺、この感じ知ってるんだけど。
イツモフさんは前に、ユニコーソの角をユニコーンの角と偽って販売していたことがある。
そして、今回販売してるのはクラーケン焼き。
ユニコーンと同じで、クラーケンも最後の文字がン。
まさかね。
そんな都合よくクラーケソなんて生き物がいるわけないよ。
いや、なんか傾向的にクラーゲソなんてのがいそうな気がしなくもない。
クラゲとゲソを混ぜた感じだし。
この異世界はそういうことばっかりだ!
「どう? クラーケン焼きをお求めやすい価格で売ってるなんて、すごいでしょ?」
イツモフくんは自慢げに胸を逸らし。
「誠道お兄ちゃんたちにはお世話になってるから、特別に海の家ぼったくり価格から一割引で売ってくれるよう頼んであげるね」
「いやまず海の家ぼったくり価格をやめろよ!」
「ただ、お姉ちゃんへの割引依頼料として価格に30パーセント上乗せするけどね」
「普通に買うより高くなってんじゃねぇか!」
「誠道さん! 1割引ですって。すごいお得じゃないですか!」
「ミライはタイムセールしてるってだけで無駄なもの買って結局予算オーバーするダメ主婦みたいなこと言わないで!」
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