第250話 たしかに言ってないね
「なんだよ、汚れてるものあるじゃんか」
「はい。これはこの前誠道さんが、『今日は俺が料理作るから。ミライは休んでて』と前髪をなびかせながら宣言して料理をしたときに使ったフライパンです」
「え……」
なんだかちょっと流れが変わったような。
「たぶんだけど、前髪なびかせながらなんて言ってないから。ちび〇こちゃんの花〇君か!」
「こういうのって本当に迷惑なんですよね。片づけまでが料理のはずなのに、たいていの男は料理をするだけでいいと思っている」
ああ、腕を組んだミライのジト目が怖すぎます。
「それは……すみませ」
「しかも! それで家事を手伝った気になってあとはずっとソファでふんぞり返る。俺がお前を休ませてやった感を出してくる。こんなので感謝できるわけがありません。家事を舐めないでください」
「本当にすみませ」
「挙句の果てには、俺の作った料理も意外といけるなぁ、なんて、材料費のことなんて考えもせずに作った料理を自慢する」
「だから本当にすみま……ん?」
さっきから謝りつづけているが……あれ?
なんか引っかかるなぁ。
「まったくもう。味と節約。両方を兼ね備えてこその食卓だというのに」
「節約なんてどの口が言ってんだよ! その論を推し進めるならミライもちゃんとできてねぇじゃねぇか!」
なんせ豪遊の大魔神だからなぁ!
「え? 私が節約できてない?」
「そこでとぼける度胸には感服するよ」
「あれを忘れたんですか?」
ミライがぴしっと指さした先には、99パーセント引きの商品たちの山がある。
「でもな、いくら値引きされてても騙されてちゃあ」
「ほら見てください。誠道さんが片づけを怠ったばかりに汚れがこびりついてしまったフライパンを、節約上手の私が買ってきた、99パーセント引きのシールが貼られた雑巾で、新品同様に綺麗にしてあげましたよ」
「ぐぬぬ……」
これみよがしにぴかぴかと輝くフライパンを見せつけられ、思わず歯噛みする。
くそぉ。
この雑巾の性能は本物だった。
ここまで見事に、完膚なきまでにミライに言い負かされるなんて。
「誠道さん、なにか言うことはありませんか?」
「……ありがとう。今度からは片づけまでちゃんとするよ」
「わかればいいのです、わかれば」
一仕事終えた達成感に浸っているのか、ミライは冷蔵庫から水を取り出すと、それがキンキンに冷えたビールかのようにごくごくと喉に流し込んでいった。
「ぷはぁ。これで誠道さんにも料理を作ることの苦労がわかってもらえましたか」
「ああ。肝に銘じておくよ」
それから、とぼとぼとソファへと舞い戻る俺の背後で。
「ふぅ、なんとか納得してもらえました。わざわざ汚れたフライパンを保存して、バカ高い雑巾を買ってきた甲斐がありましたね。買った後で値引きシールを貼るなんて手法を思いつくとは、私はなんて優秀なメイドなのでしょう」
「……え、今なんつった?」
「ですから! 買った後で値引きシールを貼ったと」
「はぁあああああああああああっ?」
俺はミライに詰め寄る。
「買った後で、って、じゃあつまりこの雑巾は値引きされて」
「はい。きちんと五万エリスで買いました。というより袋の中に入っている商品はすべて定価で買っています」
「ふざけんな! なにが節約上手だ! ただのバカじゃねぇかよ!」
「勘違いしてもらっては困ります。『私は99パーセント引きのシールが貼られた』とは言いましたが『99パーセントオフで買った』とは一言も言ってませんよ」
「屁理屈の極みだな! 詐欺師の手法だろそれ」
「そもそも99パーセントオフで買えるものなんて不良品に決まってるじゃないですか。本当にいいものは定価より高値で取引されるものなんです。商売ですから」
「やっぱり通販番組に謝れぇ!」
企業努力を重ねて、いい商品をなるべく安く売るのが通販番組だからな!
「どうしてですか。この雑巾がいいものだったから、誠道さんはこの99パーセント引きシール作戦にひっかかったのです。このシールを定価の99パーセント増しで買った甲斐がありました」
「割引シールを割高で買うやつが商売を語るな! 意味わかんねぇから! 詐欺師かと思ったらやっぱりただのカモメイドじゃねぇかよ!」
俺がツッコみ終えて肩で息をしていると。
「すみません。誠道さん、いますか」
コンコンと玄関扉がノックされる音とともに、コハクちゃんの可愛らしい声が聞こえてきた。
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