第222話 キャラづくりは大変だ
「ごめん。二人の気持ちはよくわかったけどさ、この深刻な状況を打破するため俺に相談する理由がわからないんだけど」
こいつらがキャラを濃くしたいと思っていることはわかった。
でもだったら俺に聞くのはお門違いじゃないか。
だって俺、キャラが濃い自覚ないもん。
ただ引きこもりなだけの、どこにでもいるような普通の男だもん。
「なにを言っているんだ」
真枝務が目を見開いて、大げさに驚く。
「誠道くんは、引きこもりという強烈な個性があるにもかかわらず、さらにドMというキャラまで確立させた。最近ではドM一本で突き進もうとしているようにも見える。個性の問題を個性の塊に聞くのが一番だと思うのは普通のことだろ?」
「だから俺はドMじゃねぇよ! それと引きこもりを個性って言うな! 悲しくなるだろうが!」
「誠道さん」
ミライが優しく俺の肩に手を置き、そっと微笑む。
「自らの個性を否定してはいけません。自分の個性を認めないと、誠道さんを愛している周りの人も、誠道さん自身の心すらも悲しませます。ありのままを受け入れましょうよ」
「ミライは明らかにからかってるよな。ってかそもそも心出が個性の塊なんだから、心出に聞けばいいだろ!」
あいつ、バカでまっすぐでケモナーでストーカー気質っていうキャラ渋滞を起こしてるんだろ?
「それはすでにやってるよ」
真枝務が心底呆れたようにため息をつく。
「皇帝さんに相談しても、『すべての人間はそこにいるだけで素晴らしいんだ』としか言ってくれないんだ。本当にしょうもない」
「心出めちゃくちゃいいこと言ってんじゃねぇか!」
あと本当にお前らは心出を尊敬してるんだよね?
「いや、皇帝さんが言ってることなんてただの綺麗事だよ。自分は強烈なキャラを持ってるくせに。成功者がいう綺麗事は、寝てない自慢と一緒でうざいだけ。普段からあの人は綺麗事の悪魔なんだ」
「お前らの捻くれた愚痴も相当うざいけどなぁ」
なんかこいつらの相談に乗っていることが時間の無駄に感じはじめた。
もういいか。
適当にアドバイスして帰ってもらおう。
「あっ!」
そのとき、真枝務が急に目を輝かせた。
「いまいいキャラを思いついた気がする! 誠道くん、意見を聞かせてくれ」
真枝務はそう言うと、ごほんと咳払いをしてから、にやにやしはじめる。
「アイドルと知り合いなんて、誠道くんやりますねぇ。まるでリバーシ弱い人じゃないですかぁ」
「なるほど、どっちも『すみにおけない』ってか。絶対に謎かけキャラなんてやめた方がいいぞ! 色んな意味で大変だから!」
毎回考えるの絶対面倒になって、あとで後悔するやつだから!
後悔するやつが誰か、とは言及しないけども!
「そんなぁ。せっかくいい個性が浮かんだと思ったのに」
「がっかりしているとこ悪いが、いいか、真枝務、光聖志。一朝一夕で作られた個性なんて個性じゃないんだから、心出の言う通り、ありのままの自分を大事してあげた方がいい」
「私もそう思います」
ミライも二人の説得に加わる。
「長い間引きこもることで、ようやく引きこもりを個性に昇華させた誠道さんの言葉は、どこかのケモナーさんと違って説得力が段違いだと思いませんか?」
「うん、ミライはもう黙ろうか」
「「たしかに……」」
「二人はそんな簡単に納得すんな」
さっきの言葉で説得されたなんて……俺、泣いてもいいですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます