第212話 ぷりちー色に燃え盛る大地

「はーい」


 と、ミライがリビングを出ていく。


 ……あ、聞き逃しちゃった、さっきのこと。


「誠道さーん! 誠道さんに会いにきた方がいらっしゃってますー!」


「え? 俺に?」


 ミライに呼ばれたため、俺は立ち上がる――正座をしていたため、産み落とされて間もない小鹿みたいに足ががくがくとなってしまった。


 でも、俺に訪問者?


 そんな約束していないが。


 聖ちゃんやマーズとかなら、こんなことせずにミライがリビングに通しているだろうから……いったい誰だ?


 足の痺れも収まったので、俺も玄関の方へ向かう。


「……ええと、どちらさま、で?」


 ミライの後ろ、玄関に立っているのは、薄茶色のマントに身を包み、大きなフードを被った怪しい人。


 顔が口元まで隠れており、男か女かすらも判別できない。


「どちらさまって……やだなぁ」


 男とも女ともとれる、中性的な声が聞こえる。


 だからだれぇ?


 来訪者は不気味に笑いながらそのフードに手をかける。


「わ・た・し、ですよ」


 声が明らかに変わった?


 砂糖菓子みたいに甘い猫なで声、どこかで聞いたことあるんだけど……まさか…………。


「私、あなたにお願いがあって来たんですぅ」


 言い終えると同時に、フードが外される。


 水色の髪の毛がフードの中から現れ、髪の毛のってっぺんでは、可愛らしいアホ毛がひょこっと揺れた。


「まさか君は、ぷりちーアイドルのホンアちゃん?」


 何度も目を瞬かせる俺を見て、また可愛らしいアホ毛がいらずら大成功と言わんばかりに、楽し気に左右に揺れた。


「はいっ。私はみーんなのぷりちーアイドル、ホンアちゃんでーす」


 ホンアちゃんは舞台上で見せてくれたのと同じように、きゃぴっっとウインクを飛ばしてくれる。


 俺のハートはどきゅんと撃ち抜かれた。


 アイドルだからなんだ!


 恋愛禁止だからなんだ!


 大体ここは異世界。


 日本とは違うんだから、よほどのこと……自分たちからバラすくらいの勢いでもなければ、交際がバレるはずがない。


 ホンアちゃんはもじもじ恥ずかしそうに身をよじらせながら、上目遣いで俺を見て。


「あっ、でもいまは、みんなじゃなくて、あなただけのぷりちーアイドルですね」


 もう、俺の心はずきゅん、ばきゅん、ずきゅんだ。


 俺はハートのバキュームカーになったのだろう。


 ハートのバキュームカーってなに?


 そんなこと俺に聞かれても知るかっ!


 恋は頭をおかしくするんだ!


「私、絶対にあなたの彼氏になりたいんです!」


 ああ、俺の世界がぷりちー色に染まりはじめちゃったよ。


「誠道さん。この後お話があります」


 ああ、俺の後ろは燃え盛る大地だ。

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