第204話 可愛いです、やっぱり

「はぁ?! なんだそりゃ」


 ぷんすか頬を膨らませてそっぽを向くミライ。


 なんだそれ。


 ここで、いますぐ褒めろだ?


「早くしないと、私、また借金を作りにいきそうです」


「だからなんだそりゃ」


 意味がわからない。


 有用なやつが言う屁理屈じゃないことはわかるが。


「褒めろ、……ってなぁ」


「さぁ、早くしてください」


 ミライは不機嫌そうに髪をくるくるいじっている。


 不貞腐れている姿も絵になるあたり、ミライはやっぱり美少女だ。


 ……ったく、このモードに入ったミライは本当に面倒くさい。


 面倒くさいのはいつもだった。


 早く褒めないとミライの機嫌が直りそうにないので…………しょうがない、か。


「まあ、その、なんだ」


 顔が熱い。


 やっぱり、こういうのはちょっと苦手だ。


 ムードができ上がっていたり、感情が高ぶっていたり、アドレナリンが出ていたりしたら話は別だが、こういう日常で、いきなりそういうことを言うのは、本当に恥ずかしい。


「さぁ、早く言ってください」


 そっぽを向いているミライだが、ちらちらと期待を込めた目で見てくる。


「……あ、あのぉな、ミライは、その……ありがとう」


「感謝じゃなくて、容姿を褒めてください!」


「容姿っ!?」


「コハクちゃんには可愛いって言ったじゃないですか」


 キレるとこ、そこかよ!


 コハクちゃんは妹的存在っていうか、異性として意識していないからすっと言えただけであってだな……。


 心臓の鼓動が止まらない。


 ……こうなったらもうやけだ!


「ああもうわかったよ! ミライも可愛いよ!」


「ミライ、『も』?」


 髪を耳にかけながら、ゆっくりとこちらを向く。


 も、と発音するためにすぼめられた真っ赤な唇が、いつもよりぷっくりして色っぽく感じるのは気のせいか。


 露になった小ぶりな耳が、ものすごく愛おしく思えるのは気のせいか。


「いやだからその…………ミライの方が、その……すごく可愛いし、いつも俺のために家事やらなにやら働いてくれてありがとう」


 ミライの頬がぽっと赤くなる。


 自分で言えって言ったくせして、言ったら言ったで恥ずかしがるなよ!


「あの……誠道さん」


「えっと……、その、ははは」


 気まずいのにどうしていいかわからなくて、二人して苦笑いを浮かべたあとで黙り込む。


 やがて。


「でも、これで言質は取りましたからね」


 ミライが意を決したように俺の顔をじっと見て、ぽっと頬を赤らめた。


 目と目が会った瞬間、花火が弾けるかのように心臓がどかんと大きく脈打った。


「言質って、いったいなんのことだよ」


「誠道さんがそう言ったんですからね、男に二言はないですよ」


 ミライが唇を尖らせて、こちらを上目づかいで色っぽく見つめてくる。


 ……な、なに?


 そりゃ、可愛いって言ったけど、言わされたけど、本当に可愛いと思ってるけど。


 もう一回言ってってこと?


「ああもうわかったよ」


 こうなったら、誇張して大袈裟に言ってやろう。


 そうやって開き直った方がかえって恥ずかしくない。


「ミライは世界一かわ」


「私が誠道さんのために働いてるって言いましたからね! だから私に金輪際、『外で働いて』なんて言わないでください!」


「そっちかよ!」


 なんだそりゃ。


 誤解してた俺、チョー恥ずかしいんですけど!

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