第118話 とある人物との再会
出発時間になったので、俺たちは家を出てグランダラの正門に向かう。
「フーユインまでは馬車で十二時間ですね」
「十二時間っ!?」
マジかよ。
「馬車ってがたがた揺れるイメージあるんだけど。お尻とかめっちゃ痛くなりそうだな」
「そこは大丈夫です。私たちが乗るのは『プレミアム馬車』なので、むしろ最高の乗り心地を堪能できます。しかもこのチケットがあれば料金は無料! さらに、運転手が敵や魔物に絶対に見つからずに移動できる【
「すげぇな、その運転手」
「ちなみに、プレミアム馬車に乗らないと、フーユインまでは二日かかります」
「馬車が遅いというべきか、プレミアムが早すぎるというべきか」
俺は素直に感心する。
名ばかりのプレミアムじゃなくてよかった。
「ま、そもそもフーユインへまでの街道に強い魔物は現れないので、そもそも魔物の心配する必要がないんですけどね」
「おいそれ強い魔物が出るフラグだからな!」
でも、なおさら本当によかった。
運転手が【隠匿移動】を持っていて。
フーユインにたどり着くまでに強い魔物と会って死にましたじゃ話にならないもんね。
とまあ、そんな話をしている内に正門に到着した。
「プレミアム馬車ってどれだ?」
「ええっと、ああ、あれです」
ミライが指さした先には、王族の移動に使われていそうな豪華な馬車があった。
他の馬車とは明らかにグレードが違う。
「すげぇ。俺たちあれに乗れるの?」
「はい。さぁ、いきましょう」
貴族にでもなったかのような気分で馬車まで歩く。
御者も清潔感がある素敵な男性だ。
「ようこそ。プレミアム馬車へ。本日、あなた方の素敵な旅のお供をさせていただきます――って、あなた引きこもりのっ!」
目を見開いた御者に指をさされる。
ねぇ、格好に見合った礼儀を身につけている人にしてよ。
いきなり引きこもり呼ばわりは……ってかなんでこの運転手、俺が引きこもりだって知ってんの?
…………あ。
「あなた、もしかして俺と一緒にこっちに転生した」
「はい。あのバスの運転手です」
「やっぱり!」
感動の再会! ってわけでもないけど、異世界転生するという現実を受け入れられずに精神がおかしくなっていたバスの運転手が、こうして異世界できちんと生きていることがわかって安心した。
ってか【隠匿移動】を持っているってそういうことか。
…………あれ?
この人が転生者って視点で考えると、あのクソ女神から有用な技をもらえている事実に腹が立ってきたぞ。
「あのときはお見苦しい姿をお見せしてしまい、申しわけありませんでした。いきなりのことで混乱状態だったんです」
握手を求められたのでそれに応じると、なぜか謝られた。
ああ、女神リスズに集められた日のことを言っているのか。
「いえ、突然あんなことになれば、取り乱してもおかしくはないですよ」
「お気遣いありがとうございます。実は、私はあなたにずっと感謝の言葉を伝えたかったのです」
「え、俺に感謝?」
「はい」
バスの運転手だった男は満面の笑みでつづける。
「私はあのとき、精神がおかしかったのです。私のせいでバス事故を起こしてたくさんの人の命を奪ってしまった。にもかかわらずその誤魔化し方すら思いつけなくて、絶対に有罪だと思うと、もう八方ふさがりで」
「そういう意味でおかしくなってたのかよ!」
普通は自分が突然死んだこととかが原因だと思うじゃん。
ってか神様が不運な事故だって言ってたじゃん。
この人の倫理観大丈夫?
事故を誤魔化すって……これからこの人の馬車に乗って大丈夫かなぁ。
「そんなときです。あなたが【新偉人】っていうクソみたいなステータスをもらったことを不満に思って騒ぎはじめて」
「あのぉ、ちくっと俺をバカにしないで」
「私はそのなんとも惨めな姿を拝見して」
「グサッと俺をバカにしないで」
「ああ、私はなんてちっぽけな事で悩んでいたんだろう。こんな素敵な【
「ねぇ、あんたバスの事故を自分の過失だって思ってたんだよね? それをちっぽけなんて言わないで! 全部忘れないで!」
「むしろ私のおかげでみんな異世界に転生できたんだから、感謝されるべきなんだって思おうとしました」
「まだ精神がおかしい可能性まで出てきたぞ!」
正常性バイアスって言うんだっけ?
罪悪感を消すために、自分の過去を正当化しているぞこの人!
あと、あのとき騒ぎまくってた俺って、そんなに惨めでしたか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます