第113話 ほんとにあの女神は

 その後、五分くらい押し問答を繰り返し、ようやくプレゼントをやめることを納得してもらえた。


「そうか。じゃあ代わりにこれを。この笛を吹けば、俺たちは誠道くんたちのいる場所に一瞬でワープできる」


 心出から真っ白な笛を手渡される。


 鶏真――真枝務喜一のスキルで作ったらしい。


「困ったことがあればすぐに呼んでくれ。俺たちは必ず誠道くんたちの助けになるから」


「お前らは人間に窮地を救ってもらったドラゴンかよ」


 ……まあ、でも大度出じゃなくて心出はたしかに強い。


 一度戦ったからよく知っている。


 そんな人が無条件で助けてくれるというのなら……でも、あまり使いたくはないな。


 いくら真面目になったとはいえ、心出たちに助けを求めるというのは、ちょっと嫌だ。


 これをいらぬプライドと言うのだろうか。


「はぁ、でもそうか。俺たちはずっと誠道くんを困らせていたんだな。睾丸と借用書プレゼント大作戦は親切ではなく、独りよがりなおせっかいだったんだな」


 がっくりと肩を落とす心出。


 それだけ俺に対して誠意を見せたいってことだろうか。


「くそぉ。やっぱり俺はまじめにはなり切れないのかなぁ。俺の固有ステータス名も【努力は必ず報われると言っているやつ、なんらかの才能あるやつばかりで説得力皆無】って、クソみたいな名前だし」


「なんだよ。そのスキル名は!」


 おいクソ女神! せっかく真面目に更生しているやつになんてスキル渡してたんだよ!


 また非行に走るぞ!


「ああぁ、こんなスキル名の俺はやっぱり駄目なのかなぁ。真面目に頑張ってもいいことないのかなぁ」


 ほら、心出が落ち込んでいるじゃないか!


 俺だってそんな現実突きつけられたら落ち込むよ!


 ……俺のスキル名だって【新偉人】っていう悲しい現実だったぁ!


「皇帝さん。なに落ち込んでいるんですか」


 丸刈りの光聖志太一ががっくりとうなだれる心出に声をかける。


「大丈夫ですよ。皇帝さんは変わったんですから。近くにいる俺たちが言うんですから間違いないです」


「光聖志……」


 心出がウルウルした目で光聖志太一を見つめている。


 おお、恐怖支配していた時とは違って、真の友情が芽生えてんじゃねぇか。


 坊ちゃん刈りの真枝務喜一もつづく。


「きっと神様は、皇帝さんは弱者の気持ちに寄り添う努力の男にさせるために、あえて試練を与えたんですよ。そういう名前のスキルを与えても、努力しつづけられる精神力の強さを身につけてほしいと思ったんですよ。俺は努力しつづける皇帝さんが大好きですから」


「真枝務……お前も」


 ああ、なんだよくそ。


 ちょっと羨ましいなぁ。


 こいつこそポジティブシンキングの鏡じゃん。


 真枝務喜一よ、お前はその名前の通り、なりたい男にちゃんとなれてるぞ。


「そうですよ。光聖志と真枝務の言う通り、皇帝さんならやればできます!」


 当然のように五升・リマク・李男も心出を励ます。


 でもこいつだけ感動できないのはどうして?


「俺は信じてますから! だって皇帝さんは本当にすごい人ですから。本当に皇帝さんはすごいですから。もっともっと頑張っていきましょう」


 うん。


 やっぱりなんかこいつだけ誉め言葉がうっすいなぁって思うんだけど。


 胡麻すりしてる感が否めない。


 こんな風に捻くれた解釈をしちゃうのは、俺が物事を都合のいいように解釈して現実逃避する引きこもりだからでしょうか?


 ……いやこいつの名前のせいだよ!

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