第90話 まさかあいつらは

 闇商人から過去をのぞける水晶を購入した俺たちは、すぐにイツモフさんの家に向かった。


 家の中はイツモフさんの言うとおり、荒らされまくっていた。


 リビングのテーブルは真っ二つに割れ、ソファはひっくり返されており、引き出しという引き出しは開きっぱなしで、中に入っていたものは床の上に散乱している。


「ミライさん早く水晶を! 過去を!」


 イツモフさんが水晶を持っているミライを急かす。


「わかりました」


 あれ?


 ここでミライなら、


「イツモフさん。人にものを頼むのですからそれ相応の頼み方があるんじゃないですか? 私は対価を求めます。親しき中にも礼儀とお金ありです」


 などとふざけたことを言い出すと思ったが。


 それを見越して俺も、


「その水晶はイツモフさんのお金で買ったものだからな!」


 というツッコみを用意していたのに。


 俺の見当違いだったようだ。


 それだけ、ミライもジツハフくんを心配しているということだ。


 俺たちはひっくり返っていたソファを元に戻し、ミライがその上に水晶を置く。


「さぁ、イツモフさん。水晶に両手をかざしながら、店主に教えてもらった呪文を唱えてください」


「はい」


 力強くうなずいたイツモフさんがその水晶に手をかざして、過去を見るのに必要な呪文を唱える。




「この水晶を作った天才魔術師リト・ディアは超イケメン!」




「なんだその呪文はぁ!」


 作成者が自己顕示欲の塊なんですけどぉ。




「私、今にも惚れちゃいそうですぅぅ!」




「そんなやつに惚れるなぁぁぁああ!」


 だめだ。


 俺は頭を抱える。


 この水晶は絶対に偽物だ。


 俺たちはジツハフくんの居場所のヒントを得ることなんてできないのだ。


「なにを騒いでいるんですか? さっきのはただの呪文ですよ」


 ミライに冷静にツッコまれるが、今はそういう場合ではない。


 ってか俺もちゃんと買うときに説明聞いとくんだったなぁ。


 そうすれば、こんな詐欺に引っかかることはなかったのに。


「こんなふざけた呪文にするやつが過去をのぞける水晶なんか作れるわけねぇだろ! この水晶は偽物だ! 俺たちは偽物をつかまされたんだよ!」


「誠道さん。ミライさん。見てください! 水晶に過去が映ってます!」


「本物だったぁああああ」


 じゃあこれの作成者リト・ディアはただのナルシストってことだぁああ! 


「あれ、この人、どこかで見覚えが……」


 ミライが水晶の中にいる男を指さす。


 そいつはこのリビングの棚の引き出しの中をごそごそとあさっている。


 特徴は、強面で金髪、剃り込みが入った頭。


「もしかしてこいつ……祭りのときに」


 俺はミライと顔を見合わせる。


 どうやらミライも思い出したようだ。


 そうだ。


 こいつはたしか。


 俺はその名を口にすると同時に、ミライも一緒に口を開く。




「クリストフ」


「エグザ◯ルのメンバー」




「じゃあこいつが何代目なのか言ってみろ!」


 くそぉ。


 今俺たち一緒のこと考えてた気がしてたのに。


 格好よくうなずきあったのに。


 あれは全部俺の気のせいだったのか。


「ああ、なるほど、そっちの考え方ですね」


 ミライがポンと手をたたく。


「そっちって、他にどんな考え方があったんだよ?」


「たしかにこの男は、祭りのときに私たちの隣の屋台で、人間が考えたとは思えないほどずるい方法で利益を得ていた、クリストフさんに間違いないですね」


「全部ブーメランですけど、それについての釈明をどうぞ」


「しっ! 大事な情報を聞き漏らしてしまいます」


 かなり不服だが、そう言われては黙るしかない。


 水晶の中で動くクリストフさんに視線を戻す。




『くそ。どこに隠しやがったんだ。あんな大金』




 頭をかきむしりながらクリストフさんがリビングを見渡す。




『こうなったらボスに拷問してもらうしかねぇか。遺跡まで運ぶなら坊主の方を探して……』




 拷問という言葉に背筋が凍る。




『早くカイマセヌさんに金を持っていかないと、俺の命が』




「カイマセヌッ?」


 イツモフさんが口を押えて座り込む。


 顔は真っ青で、目が恐怖で揺れていた。

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