第70話 照り焼き誠道

 そんなこんなで俺たちは、グランダラの外にきていた。


「さぁ、さっそく【目からビーム】を試せる相手、すなわちゴブリンを探しましょう!」


 意気揚々と俺の前を歩くミライ。


 気のせいかもしれないが、人があまり立ち寄らない方に誘導されている気がする……ほら。


 俺の背丈の何倍もある大きな岩で囲まれた場所に連れてこられた。


 ちなみに、ミライは少し大きめ鞄を肩に斜めにかけている。


 準備があると言って自分の部屋に消えたミライを玄関で待っていると、その鞄を肩にかけて現れたのだ。


 しかも、ミライの体を斜めに横断している肩ひもによって、二つの大きな双丘がよりくっきりと浮かび上がっている。


 パイスラッシュってやつだ。


 鞄の中には、きっと俺とのあれやこれやを楽しむためのグッズやコスプレ道具が入っているんだろう。


「ミライ。本当にこっちでいいのか?」


「大丈夫です」


 振り返ったミライの髪の毛を風が攫う。


 あらわになった耳はほんのりと赤みを帯びていた。


 なびく髪を手で抑える姿はものすごく絵になっている。


「だって……他の人に見られると恥ずかしいですから」


「そ、そうか。ならいいんだ」


 俺は鼻の下が伸びないよう必死だった。


 たしかにここなら、そういうことをするのにおあつらえ向きだな。


 大きな岩がたくさんあって隠れられる場所が多いし、なによりそもそも人がこない。


 むしろそういうことをするために作られた場所なのではないだろうか。


 つまりここは異世界ラブホテ――おっと、少し妄想が過ぎたかな?


「そうですね……この辺りでいいでしょうか」


 首を振って周囲を念入りに確認したミライが満足げにうなずく。


 俺も周囲を確認するが……うん。


 やっぱりすこぶるいい場所だ。


 ひときわ大きな岩で周囲が覆われており、隠れられる場所が多い。


 しかし、だからといって閉塞的かと言われればそんな感じはせず、むしろ頭上に望める水色の空は開放的で圧巻の一言。


 時折吹いてくる風が本当に気持ちいい。


「あれ、でもこんな場所にゴブリンなんているのか?」


「……はっ!」


 ミライが慌てたように口を手で押さえた後、ぺこりと頭を下げる。


「すみません。人がこない場所を優先するあまり、ゴブリンのことをすっかり失念しておりました」


 ミライさんってやっぱりバカなの?


 俺が外にきたのはあくまで【目からビーム】を打つため。


 イチャイチャウフフのためじゃないんですよ。


 一番の目的を見失ってもらっては困りますなぁ。


「どうですか? 今からでも場所を移動しますか?」


「いいよ。別にここで」


 申しわけなさそうにしているミライの肩に優しく手を乗せる。


「だってここすごく気持ちいいじゃん。それにゴブリンじゃなくたって、威力を知るためだけならこの大きな岩に【目からビーム】を打てばいいし」


 目隠しの役割を果たしてくれる大きな岩だが……まあ、ひとつやふたつ破壊してしまっても問題はないだろう。


 その分ミライとのムフフを誰かに見られてしまう可能性は高まるが、より開放的な気分を味わえるし、見つかるというスリルがまた興奮を呼び起こして……ってそういや、俺失明するからなにも見えないのか。


 開放的とか全然関係なかったわ。


 でも!


 視界がなくなるってことは他の感覚が研ぎ澄まされるってことだから、より気持ちよさを感じられるってことじゃないでしょうか!


 しかも失明するのは十分間だけ。


 ミライと俺、互いの興奮が暴走してしまえば、十分でイチャイチャウフフが終わるわけもない。


 そこから先は、きちんと目が見える状態で楽しめる。


 つまり!


 俺は目が見えないことによって生まれる最高の気持ちよさと、目が見えることによって生まれる解放感とスリル、そのどちらも楽しめるということだ!


「誠道さん。ありがとうございます」


 ミライよ。


 そんな羨望の眼差しで見ないでくれ。


 照れるじゃないか。


「いいっていいって。せっかくならミライの選んだ場所で、ミライが気に入った場所で【目からビーム】を試したいからさ」


「誠道さん。本当にありがとうございます!」


 だからそんな感謝感激雨あられの眼差しで見つめないで。


 照れて照れて照り焼き誠道になっちゃうから!


 うん。


 もう自分でもわけわかんないくらい、テンションが上がってます!

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