第2章 男として、俺は先に行くよ

第68話 新必殺技、それは男の夢

「お疲れさまでした。獲得した経験値を振り分けてください」




 ミライに課された過酷な連続スクワットを終えたとき、天の声が脳内で鳴り響いた。


 首にかけていたタオルで汗を拭いながら、経験値を各ステータスに振り分けていくと、なんか新しい技を習得した。


 ま、もう別にぜんぜん期待してないけどね。


 いや、なんつーの? ほんっとにぜんぜん期待してないけどね。


 これまでのことを鑑みるに、本当にこれっぽっちも期待してないけどね。


「おめでとうございます。誠道さん」


 隣で鞭を振るっていたミライも(もちろん練習用の的にだよ、俺にじゃないよ)一旦手を止めて祝福してくれる。


「新しい必殺技ですよ。どんなものでしょうか?」


「どんなものって、またどうせ引きこもりあるあるでしょ。しょーもない。だから全然これっぽっちも期待してないよ」


「そうですね。最初から身構えていれば受けるショックの落差は減りますし」


「ショック受ける前提なのがすでにちょっとショックだけどね」


 こんな異世界転生は嫌だのお題で俺の境遇話したら一本取れると思うんだ。


 女神様から与えられたスキルが【新偉人】、そして借金ばかりしてくるメイド付き。


 うん。笑いっていうより同情されそうだね。


 ってかそんなことより、全然期待してないけど、天の声さん、俺が獲得した技名はなんですかー?


 本当の本当に期待なんてしてないけど……おっ、ようやく頭に声が流れ込んできたぞ。




「技名称【目からビーム】を習得いたしました」




 ってやっぱ引きこもりあるあるじゃ……ん? 


「目、から、ビーム?」


 ……え?


 今たしかに天の声が「【目からビーム】を習得いたしました」って、言ったよね?


「ミライ。今、【目からビーム】って、そう言ったよな?」


「はい。引きこもりあるあるではなく、中学生が一度は妄想することあるあるでしたが、そう言いました」


「だよな……」


 【目からビーム】、【目からビーム】、【目からビーム】って……。


「やったぞぉおおおおおお!」


 俺は天高く拳を突き上げた。


 とにかく嬉しい。


 叫ばずにはいられない。


「こういうのでいいんだよ。ようやく俺にも、普通の攻撃技がきたんだ!」


 もう感動で涙が出そうです。


 だって【目からビーム】なんだよ。


 最高すぎる。


 これまで覚えた必殺技は、なんかこう使い勝手が悪かった。


 相手の視界を奪うだけとか、リア充相手にしか効かない攻撃とかね。


 あとひとつ、大度出たちを倒したときに使った【無敵の人間インヴィジブル・パーソン】があるのだが、なんせ俺にはそのときの記憶がないから、その技もいまいち信頼しきれない。


「おめでとうございます。誠道さん」


 新しい必殺技の登場に、ミライも嬉しそうにしている。


「【目からビーム】という名前。これまでとは比べ物にならないくらい、シンプルかつすごそうな技ですね。中学生が一度は妄想することあるある、ですけど」


「何度も言い直さなくて大丈夫だからね。その文言がつくだけで感動が五割減するからさ」


 今はそういうの考えずに喜びたいんだよ!


 この【目からビーム】で敵をばったばったと倒していくぜっ!


「え? どうして五割減なんですか? 【目からビーム】が出したいっていう中学時代の妄想が現実になったんですよ? だからこんなに喜んでいるんじゃないんですか?」


「そんなわけあるかぁ! 単純に強そうな攻撃技だから喜んでるんだよ!」


 ほ、ほんとだよ。


 まあ、たしかに一度は誰しも思ったことがあるだろうけどさ。


 【目からビーム】出したいとか、今この瞬間教室にテロリストが入ってきたらどう動くかとか。


 俺はテロリストに立ち向かうパターンと、説得するパターンと、逃げ出すパターンの三パターン考えたよ。


「もう、誠道さんったら。照れないでください」


「照れてねぇよ」


「私の前ではそんな恥ずかしがらなくていいですよ。だって私は誠道さんが【目からビーム】とか、かめは○波とか、オリジナルの呼吸とか、ガチでいろいろやっていたことを知っていますから」


「もうやめてぇ。ミライの言う通り、本気で【目からビーム】が出せたら……って妄想してましたよぉ。強がってただけですよぉ」


 なんなら【目からビーム】が一番可能性あるかなぁ、なんて思って本気で練習していた時期がありました。


 そんな現実逃避をやってないとニートなんて苦行、やっていられないのです。


「だからなんでそんなに恥ずかしそうなんですか? 私は誠道さんの長年の願いが叶った姿を見られて、すごく嬉しいのですが」


 きょとんと首をかしげ、困惑の表情を浮かべるミライ。


 あれ、今回はからかってるんじゃなくて、本気で嬉しがってるのか。


 だったら今回は開き直って素直に喜ぼう!


「そうだよな! 恥ずかしがる必要なんかどこにもないよな! ミライの言う通り、長年の夢が叶ってるんだから素直に喜べばよかったんだよ!」


 そうだ!


 なにを考えていたんだ俺は!


 【目からビーム】なんてほんと最高じゃんか!


「そうですよ。誠道さん。今日はその、目からっ、くふっ、ビームっ! ふふふ、を習得できたっ、ことを、喜びっ、ま、ふふふ、しょう」


「やっぱり【目からビーム】をバカにしてんじゃねえか!」


「【目からビーム】をバカにしているのではありません。【目からビーム】を得たことを盛大に喜んでいる誠道さんをバカにしているのです」


「どっちも変わんねぇよ!」


 ふーんだ。


 別にいいもんねー。


 だって俺、【目からビーム】出せるようになったんだし。


 みんなが一度は妄想したことを、この俺だけが実現できてるんだから。


 これぞ優越感だよ!




「新技【目からビーム】ですが」




 そのとき、天の声が俺たちの会話に割って入る。


 技の効果説明をしてくれるようだが――それ、必要ないよ。


 だって聞かなくてもわかるもん。


 目から眩く光るビームが出る。


 はい説明終わり。




「まず目を閉じて、意識を目に集中させてから目を開けます。すると目から眩く光るビームを出すことができます」




 ま、そうだよね。


 聞かなくてもわかってたよ。


 やっぱり最高すぎじゃん!


 女神リスズ様。


 俺はあなたに一生ついていきます!




「しかし、術者は【目からビーム】を出した後、ビームのあまりの眩さに目が眩み、十分間失明します」




「ふざけんな女神リスズ!」


 俺はいつかお前を神様から引きずり下ろす!


 それとミライさんは大爆笑しないでね。


「こんなもん全く使えねぇじゃねぇか! 戦闘中に十分失明って、ほぼ自殺行為じゃねぇか!」




「それはしかたないことです」




 天の声が淡々とつづける。




「引きこもりは引きこもっているがゆえに太陽の光に弱くなる。つまり眩しいに弱い。なのでビームの眩さにも弱いのです」




「やっぱり引きこもりあるあるだったよ! しかもちょっと工夫してきたし!」


 技名じゃなくて技の効果説明に入れ込むとか、ほんとあのクソ女神!


 俺をからかうために手の込んだことしやがって!


「ふふっ、じ、自分がっ、くははっ、出したビームで、眩しくて、失明って」


 だからミライさん、涙を流すほど笑うのやめて。


 恥ずかしいから。


 【目からビーム】なんていう厨二病感満載の能力に歓喜雀躍してた俺の立場がなくなるから。


「本当にっ、失明、くふふっ、自分のビームが眩しくて………………あっ!」


 それまで笑いまくっていたミライは、いきなりパッと顔を輝かせながら胸の前で手を合わせる。


 ねぇ、なんか明らかに変なこと考えついてないこの人。 

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