第47話 小学二年生

「では気を取り直して、お題は『道端で財布を拾った』にしましょう」


「もういいよ、なんでも」


 なんで俺だけこんなに疲れているのだろうか。


「でも、えっと、『道端で財布を拾った』だよな」


 なんか一気に簡単になったような気がするんだが、まあいいか。


 俺なりのポジティブシンキングを見せつけてやる!




 道端で財布を拾った。


  ↓


 交番に届けると持ち主がいた。


  ↓


 感謝の言葉を言われ、お礼として二割もらった。




「これでどうですか?」


「うーん。二十点ですね」


「だからさぁイツモフさん。あなたが言ったんですよ、人のポジティブシンキングを否定しないって」


「でもこれだと拾った人、つまりあなた自身が損をしていますよね」


 いや、そうやってどや顔されても。


 ってか感謝されてお金ももらえているので得していますけど?


「ですから、正解はこうです。よく聞いてください」


 イツモフさんが、ピンと人差し指を立てて鼻を鳴らす。




 道端で財布を拾った。


  ↓


 運よく周囲には誰もいなかった。


  ↓


 財布をポケットにそっとしまった。




「正解はこれです! どやぁ!」


「どやぁ! じゃねぇよ。どこがポジティブシンキングだ。ただの犯罪じゃねぇか」


「なにを言っているんですか? これだと拾った財布の中に入っていたお金が全額自分のお金になります。あなたの考え方だと二割しかもらえません。八割も損をしているのです」


「二割得してんだよ! 誰かの笑顔はプライスレスって言葉を知らないのか?」


「なにをバカげたことを。人の笑顔で物が買えますか? 後、私のポジティブシンキングを否定しないでください。ポジティブシンキングは尊重し合うものです」


「だからイツモフさんが先に否定してるんですけど」


「すみません。私も考えてみたんですけど……これはどうですか?」


 俺たちの言い争いにミライが割って入る。




 道端で財布を拾った。


  ↓


 中に入っていたお金を元手にギャンブルでぼろ儲け。  


  ↓


 お金が尽きるまでほしいものをたくさん買えるようになる。




「だからお前らの考え方は犯罪行為だっつってんだろ」


「素晴らしいです! ここまで素晴らしいポジティブシンキングははじめてですよ!」


 俺のツッコみをかき消すようにしてイツモフさんが歓喜の声を上げる。


「ミライさんのポジティブシンキングだと、最初に拾った額よりお金が増えていますから、点数としては驚異の二百点、いやそれ以上です! まだまだ私もポジティブシンキングニストには程遠いですね」


「とんでもないです。たまたまです」


「謙遜し合ってるところ悪いんだけど、最初に財布の中に入ってたお金分くらいは交番に届けようね」


 一万歩譲っての意見だよ、これも。


 その後、イツモフさんとミライのやり取りはどんどん過熱していき、しまいにはどんなお題も最終的に『億万長者になって世界征服』に変換されるようになってしまった。


 小学二年生男子の将来の夢かよ。

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