第4章 新必殺技! そして、ミライは

第34話 新必殺技の名は

「おめでとうございます。ステータス【魔攻】のレベルが40に到達しました。それにより新しい必殺技を習得しました」



 自室の床に寝そべって腹筋をした後、獲得した経験値でステータスをレベルアップさせたら、おなじみの天の声が聞こえてきた。


 経験値獲得のためにコツコツと引きこもりつづけ――なんかこの言い方だと、どれだけがんばっていてもサボっているように聞こえるんだよなぁ――ようやく新たな技をゲット。


 まだ二つ目ってのが非常に不満だけど、でも獲得できるだけましだと思わないとね。


 …………え?


 今覚えた技の名前はなにかって?


 ははは、聞いて驚くなよ。


 その名もなんと!



「【リア充爆発しろ】を習得いたしました」



「だから、ふざけんなよクソ女神がぁ!」


 俺はその場に崩れ落ちた。


「もうやだ。俺トレーニングやめる。現実見たくない。なにも知らない子供でいたい」


 ああ、なんかあのオムツおじさんの気持ちがわかった気がする。


 ほんと、現実は嫌になるね。


 無条件で甘えられる赤ちゃんになりたい。


「かしこまりました。誠道さん。それではまず服を脱いでオムツをはいてください。それからバブバブ言って私に甘えてください。侮蔑の眼差しで相手してあげます」


「もうすでにゴミを見るような目で見てるよね」


「まるで自分がゴミと同様な言い方ですね。ゴミに謝ってください」


「俺ゴミより下なの?」


「オムツをはいて赤ちゃんプレイする高校生がゴミ以上とでも?」


「返す言葉もございません。ってか冗談だから。本気じゃないから」


 あと本気で赤ちゃんプレイするような人には、その侮蔑の目はむしろご褒美になるからやめた方がいいよ。


「私だって今のは冗談ですよ。誠道さんのよさは、この私が一番知っていますから」


 ミライはそう言って優しい微笑みを浮かべてくれる。


 なんかちょっと恥ずかしいなぁ。


 顔が熱くなっていくのがわかる。


 ミライから目を逸らすと、こほんという可愛らしい咳ばらいの音が聞こえてきた。


「ではゴミみちさ……誠道さん」


「今言い直したよね? やっぱりゴミだと思ってるってことだ」


「とりあえず獲得した技を試してみませんか?」


「あ、ゴミみちさん無視されちゃったよ」


 まあでも、確認は大事だと思う。


 【リア充爆発しろ】は、


『対象に衝撃波を放つ。対象が自分よりリア充であればあるほど威力は増す』


 という技だと天の声が教えてくれたが、実際はどうなのだろう。


 ってか天の声に聞けば技の詳細を知ることができるの、俺知らなかったんだよね。


 その知識を教えてくれた聖ちゃんには感謝するけどさ、普通はそういうのも神様が教えてくれるもんじゃないの?


「誠道さん。攻撃技が加わったのはでかいですよ」


「そうだけど。でも魔物にリア充の概念なんかあんのかよ? それに、ここらへんにいるボッチのゴブリンよりはさすがにリア充だと思うぞ、俺」


「そうですか……ね?」


「なんで疑問形なんだよ」


「そんなことはさておき、さっそく使ってみましょう」


 ミライに押し切られる形で、俺たちは街の外に出た。


「お、いたいた、ゴブリンだ」


 川辺にいた第一ゴブリンを発見するや否や、俺はすぐに新たに覚えた必殺技、【リア充爆発しろ】を使ってみることにする。


 あわあわしているゴブリンに右の両手を伸ばして。


「【リア充爆発しろ】!」


 その瞬間、手のひらの先からなにかが飛び出していった感覚があった。


 おっ? これはもしかして発動した?


 やったぁ!


 これで俺もついに敵を攻撃できる術を手に入れたってことか!


「でもボッチのゴブリンの方が俺よりリア充ってことじゃねぇか!」


「逆になぜゴブリンに勝っていると思っていたのですか?」


「ミライさん。その当然でしょ? みたいな顔やめてくれませんか」


「まあほら、不幸中の幸いですが、ゴブリンは尻もちをついただけです。つまり、ボッチのゴブリンと引きこもりの誠道さんのリア充度合いの差はごくわずかです。かろうじてゴブリンが上回っただけです」


「それフォローになってるようでなってないからね。傷口にデスソースぬってるからね」


「さぁ、不毛なやり取りはここまでにして、次はこれを使ってみましょう」


「俺にとっては死活問題なのっ」


 ミライがポケットからなにかを取り出しているが、そんなことどうでもいいんですけど。


 ゴブリンに負けているって事実がもう、心にくるんですけど。


「あああ、なんでなんだよぉおおおおおおあっ……ん」


 口を大きく開けて嘆いていると、ミライに謎の小さな球体を口内に放り込まれた。


 思わず飲み込んでしまう。


「おい、どさくさに紛れてなに食べさせたんだよ!」


「今誠道さんに入れたものは、思考読み取り機の親機です。実は昨日買い物に出かけた際にモニター募集の高額バイトを見つけまして。初の人体実験――稼働テストをしてほしいと依頼されたのです」


「おい人体実験って言わなかったか? こいつ金のためにご主人様を売りやがった」


「語弊のある言い方ですね。これは人類の発展のためです。それに、危険は絶対ないから安心してくださいと説明を受けております」


「むしろそれが危険の証拠なんだよ! 初の人体実験で危険が絶対にないって言いきれるはずがねぇだろ!」


「終わったことに文句を言うのは格好悪いですよ。とにかく、お金のために今は素直にモルモ……ニターになってください!」


「モルモニターってなんだよ! 人類の発展のためじゃなかったのか!」


「発展に犠牲はつきものです。諦めましょう」


「誰かだいじょーぶって言ってくれぇ!」


 頭を抱えてうずくまる。


 その間に、ミライは倒れているゴブリンに近づいていき、口の中に小さな球体を放り込んだ。


「さあ、誠道さん。集中してください。今このゴブリンに思考読み取り機の子機を食べさせました。目を閉じれば、このゴブリンの思考が流れ込んでくるはずです」


「待て。なんで人間と魔物で試してんだよ」


 不満をこぼしつつも、こうなったときのミライになにを言っても意味がないと知っているので、俺は言われた通りに目を閉じる。


「ナンダ? イッタイ、コノオンナハ、ナニヲノマセタンダ」


 びっくりして声が出せなくなる。


 脳に直接声が届く感じ。


 聞こえる聞こえる!


 これは普通にすげぇぞ。


「ええっと、次は」


 ミライはポケットから紙を取り出す。


 モニターの検証項目だろうか。


「とりあえずゴブリンから離れましょう。読み取り可能範囲を調べないといけないので」


 ミライに言われるがまま、俺はゴブリンから距離を取る。


 思考を読み取るには目を閉じていないといけないので、ミライに手を引いてもらう。


「ナゼ、アイツラハニゲテイク。マア、タタカワナイニコシタ…………ウグッ」


 歩いている間もゴブリンの思考が絶えず頭の中に流れ込んでいたのだが、ん?


 なんかいきなり苦悶の声が聞こえたぞ?


「オイ、マタノアイダニテヲ……ソコハダイジナオトコノショウチョ……グギャァァァア」


 俺はそっと目を開け、通信を遮断させた。


 なぜか知らないけどそうすべきだと思って、合掌して南無阿弥陀仏と唱えた。


「あ、誠道さーん、ミライさーん」


 南無阿弥陀仏を十回唱え終えると、片手に聖剣ジャンヌダルク、もう片方の手に二つの丸い玉を持った聖ちゃんが向こうから走ってくるのが見えた。


「動けないゴブリンをぐちゃぐちゃにしていたら近くにいるのが見えて。はい、おみやげです」


 うん!


 俺の股の間が、つり橋を渡っているときみたいにひゅんってなったよ。

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