第32話 友達の瞳はサンシャイン
「でも、不思議ですね。盗まれて、しかも壊れていたはずなのに、どうして目の前に落ちていたんでしょうか」
聖ちゃんが持っている聖剣ジャンヌダルクをいぶかしげに見つめている。
「それは、そういう決まりじゃからのう」
……んん? この声は、もしかして。
聞き覚えのある声に、俺は後ろを振り返る。
「よう、おぬしら。元気にしておったか?」
そこにいたのは巫女服姿の女性、女神様リスズだ。
ちょうどいい。
俺はこいつに言いたいことが山ほどあるんだ。
「おいてめぇ、俺は【探索】なんてシステム知らなかったぞ!」
「おぬしのサポートアイテムは自我のある人形。プライベートは大事じゃから、言う必要はないと思っていたのじゃが」
「なんか正論っぽく聞こえるのが悔しいな」
「でもまあ……わかったのじゃ。おぬしがミライのやることなすことをすべて知りたいストーカーなら」
「ストーカーじゃねぇわ」
「それならミライの意志で【探索】を拒絶できるようにしようかのう。通常時は【探索】できるようにしておいて、おぬしに知られたくない場所にいくときは【探索】を拒絶できる。名づけて【探索スイッチ】じゃ。後でミライに教えておこう」
「適度にダサいネーミングをありがとう! その勢いでもうひとつ、俺の【新偉人】を有能なステータスに変えてくれると助か」
「それは無理じゃ」
「即答やめろ」
「もうステータスの再取得はできんのじゃ。その聖剣ジャンヌダルクのような、サポートアイテムと違っての」
「えっ?」
聖ちゃんが驚きの声を上げる。
「つまりそれは、女神様がジャンヌダルクを新しく作り直してくれたってことですか?」
「そういうことになるのう。わらわに感謝するのじゃ」
聖ちゃんには優しく受け答えをする女神様。
俺にはその優しさをいつになったら見せてくれるの?
「なにを不満げな顔をしておる。当然であろう。おぬしらに与えたサポートアイテムは、この世界の現段階の技術に見合ってないものが多い。盗まれて解析、複製などされるわけにはいかんからの。所有権が他の者に渡ったとわらわが判断した時点でそのサポートアイテムは自壊、わらわが新たなサポートアイテムを作成して、再度手渡すことになっておる」
聖剣ジャンヌダルクの場合、柄の部分はこの世界の現段階の技術でぎりぎり作れるから、刃の部分だけが壊れる仕様になっていた、と女神リスズはつづけた。
「そんな面倒ことせずに取り返してくれたらいいじゃん。神なんだから」
俺が疑問に思ったことを聞くと、頭をぺしっとたたかれる。
「神だからこそじゃ。神は管理する世界への過度な干渉を禁じられておる。取り返そうとすれば戦闘が発生する可能性だってあるし、場合によっては相手の命を奪ってしまうやもしれぬ。そもそも、なんでもかんでも手助けするほど、わらわも暇ではないからの」
「でも、だったら盗まれたときにすぐに新しいのを渡してほしかった、です」
控えめに主張した聖ちゃんの頭を、女神様は優しく撫でる。
やっぱり特別扱い!
「こんなすごいアイテムをぽんぽんぽんぽん作れるわけがなかろう。何度も言うが、わらわも暇ではないのじゃ。間に合ったからいいではないか」
まあ、そりゃそうだけど。
ってかこの女神様、異世界転生者のことを少しは考えていたんですね。
びっくりだよ。
「さて、用は済んだ。わらわはこれで失礼する。もう失くすことのないようにな」
その言葉を残して、神様は俺が瞬きする一瞬の間に、その姿を消した。
まあ、なにはともあれこれで一件落着。
金の亡者お姉ちゃんは今度会ったらただではおかないけれど、この異世界にきて、はじめて綺麗に物事が解決できたような気がする。
「誠道さん」
聖ちゃんに呼ばれて振り返ると、聖ちゃんは深々と一礼していた。
「改めて、今日は本当にありがとうございました。もし誠道さんがいなかったら、私は今ごろ大人の女性が大好きな男の人に落札されて、隙をついてその人の睾丸をむしり……あれ、その方がよかったような」
「なに言ってるんだよ聖ちゃん。大人の女性が好きな人は聖ちゃんに目もくれないよ」
「え? なんですか? な・る・み・ち・サン?」
しまった。
聖ちゃんがおかしなことを言うもんだから思わずツッコんじゃったよ。
なんとかしないと俺の睾丸が危ない!
なんせ相手は【愉悦の睾丸女帝】だ!
「ででででも、その、これで、ほら、俺は聖ちゃんをいつでも助けるっていうか、今日だっていくらつぎ込んでも聖ちゃんを救おうとしてたっていうか」
睾丸を取られてしまうという恐怖でなんか変なことを口走っている気がするが、なんとかごまかさないと本当にヤバいから!
「だからその、聖ちゃんにはいつまでも俺と友達でいてほしいっていうか。ほ、ほら俺はそそそそのこうやって聖ちゃんを助けたわけだし、俺といると聖ちゃんにとっても得っていうか、メリットがあるから、その……」
「なんですか、その恩着せがましさ」
聖ちゃんは慌てる俺を見て、邪気のない朗らかな笑みを浮かべている。
「え、だって友達でいるためには、なにかしら提供できるものがないとダメだから」
「誠道さんって、本当にバカですよね。考え方が変なところで卑屈というか、思考回路が引きこもっているというか」
なんか満面の笑みですごいバカにされたんですけどぉ。
思考回路が引きこもってるってどういう意味ですかねぇ。
「別に関係をつづけるのにメリットとかいりませんよ」
聖ちゃんはいったん言葉を止め、俺に背中を向ける。
顔だけ振り返りながら、肩越しに親指で自分の背中を指さした。
「さっき互いが互いの背中を預けたじゃないですか。一緒に戦おうとしてくれたじゃないですか。それがすでに信頼し合っている証じゃなくてなんだって言うんですか。メリットとか得とか、そんなの気にしなくても大丈夫ですよ」
「聖ちゃん……」
メリットなんかいらない。
友達って、そういうものなんだな。
体が熱くなるのを感じながら、俺は聖ちゃんの背中を見つめつづける。
自分より背が低いのに、その背中はものすごく大きくてものすごく広かった。
「ありがとう。俺、人づき合いとかよくわかんないままここまできちゃったから。友達とかそういうの、よくわかんなくて」
「ま、そうじゃないと引きこもりになりませんもんね」
笑顔の聖ちゃんは、それから色っぽく目を伏せて、胸の前で左右の人差し指の先をツンツンさせる。
「なに、どうしたのいきなり?」
尋ねると、聖ちゃんは覚悟を決めたように顔をがばっと上げる。
眼鏡の奥にある大きな瞳は見事にサンシャインしていた。
「でももしっ! もしどうしても誠道さんがなにかメリットを提供したいのなら、ぜひ誠道さんの睾丸を」
「ごめんなさいやっぱり友達やめることにしました」
「ちょっと! 手のひら返しがひどすぎます!」
「聖ちゃんの性癖の方がひどすぎます!」
ああ、どうしてこうなるかなぁ。
なにがなんでも睾丸に話を持っていく聖ちゃんの執念にはある意味で畏敬の念を抱く…………ってか、あれっ?
俺、なにか重要なことを忘れているような気が。
嫌な予感が。
「あっ! 誠道さん!」
背後から声がして振り返る。
俺の引きこもり生活をサポートする美少女メイドのミライが、手を振りながら駆け寄ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます