第10話 どこのハーレム世界だよ

「経験値取得の条件がおっぱいなわけがありません。本当に、あなたは正真正銘の変態さんですね」


「返す言葉もございません」


 俺は今、腕を組んで立っているミライの前で正座をしている。


 ちょうど目線の先、このスカートの中には可愛らしい水色のパンツが……今はそんなこと考えるな。


 ってか、女の子のおっぱいを揉む、が経験値稼ぎに必要だなんて、どこのハーレム世界だよ。


「あれ、でもそうじゃなかったら、どうして経験値をゲットできたんだ?」


「それは、あなたが私に反撃したからです」


「反撃、した?」


「はい。それが戦闘行為と認定されたため、経験値が獲得できたのです」


 なるほど、そういうことね。


 全然わかんないよ。


「ってことは、ミライが『俺を殺します』って襲ってきたのは」


「誠道さんを支援するメイドとして、誠道さんに強制的に戦闘経験を積ませようとしたのです」


「そっかぁ。すべては俺を思ってのためだったのかぁ。だったらありがと……とはならない!」


 んな感動的な話にされてたまるかぁ。


「お前の目は間違いなく本気だった。もし俺が抵抗しないで、そのまま死を受け入れていたらどうするつもりだったんだ」


「その場合、そのまま誠道さんを殺してから私も後を追って死にます。誠道さんがいなくなれば、サポートアイテムである私の存在価値がなくなりますので」


「本気で殺すつもりだったの? わざと勝たせるとか、そういう気遣いは……」


「現時点で人類最弱候補のひとりである誠道さんに負けるなんて、末代までの恥です」


「あの、今あなたのサポートすべき人の心が死にましたよ?」


「私をここまで思いつめさせたのは誠道さんですからね」


「うわ、こいつ身勝手な無理心中を俺のせいにしやがった」


「でも、あなたを襲った結果、逆に襲われることになるとは」


 頬を赤らめるミライ。


 そんな顔しないでくれよ。


 スカートの中のパンツやおっぱいの柔らかさを思い出して、俺まで恥ずかしくなるだろうが。


「それは、その……本当に悪かったって」


「悪かったと思っているなら、私の質問に答えていただけますか?」


「はい、もちろんです」


 それで許してくれるなら、なんでも答えてやるさ。


「ありがとうございます」


 ミライは急にもじもじしはじめた。


「では、私のおっぱいは柔らかかったですか? 感想を詳しくお聞かせください」


「あのさ、これを録音して裁判所に提出して慰謝料がっぽりなんて考えてないですよね?」


「そんなことはしません」


「だったらなんでこんな公開処刑」


「それは……その」


 ミライの顔が曇っていく。


「私は人形ですから、その、おっぱいが人間のそれと同じなのか、知りたくて。きちんと人間の体になれているのか、不安で」


 そうか。


 もしかしてこいつ、自分が人形であることに引け目があるのか。


 だったら正直におっぱいの柔らかさについて語らないと……とはならないけどしょうがない!


「まあその、すごく柔らかかったよ」


 冷静に考えるとさ……なにこの羞恥プレイ。


「ずっと触っていたいくらいっていうか、本当に、人間のおっぱいと同じだった。すごく気持ちよかった」


「そうですか……」


 ミライはチラッと俺を見てすぐに目を逸らす……おい!


 耳まで真っ赤にしてないでなんか言えよ。


 お前が説明しろって言ったんだろうが。


「ミ、ミライさん。なにか言ってくれないと、恥ずかしいんだけど」


「すみません誠道さん。そんなに顔を真っ赤にされて、羞恥プレイがすぎましたね」


 ペコリと頭を下げるミライ。


 そうだよ。


 わかればいいんだよ。


「そりゃあ恥ずかしいですよね。だって、本物の人間のおっぱいを触ったことない童貞さんなのに、人間と比べてどうですか? なんて。デリカシーがなさすぎました」


「そういう意味じゃねぇよ」


「そんな童貞さんだったのに、おっぱいについて長々と語っていただきありがとうございます。本物のおっぱいなんて一度も触ったことがないのに」


「大事なことじゃないので二度も言う必要ないんだけどなぁ! ってかミライさん? 俺が恥ずかしいって言ったのは、そういう意味じゃないんだけど」


「じゃあ誠道さんは、他の女性のおっぱいを触ったことがあるんですか?」


「い、いやぁ、それは……ないけど」


「ですよね。ふっ。心配して損しました。あなたが童貞じゃなかったら天変地異ものです」


 もうやめて、ミライ。


 あなたの支援すべき人が死にそうになっていますよ。


「でも、そうですか。つまり私がはじめての女……ですか。ありがとうございます。柔らかいと言っていただけて嬉しいです」


「え、じゃあまた触っても?」


「なに言ってるんですか。恥ずかしいので嫌です」


 ものすごい侮蔑の目で見られた。


 ま、デスヨネー。




  ***




 そのころ天界では。


「いきなりメイドを押し倒して胸を揉んだぞ。やはりこやつは面白いのじゃ」


 上下左右どこまで真っ白な空間に、女神リスズが浮遊している。


 巫女服姿の彼女が腹を抱えて笑うたびに、艶やかな髪がさらさらと揺れ動く。


「しかし、こやつはいつ気づくかのう。実は【新偉人】こそが、最強ステータスのひとつだということに」


 人差し指で髪をくるくるしながら、女神リスズは不敵に笑った。


「ま、最強を渡すだけじゃとつまらんから、存分に遊び心をくわえたのじゃがな。さっさと大切な人を作って、異世界生活を楽しんでくれると嬉しいのう」


 ミライのためにも、の。


 つづけて聞こえてきた声は、とても優しい音色をしていた。

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