第十六恋 解釈を違えたオタク君

 え、マジで?

 正直それしか出なかった。

 公式様から供給された新規イラストと追加エピソード。そこには心拍数がおかしくなるという意味合いで好きなキャラもいて、解禁日を待ちわびていたのだが。

 マジかぁ。。。いやでもマジでぇ?

 自分の脳内と違っている。二次創作とかではなく純粋に自分の脳内で考えていた、というよりは想定していたキャラと違っている。公式様が出したのだからそちらの方が正しくて俺が解釈を違えていたということだが。だが。だが、そういう意味でも「解釈違い」だった。

 この悲しみは一体?その前にこの感情は悲しみなのだろうか。なんというか悲しいというか心のどこかが痛い。チクズキンとする。

 基本的によっぽどのことがなければ公式様の言うことを受け入れているタイプなので、これは大分堪えた。しかもそれが大好きなキャラだったこともあって「ああ、彼のことを理解できていなかった。」とまるで大喧嘩した末に別れたカップルの片割れみたいな思考と自己嫌悪に陥っていた。そこに加わっているのは、一抹の恥ずかしさ。

 こんなことも分かってないで彼が好きだったのか。いや、別にそうだったから彼が好きな訳じゃない。こういう彼だからこそ好きになったんだ。そうだろう自分よ。

 必死のセルフ励ましも余り効果を感じることができない。嬉しい時も凹んだ時も真っ先に駆け込んだ先は彼のいる場所だったのに、そこが今の苦しみの種で。

 ああ辛い。ああああ辛い。ああ辛い。

 まこと、辛さの俳句。

 現実逃避も段々アホな現実逃避になってきた。誰でもいいから誰か助けてくれ。

 【俺を呼んだか?お嬢さん(=゜ω゜)ノ】

 【変わらずの脳内読み取りでとても嬉しいわ、Mr.幹孝。どうか私を助けて】

 毎度お馴染み、オタク仲間で俺の初恋応援団団長である幹孝からの悪ノri、ごほん、ありがたぁ~いTALKが来た。そういえば最近コイツ絡みの物事が多いな。変なことに巻き込まれる前にしばらく距離でも取ろうか・・・とりあえず、俺の感情をぶつけさせて貰ったら。

 【ふむふむ。どうやら公式様との解釈違いという大事件が発生したようだね】

 【解決できるの?出来なければこの街はもうお終いよ】

 【大丈夫さお嬢さん。この幹孝に任せてくれ】

 【一体どうするつもり?】

 【こういう時にピッタリの物があるんだ。それがコレさ。( ・∀・)つ】

 顔文字に差し出されたのは大手動画投稿サイトのURL。導かれるままに跳ぶと、そこには幹孝の推しのヴァーチャル実況者がいた。タイトルには「雑談したい人大集合!3時間ダベり会(LIVE)」との文字列が。

 【弱みにつけ込む気かテメェ!?】

 【おちけつおちけつ。一先ず見てくれ。文句はその後だ】

 TALKは素に戻ると同時に幹孝から離れる計画が一気に加速した。ってかその前に1回絞める。幹孝懲らしめ計画も同時進行していると

 『なるほどぉ。解釈が違っちゃったんだぁ。それは大変だぁ。』

 例のヴァーチャル実況者がリアルタイムで投げられた質問に答えていた。右上に表示されているのは「友人が公式とのキャラの解釈違いに悩んでいます。元気が出る一言をお願いします! MIKI」というコメント。

 『これは私も受け売りなんだけどぉ。普通に人と付き合っていれば何かしらのギャップってあるじゃないですかぁ。だからぁその友人さんの中ではそのキャラさんもしっかり生きていたんですぅ。えーと、だからぁ、その友人さんは本当にそのキャラさんが好きなんだなぁって。解釈違いがなければ愛がないっていうのはありませんがぁ、その友人さんのもひとつの愛の形なんだと思いますぅ。』

 【で?なにか言うことは?】

 ・・・・・・・・・。

 【大変申し訳ありませんでしたMIKI様。あと、後で払うので代わりに投げ銭して下さい。お願いします】

 【よろしい。許そう】

 

 しっかり生きていた。

 

 ひとつの愛の形。


 なんだか心がじんわり暖かくなった。

 ゲームアプリを立ち上げ、好きなキャラの下へ行く。嬉しい時も凹んだ時も、俺が真っ先に駆け込むのはここだ。

 「どうかしたのか」

 いつもと同じように迎えてくれたキャラにホッとした。

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