11
「レダ商会の再興? それにアルマがどう関わってくるんだ」
「そこに至る前段階として、もう一つ重要な話をしよう。全ての事の始まりは今より十年ほど前になる。俺はレダ商会が狙われた理由をマスターの命令で調査した」
「イズールの……」
「そうだ。考えてみればわかるだろう? 同業者が踏んだ虎の尾を、俺達の商会が踏むわけにもいかない」
「イズールらしいな……」
「あぁ。裏で情報を集めていた俺は、判明した事実の中にレダ商会が襲われるに至った原因となるものを発見した。最も重要だったのは、レダ商会が帝国で行った取引の内容にあったんだ」
ゲトの言葉の先を促すように、サイはじっと耳を
「取引相手はルード帝国の宰相だった。そしてその内容とは、とある特徴を持った人間を探し出すというもの」
「帝国の宰相が絡んでくるのか。一体何を探していた?」
「うむ。サイ導師も言っていただろう。ルードの初代皇帝から連なり、血族が持ち合わせている一つの特徴を」
「あれは昔話の……、まさか」
「そのまさかだ。皇室の象徴たる黄金の瞳を持つ人間、それが当時の帝国宰相の求めるものであった」
帝国の政を執る宰相が、市井に目を向けて特定の存在を求める。それだけでもきな臭さを感じさせずにはいられない。事実、件の関係者に死人が出ているとなれば尚更の事だ。
「当時は前皇帝が崩御してすぐという時勢も関係あったのだろう。混乱の最中、レダ商会がああいったことになってしまったのは、権力闘争の余波というのが表現としては一番近いのだろうな」
「闘争……皇位継承の揉め事にレダ商会が巻き込まれたのか」
「レダ商会としても大きな見返りのある話だから、一概に巻き込まれただけとも言い切れんがな。結局のところ、事が成って帝国の後ろ盾を得られればレダ商会にとっても後々の強みとなる。今回の話は得られる報酬と天秤に掛けた危険の度合いが、地に着くほどに重かったということさ」
「なるほどな……」
「だが、問題だったのは残された者の中に、その結末を
「アリーシ商会も絡んでいたのか?」
「……分からん。奴が得た情報を知ることは、今や不可能だからな」
「だが……今もアリーシ商会は健在で、レダ商会だけが無くなっている。ワルターが亡霊を止めたのか?」
「
「まさに亡霊、か……」
「アリーシ商会にとってはもはや怨念にも等しい。恐怖の日々が続く中、リーウの街に流れてきた一人の男が亡霊と相まみえる事となる。旅の男はサイ導師、あんたとよく似た格好をした男であった」
ゲトの眼がサイを見る。サイの脳裏に先ほどアリーシで聞いたばかりの名が
「グレン・マクドールか」
「あぁ、グレン導師は強かった。それこそ、亡霊の技を子供扱いする程に」
「……」
「事の顛末は知られてはいない。全てを知るのは、亡霊とグレン導師だけだからな。グレン導師は何も語らぬまま街を後にして、亡霊ラザン・ハミルトンはそれ以後姿を消す事になる」
「その様子だと、まだ何かありそうだな」
「……夢を諦めきれなかった亡霊が十年ぶりに蘇った。黄金の瞳を持つ子供を得て、帝国の力を持って真なるレダ商会をもう一度蘇らせようと」
「帝国との話は昔の事だろう? 今更アルマを連れてどうなる?」
「不幸な事に、十年前のあの日から皆時間が止まっているのさ」
「ゲト、お前……ラザン・ハミルトンの居場所を知っているな?」
「サイ導師、悪夢ってのはいつまで経っても──」
サイは、小さくなってゆくゲトの言葉を最後まで聞き取ることが出来なかった。サイの五感がその場に立ち込める異変を察知していたからだ。
微かに鼻を衝く異臭がサイの眉間を歪める。次いで巻き起こるのは空を駆け巡る怒号。騒ぎは周囲に伝染するように範囲を広めてゆき、その内容をサイの元にまで届けた。
──アリーシが燃えている、と。
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