1-23 【解決編】「これが事件の争点です」

『集まったようだな』


 三階、ミーティングルーム。

 床に設置された白い円を囲うように私たち十二人は互いに向き合う形で着席する。


『議論を始める前に今一度ルールを確認しておこう』


 グレイたちは今も私たちの姿をセキュリティルームから見ているのであろう。

 シルバーグレイの声だけがミーティングルームに響く。


『今からこの場で行われるのは被験者の一人、八木コロリを殺害した犯人を突き止める為の議論だ。君たちは議論の末に犯人が誰かを投票しなければならない。最も票を得た人物が犯人だった場合、犯人以外の被験者の勝利だ。犯人は宇宙戦艦から追放され、この実験は継続される。一方、犯人指定を外した場合、犯人の勝利だ。犯人以外の被験者は宇宙戦艦から追放され、脱出の条件を満たした犯人は一人宇宙戦艦から脱出することができる』


「そんな御託はいりませんわ。こんな気分の悪い議論は早く終わらせたいですわ。もう犯人は分かっているんですもの」


 高慢な口調で議論の口火を切ったのはキラビさんだ。

 獲物を狙う捕食者のような強い眼光がまっすぐに私へと突き刺さる。


「メリーさん、カスミさん、レインさん。コロリさんを殺せた犯人はこの三人の中にいるはずですわ」


「違いますよ~。私たちはやっていないのです~」


 キラビさんからの疑いをメリーさんは慌てて否定する。

 確かにキラビさんの視点からすれば怪しいのは、確固たるアリバイのない私達三人になるだろう。


「言いたいことは分かるが、言い方に配慮をするべきだ」


「ふふふ。簡単な推理ですわ」


 トウジさんが諫めるが、キラビさんの主張は止まらない。

 キラビさんの言説に、改めてこの場が犯人糾弾の場であるのだと自覚する。

 このまま黙って居ればキラビさんの言説を受け入れることになる。

 だけど私は知っている。私が犯人では無いことを。


 まずは掛けられた疑いを払拭しなければ、誰も私達の話なんて聞いてくれないだろう。

 私は私の信じる結論に向かうため、キラビさんの言葉と向き合う。




「コロリさんが殺されたのは朝食以降のことですの。朝食後から死体発見までの間にアリバイがない人物にしか犯行はできませんわ」


 私たちのアリバイに関するキラビさんの主張。

 私、メリーさん、レインさんのアリバイには確かに穴がある。

 ただし、それがイコールで私達が犯人だということにはならないはずだ。


 私は、予期していた主張にすでに組み立ててあった反論をぶつける。


「確かに私達にはアリバイがありません。だけど、私達にも犯行は不可能です」


「あら。それはどうしてですの?」


「コロリくんが発見されたのは二階のゲートルームです。私たちが二階に移動したのなら監視カメラにメインエレベータを利用する姿が映っているはずです」


 私の言葉にキラビさんは不思議そうに首を傾げる。


「パンが無ければケーキを食べればいい。メインエレベーターが使えないのなら、貨物用のエレベーターを使用すれば問題はないですわよね」


「いいえ。それは不可能なんです」


 これも予期していた通りだ。

 私はすぐに反論をぶつける。


「貨物用エレベーターの荷重制限は四十五キロです。私達の中に四十五キロ以下の体重の人物は居ません。つまり私達では貨物用エレベーターの荷重制限に引っかかり利用できないんです」


 監視カメラと荷重制限によって私達は一階から二階に移動することは出来なかったのだ。


「ちょっとお待ちになって。それっておかしいことになりますわよね。コロリさんが発見されたのは二階のゲートルームですわ。誰も一階から二階へ移動できなかったと言うのなら、コロリさんはどうやって二階に移動したと言うのでしょう」


「ええ。今回の事件の争点はそこです。一階から二階へコロリくんはどうやって移動したのか。その手段が分かれば犯人も自ずと絞れるはずです」


 私の言葉にキラビさんは一瞬驚きの表情を見せ、考え込むように目を伏せる。

 よし。これでまずは私達だけが疑われる状況を覆せたはずだ。

 議論のスタートラインに立った。


「監視カメラの映像に死角はありませんの?」


 前言撤回。まだ安心するには早いようだ。

 顔を上げたキラビさんから質問が飛ぶ。

 

「監視カメラはエレベーターの昇降口前全体を映しています。監視カメラに映らずにエレベーターに乗り込むことは不可能です」


「でしたらその映像が加工された可能性はありませんの? ここには機械が得意な方がいらっしゃいますわよね」


『その可能性はワレワレが否定させてもらう。監視カメラの映像は加工されたものではない』


 スピーカーを通してグレイの声が届く。


「それでしたらコックピット側のエレベーターの使用は不可能ですわね」


「はい。だから今回の犯行に使われたのは貨物用エレベーターなんです」


 私はあえてそう言い切る。


「それはさっき言っていたことと矛盾しますわよ?」


 私の発言に当然、キラビさんから反論が飛ぶ。


「コロリさんの体重は四十七キロ。貨物用エレベーターの荷重制限に引っかかりますわ。どうやってコロリさんは制限をくぐり抜けたのですの?」


 来た。真相究明のために避けては通れない質問が。

 この答えが犯人の特定に繋がるはずだ。


「四十五キロを超える体重の人物が貨物用エレベーターを利用できる手段が一つだけあるんです」


 私はその答えを知る人物へと視線を向ける。


「そうですよね。御鏡アイさん、御鏡イアさん」

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