第08話 ある日の事
ーーーディノス視点ーーー
母上が目を覚ましたのでいつものように駆けつける。
今日は普段の生活を見せて欲しいと言われたので、当初の予定通り授業を受ける事になった。
(何だか授業参観みたいだな。)
前世の記憶を思い出す。
詳しい事は思い出せないがぼんやりと嬉しい事だった気がする。
まずは座学からだ。
「このように、王家とは王国の土台で有ります。強大な力こそ有していないものの、数ある貴族をまとめ上げ、平和な時代を維持している偉大な一族です。」
教育係の人間達は王家の紐付だけ有って、授業では王家寄りの内容が多い。
今教わっているような歴史の授業では特に
教育と洗脳は紙一重とも言うし、私の思想を王家寄りにしたいのだろう。
そもそも公爵家は戦いの場を提供されるという条件で王家に従っているらしい。
平和を維持されると当初の約束とは違ってしまい、だからこそ
この辺りの裏話は公爵家の図書館から学んだ。ゲームの設定にも書いてなかった話だ。
「北の辺境伯家は氷の地から王国を守護しています。そして、2つの公爵家はそれぞれ矛と盾を王国に預ける事で公爵の位を認められています。」
次は貴族家の関係だな。
王国の歴史の授業とも近いが、各貴族家はそれぞれの歴史が有る。
当たり前の事だが、それを学ばなければ貴族としてはやっていけないのだ。
因みに大きな公爵家は二つ有り、講師が話す矛を預けたのが我がシェール家だ。
シェール家は多くの貴族家から恨みを買っており、私の前途は多難と言って良いだろう。
算術や語学については特に授業が無い。
リサも既に学んでいるし、私も基礎は完璧だ。
定期的に課題をやって終了だ。
お昼の時間は礼儀作法を兼ねてになる。
とは言えこれも慣れたものだ。
たまに王族相手の特別な作法を教えてくるが、謁見の機会など有るのだろうか。
「凄いわ!ディ!」
一通り午前の授業が終わると母上が抱きついて来た。
隣のリサが物欲しそうに見つめてくる。
「リサもお疲れ。」
背伸びをして頭を撫でてやる。
リサも少し屈んでいる。結構年が離れていると言うのに、リサは甘えてくる事が多い。
「ッハ!ダメです!今日は私が撫でましょう!」
いつもの癖で頭を差し出して来たのだろう。
母上の前だと年上ぶって来る。
そんな私達を母上は微笑ましそうに見つめている。
「どんどん信頼できる人が増えて行くわね!流石は愛しのディ!」
教育係の人達を言ってるのだろうか、嬉しそうに私の脇を掴んで持ち上げる。
少し寂しそうにも見えるが、母上が各所に手紙を送っているのは知っている。
起きてる時間が短いせいでもどかしい思いがあるだろうが、最高の母親で有る事に間違い無いのだ。
「ディノス様。そろそろ…。」
セバスが声をかけてくる。
そろそろ次の授業か。
「ディ!頑張ってね!」
母上がガッツポーズしてくる。
手を振って応えると、魔法の授業に集中する。
魔法の授業はセバスが担当している。
セバスは魔法が専門では無いのだが、専門の魔法使いでも私に教える事は殆ど無いそうだ。
その為自主訓練が殆どで、後はリサの手伝いだ。
リサの魔力暴走を防ぐには魔力の制御技術を向上するしか方法は無く、毎日少しずつ取り組んでいる。
一人で出来る訳も無く、毎回私が補助をしている。
他者への魔力制御はなるべく内密にとの事で、セバスが講師をしているのだ。
「うん。良くなって来てるな。」
リサの魔力を見ながら声をかける。
まだまだ荒削りだが、これならいずれは完全に克服する事が出来るだろう。
「何度見ても凄いわねー。」
様子を見ていた母上が声をかけてくる。
以前起きた時にリサの調整は見せた事がある。
アレとやってる事は殆ど同じだ。
リサが魔力を使ってるので少しだけ難易度が高いくらいだろう。
「正に神の御業ですな。」
セバスも加わってくる。
大袈裟な気もするが、転生特典だし仕方ないか。
ギフトでも転生特典でも、広義では神の御業と言えるだろうしな。
「…ふぅ…。ありがとう、ございます。」
肩で息をしながらリサが礼を述べてくる。
リサにとっては結構きつい訓練だと思うのだが、一度も弱音を吐いた事が無い。
少女の身でこんなに頑張っているのだ。私も負けてはいられない。
「なら少し離れていてくれ。」
そう言って拳を握って手の中に魔力を集める。
段々と高温にしていき同時に自分の手を保護する。
限界まで高めた所で空中に留め、幾つか同じように作って行く。
魔法の訓練は高い制御技術を持つ私に取っては全く苦にならない。
何度も繰り返し使う事で習熟度が上がり、威力も上がって行く。
「……凄い…。」
幾つか並べた所でリサが感嘆を漏らす。
リサからすれば夢のような光景だろう。
「散れ。」
指を鳴らしながら魔力球を散らす。
可視化された魔力が粉雪のように一面を舞う。
「キレーー。」
母上が声を上げて喜んでいる。リサも口を開けたままだし、成功だろう。
「お見事で御座います。」
セバスが慇懃に頭を下げる。
小さな声で「既に宮廷魔術師を超えている…?」とか呟いているが、大袈裟な奴だ。
この世界では強さを測る基準としてランク制が導入されている。
Sを頂点としてA〜Fまで定められている。
だが例え同じランクだろうとその実力は大きく変わる。
以前セバスが軽く吹っ飛ばされていたのが良い例だ。
魔法や剣術などの個々の技能については適性を図る事だけが出来る。
例えば私なら魔法は全属性が適性Sで剣術、体術などがSだ。
だがこれはあくまで適性で、訓練などによって鍛えていかなければ意味が無い。
なので適性が重要視されるのは学生までの間だろう。
スキルやギフトなども存在するが、あくまで補助的なものだ。
転生特典まで行くと別だが、基本的にはランクが絶対の指針となる。
「良いですぞー!ディノス様!幼いながらも良い筋肉です!」
必死に考え事をして現実から逃げていたが、未だに悪夢は続いていたようだ。
今日の訓練から新しい講師が担当すると言う事で、期待していたらマッチョな男がやって来た。
「では、本日より体術の訓練を担当します。ツァン=カダンです。」
その挨拶を聞いてみるとなんとカダン姓で、リサの父親だと言う。
ゲームでは未登場だったから知らなかったが、まさかこんなに濃い人物だったとは。
授業が始まると早速雄叫びを上げ、筋肉の重要性を説いていた。
筋トレをするように命じたと思ったら、先ほどのようにオレの筋肉を観察して来ている。
「良いですな!これが新しい喜びか!父上が言いたかったのはこの事だったのか!」
「違うわ!!」
叫び声と共にツァンの首筋に手刀が放たれる。
流石は伝説の暗殺者、見事に意識を刈り取ったようだ。
「申し訳ありません。
今の出来事が無かったかのようにセバスが告げて来た。
笑顔を浮かべているが青筋を浮かべている。
「この
「あ、ああ。」
余りにも自然な態度に聞き逃してしまったが、今息子をゴミと言ったような…。
「どうしましたか?」
「いや、早めに戻ってくるように。」
笑顔のまま返してくるのでそれ以上突っ込む事は出来なかった。
ツァンには母上も怯えていたし、リサは真っ赤なままだ。仕方ない事だろう。
「す、すみません。ディノス様…。」
泣きそうな顔でリサが謝ってくるので、頭を撫でてやる。
身内が盛大に暴れたら誰でも恥ずかしいだろう。
深く触れないのが一番だ。
その日の訓練の間ツァンが戻る事は無く、平和に授業を終える事が出来た。
「ディ!お疲れー!」
一日の訓練が終わると、真っ先に母上が抱きしめてくれた。
今度はリサも一緒に抱き抱えて来たので凄い密着率だ。
「母上、どうでしたか?」
訓練の様子を聞いてみる。
母上も聖女として訓練を受けただろうし、意見が聞けるかも知れない。
「最っ高にカッコ良かったわよ!」
頬を合わせた状態で、いつも以上にグリグリと頬を擦りつけて来る。
期待していた感想と違ったが、これはこれで大満足の結果だ。
その後はスキンシップ過剰と言う程に密着されたが、幸せな気持ちで一日を終えることができた。
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