子供の頃から始めよう「ゲーム世界で最強へと至る道」〜父と兄は現在最強、そして未来の反逆者!?破滅を回避する為、今から私に出来る事!

アタタタタ

幼少期

第01話 始まり

「本日よりお世話係を務めさせて頂きます。リサと申します。迷惑をかけると思いますが宜しくお願い致します。」


青い顔をしながら少女が頭を下げて来る。

少女の隣には白髪の執事が並び、共に頭を下げている。


「ああ、母上の世話は任せるぞ。」


少女を少し眺めた後、横柄に返事をする。

足のつかない椅子に座りながら眠っている母上を見る。


「はい。ディノス様も何かご用命が有れば申し付けて下さい。」


深い呼吸をしながら少女がゆっくりと話す。

様子がおかしいと思って振り返ると、ちょうど少女が倒れる所だった。


「申し訳ありません。本日は調子が良かったのですが…。」


咄嗟に少女を抱え、執事が深く頭を下げる。


「その調子でか?」


椅子から飛び降り、執事の頭を見上げる。

下から見ても頭頂部が見えるほど深いお辞儀をしたままとなる。


「最近は起き上がる事も難しくなっております…。」


執事が苦しそうに声を絞り出す。


公爵家の広い一室だと言うのに、まるで葬式かのような静かさだ。

母上はベッドで眠っており、もう3日ほど眠ったままだ。


「そこに簡易ベッドがあるから使え。」


私の言葉に従い、少女がベッドに寝かされる。


「魔力暴走か…。」


少女を見て呟く。

自らの強大な魔力を制御出来ていないのだろう。徐々に周囲にまで影響が出始めている。


「…!まさか!すぐに移動します!!」


私の言葉に驚き、執事がすぐに少女を移動させようとする。

近づいた執事に魔力の波が襲いかかり、切り傷が至る所に出来ている。

このままだと母上にも被害が及ぶだろう。


「そのまま魔力を受けていろ。何とかしてやる。」


私の言葉に反論する前に少女の傍に移動する。

こちらにも魔力の波が飛んでくるが、大部分は執事が引き受けてくれてるようだ。


「ディノス様!?離れて下さい!!」


執事の叫び声を無視して少女の胸に手を置き、魔力の流れを意識する。


(禍々しい魔力だ…。だが、これなら何とか…。)


何とか魔力を掌握していく。

本来人族が持ち得る魔力では無い。この少女もまた特別な力を持っているようだ。


「まさか…。そんな……。」


その様子に驚きながらも執事が魔力の波を全身に受けている。

他人の魔力を操作するなんて信じられないのだろう。


執事を横目で見ながら作業していると、少しずつ魔力の暴走が収まってきた。

未だに苦しそうな顔をしているが、顔色は僅かに戻ってきているようだ。


「…何とかなったな。この子は私の部屋に運んでおけ。新しくベッドも用意してくれ。」


魔力暴走を抑えたとは言えこの場を凌ぎ切っただけだ。

付きっきりで看ていないと危険だろう。


「分かりました!ですが今はディノス様の治療を!!」


執事の言葉に腕を見てみると赤く染まっていた。

ぷにぷにの幼児の肌が傷ついているのは中々衝撃的だ。


執事はすぐに懐からポーションを取り出し、私に振りかけた。

この回復速度からすると一級品だろう。


「ご苦労。流石に血を流しすぎた。私も部屋に運んでくれ。」


現状を把握した途端、目眩がしてきた。

頭がふらふらとしてきたのでそのまま少女の横に倒れる。


(顔色良くなったな…。)


少女の顔を眺めていると、段々と意識が薄れていく。

その感覚に身を委ねながらも今までの事を思い出していた。




私はシェール公爵家の次男として6年前に生を受けた。

前世の記憶を持っており、この世界が前世のゲームの世界だと言うのもすぐに分かった。

悪役令嬢が主役の乙女ゲーム「エターナルラブ〜偽りの愛に断罪を!真実の恋に祝福を!〜」、通称『真愛しんあい』と言うゲームだ。


前世でも男だったが「真愛」は色々と派生作品を出しており、男性向けゲームから入って徐々にハマって行った。

「真愛」自体も乙女ゲームとして以外に内政ゲームとして評価が高く、前世の私のようにゲームを買う男性はそれなりに居た。

その「真愛」シリーズの中で悪役として登場するのがシェール公爵家だ。


シェール家は王国でも最高の武力を持つ一族だが、傲慢で他者を見下し、何よりも戦闘を目的として行動していた。

何かを得る為に戦争を始めるので無く、戦争をする為にわざわざいさかいを起こすのだ。


王家に対しても面従腹背で、ストーリーによっては反乱を起こす。

その他にも邪神復活を目論んだり、魔王を生み出したり、領民を虐殺したりと、常に破滅の道を辿る。


このままでは私も道連れにされるから逃げたい位だが、邪神を復活させられたら何処に行っても死ぬし、何よりも母上を残してはいけない。

母上は私を生む際に呪いをかけられてしまい、人の数倍の眠りを必要とするようになった。

3〜5日に一回起きるくらいで、半日もしない内にまた眠ってしまう。


そもそもゲームにディノスは登場していなく、公爵家の次男は死産となっている。

母上も同時に死亡しており、こうして生きているのが奇跡なのだ。

時間はかかるが母上を治す方法は分かっている。後は強くなるだけだ。


破滅を回避して母上を救うぞ!と改めて決意を固めていると、遠くから誰かの声が聞こえてくる。

どうやらそろそろ目覚める時間みたいだ。


「ディノス様。おはようございます。」


少女が声をかけてくる。

血色の良い顔で、薄らと微笑んでるようにも見える。


「リサか、おはよう。」


挨拶を返してベッドから降りる。

まだ本調子じゃ無いみたいで少しフラついてしまう。


「お気をつけ下さい。」


リサがすぐに肩を支えてくれた。

冷静な表情だが、力強く添えられた手が少し震えている。


「まだ本調子じゃ無いのか?」


「いえ…、御身を傷つけた事を悔いているのです…。」


そう言って土下座をして来る。

「いかなる処罰でも受けます。」と言ってるが、魔力暴走は病のようなものだ。リサを責めるのはお門違いだろう。


「不要だ。悔いているなら強くなれ。」


強くなれば魔力が制御できるかも知れないし、それに賭けるのが良いだろう。

我ながら素っ気無い台詞だと思っていると、扉がノックされた。


入室を許可すると老執事が入ってきた。

私を見るとホッとした表情を見せる。


「目を覚ましたようで何よりです。孫を助けて頂き感謝しております。」


頭を下げながら礼を述べてくる。

隣ではリサも再度土下座をしていた。


「止めろ。リサは私の付き人になったのだろう。ならば当然の事だ。」


そんなに感謝されても困る。

そもそもこの老執事も私の味方とは言えないのだ。


老執事は名をセバス=カダンと言い、乙女ゲームの攻略対象者の一人だ。

攻略と言っても老人なので、恋人では無く親子に近い間柄になるのが目標だ。

セバスはゲームでは天涯孤独の身となっており、子も孫も亡くしている。

その原因は公爵家に有るらしく、ゲームでは公爵家を恨んでいた。


更に言えばカダン一族は王家の直臣であって公爵家の家臣では無い。

私自身は公爵家を嫌っているが、公爵家の人間であることは間違いない。

それ故にカダン家とは一定の距離を保って接する必要が有る。


「それよりも何の用だ。」


わざわざ部屋まで来たんだ。私の様子を見にきただけではあるまい。


「マイハ様がお目覚めになりました。もし体調が宜ければと思いまして。」


「分かった。リサ、先に行け。」


「っはい!」


少し躊躇ためらった後、リサが部屋を出て行った。

母上が目覚めたなら身支度が要るだろう。リサにも慣れて貰うべきだ。


私が椅子に座るとミルクが差し出される。

幼い体にカルシウムは重要だ。有り難く頂く。


そのまま黙ってミルクを飲んでいると、セバスが意を決したように話し出した。


「もうお分かりかと思いますが、リサは魔人です。それも悪魔の血が濃い先祖返りです。」


魔人はこの世界の人種の一つだ。獣人、亜人、魔人と分けられており、個体での力は魔人が最も強い。

魔人種は魔物と似た性質を持つ種族も多く、公爵領では排斥の対象となっている。

夢魔族とサキュバス、吸血種族とバンパイアなどがその例だ。


「悪魔の血か…カダン家は魔人が多いのか?」


そんな設定は無かったはずだと思いながらも質問する。


「いえ、純粋な魔人種はいません。恐らくは血が混ざり合った結果、奇跡的に魔人種となってしまったのでしょう。」


セバスは淡々と説明しているが、内容はかなり際どいものだ。

一族以外には秘密にするべきだが、リサの魔力に触れた私には隠せないと思ったのだろう。


「そうか、これからは日に一度魔力を調整する。リサが力をつければいずれは必要無くなるだろう。」


リサが私の味方となるか分からんが、これだけすれば敵には回らないだろう。

他人の魔力操作は中々良い修練になったしちょうど良い。


「……感謝致します。」


話していたらちょうどミルクも空になった。

そろそろ向かうか。

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