第94話 (百瀬零斗視点)


「、、、というのが、屋上での出来事だ」




 屋上での騒動の後、千歳先輩に肩を掴まれて逃げられなくなった先輩は、全てを打ち明けた


 初めはいい顔をしていなかった千歳先輩であったが、先輩の心情を深く理解してくれたのか、今回のことは不問にすると言った


 そして嘘の告白についても、先輩の顔を立てる形で見逃すこととなった


 しかしこのことによって、生徒間でのトラブル防止への活動が今までよりも厳しくなったことは、、、その理由は、きっとこの場にいる私たちしか知らないのだろう





 その後、雪先輩の元へ報告しに行く


「ほっ、本当にありがとう! 私も何かできたらよかったのに、、、」


 雪先輩は涙を抑えきれず、瞳を濡らす


 感謝を伝えながらも、当事者なのに場へ参加できなかったことを申し訳なく思っているようだ


「でもしょうがないですよ。 先輩がそうするように言ったんですから。」


 そう、雪先輩があの場にいたなら話がややこしくなり、またこちらの要求が通りづらくなる可能性があると先輩は言った


 雪先輩は渋々言われた通り、私たちの帰りを待つことにしたのだ


「、、、やっぱり、この気持ちは感謝してもし切れない。 私のハジメテで――」


「ゆ・き・先・輩?」


 この人はどさくさに紛れてなんてことを要求しているんですか!


 というか先輩が平然としてることに驚きです


 ヘタレな先輩のことだったら、こう、、、冷や汗とか流すと思っていたのですが


「そ、そうよね。 彼女さんの前でごめんね、百瀬くん。」


「気にすんな。 そのカノジョのお陰で、変に耐性がついたようだから。」


 苦笑いしながらそう話す先輩を向きながらも、横目で私を見てくる雪先輩が怖い


 いや怖いというより、、、呆れられてる?


 と思ったが、軽い嘆息をするだけであった


「さくら、、、いえ、もう慣れてきたわ。 まぁ百瀬くんが頑張ればいい話だものね。」


「おい。」


「ですよね。 なのでもっと先輩への攻めを激しくします!」


「「、、、」」


 互いに頷き合っていた二人は、息ぴったりでしたね、、、






 とまぁこのようなことがあったわけですが、目下私には対処しなければ問題がある


 それは、、、クリスマスについて



 クリスマス、すなわち一般的に救世主イエス=キリストの生誕日とされている日


 現代では家族や友人、恋人と集まり、飲み、食べ、プレゼントを渡し合う行事の一つとされている


 そして最近入手した情報だと、聖夜は恋人たちが愛を育む場所の使用率が爆上がりだという



 、、、先輩と付き合い始めて半年


 手つなぎやハグ、そしてキスまでは行ったけど、先輩は簡単に最後の一線を越えてくれない


 それは私を大切に思ってくれている証拠でもある、、、でも、そろそろ次のステージに行っても良いのではないだろうか?


 先輩には内緒だけれど、ネットや友人からそういうことについての情報を既に入手しているのだ


 それでもお互いに初めてで、不慣れなところも出てくるはず


 、、、私はそんなことも含めて、先輩との思い出を大切にしたい


 だから先輩がヘタレで優柔不断で、勇気が出ず、私が初めて誘ってから数ヶ月経っていたのほどのチキンさんであっても、私は拒絶などしない


 彼は私に拒絶されることを恐れているようだけれど、私は全てを受け止めて見せる


 そう決めたのだ



 、、、なんなら私が先輩を襲ってもいいのでは?


 そう、そうだよ、その通りだよ!


 先輩を私の部屋に呼んで、鍵を締めて閉じ込める


 後は逃げられない状況の中で私が誘惑しまくって、先輩が欲を耐えきれないほどまでに攻めれば、、、


 素晴らしい作戦です、これはやばばですよ!


 そうと決まれば希ちゃん……いえ、私の持てる人脈をフル活用して作戦作成です!





「というわけで先輩、クリスマスデートしましょう。 あ、何をするのかは私が決めますので。 これは決定事項です。」


「クリスマスも近づいてきたし、そろそろお前から誘ってくるとは思っていたんだが、、、そのニコニコが不穏すぎんだよ。」


 はい?


 先輩と熱烈な愛を交わしている様子を妄想しているだけなのですが、、、どうやら私の方が欲を抑えきれなかったみたい


 取り敢えず深呼吸して、、、


「今のところの話ですが、昼に互いへのプレゼントを買いに行き、夜にイルミネーションを見に行った後、私の部屋でプレゼントを渡し合おうと考えています。」


「完璧じゃねぇか。 逆に不安になってきたんだが? 、、、特に最後の部分が。」


「気の所為です。」


「気の所為、、、ならいいんだがなぁ。」


 変わらず怪しむ目で見てくる先輩


 私は出来る限りのポーカーフェイスでやり過ごします


 少し長い時間が過ぎ、先輩は息を吐き出しました


「、、、はぁ。 なんとなく想像できた。」


 あれ、バレちゃってます?


 焦りを覚えたが、先輩は続けて話す


「外じゃなくて部屋の中でやろうとするのはお前らしいと思うが、、、分かった。 俺も色々と準備しとくよ。」


 何かを決意した表情で先輩は言った


 そして私は言葉を頭の中でリフレインさせる


 じゅんび、じゅんび、準び、、、準備!?


 ふむ、つまりこれは先輩がようやっと覚悟を決めてくれたということ


「それは万が一を回避するためのアレを、先輩が購入するということで?」


「言わせんなよ恥ずかしい、、、」


 今まで見たことがないほどに顔を真っ赤にした先輩が可愛い


 、、、よし、私もより一層覚悟を決めますか!



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