023:†クラウド・ダークネス†
「いらっしゃいませ! 【ロールベア】へようこそ!」
ギルドの受付にいくと、お姉さんが元気よく笑顔で迎えてくれた。
サンが冒険者ギルドで依頼の達成報告をするついでに、俺も冒険者として登録をする事にしていたのだ。
「冒険者登録をお願いしたいんだが、どうすれば良い?」
「あら、新人さんですか?」
「冒険者のことは友人に聞いているが、ギルドに来るのは初めてなんだ」
「そうなんですね。登録は簡単ですよ。魔物との戦闘経験や、討伐の実績が証明できるものはお持ちですか?」
戦闘と討伐の経験はブラックベアとナイトウルフだけだが、サンの話が本当ならAランクやSランクらしいから実績としては十分だろう。
今のサンのお祝いムードを見るに、その危険度は信用してよさそうだ。
だが証明するものもあるとはいえ、あれはサンの荷物だからな。
別になくても良いか。
「経験ならあるが、それを証明できるものは持ってないな」
「でしたらまずはEランク……初心者スタートになりますね。よろしいですか?」
「仕事が受けられるのなら何でも良いよ」
別に英雄のなりたいわけではない。
当面の生活費が稼げるならそれで良いのだ。
お姉さんの説明によると、最低はFランクで戦闘経験すらない未経験者はFランクから始まるらしい。
実績はないが経験はあるので一つ上のEランク。
これは未経験ではない初心者のランクらしい。
「もちろんFランクでもお仕事はありますよ。報酬が高い依頼を受けるには相応の冒険者ランクが必要になりますけどね。依頼をクエストと呼ぶのですが、いくつかご紹介しましょうか?」
「いや、それは後で良いよ。この町に来たばかりだから宿も探したいんだ」
「わかりました。ではこちらのギルドカードに触れてください。契約の魔法でアナタの名前や実績データをこのカードに登録できるようにしますので」
「これでいいか?」
俺は言われたとおり、手の平くらいのサイズの金属板に手をのせた。
ひんやりとした感覚に、慣れない不思議な感覚が混じる。
「はい。では……
カードが光ると同時に不思議な感覚が腕に伝わってきた。
その感覚は駆け抜けるようにしてすぐに消える。
「では、冒険者名を登録します。登録したい名前を教えてください」
「名前はク……クラウドだ」
危ない危ない。
今の俺はクモルではないのだった。
俺はここではクラウドと名乗ることにしていたのだ。
なにせ今の俺は指名手配犯だ。
ここでは王国の外だが、情報は共有されている可能性がある。
なんでも「魔王に魂を売った闇落ち勇者」とか言われているらしい。
長いな。
なのであらかじめ偽名を決めておいたのだ。
その名もクラウド。
単純だがカッコいいしな。
フッ……。
「クラウドさんですね。姓はお持ちですか?」
しまった。
そこまで考えていなかった。
普通、持っているよな。
それに無いよりは有ったほうが便利だろう。
「あぁ……ダークネスだ。フッ……」
とっさにカッコいい名前にしてしまったな。
フッ……。
「あら、お持ちなんですね。どこか高貴な家柄のお方なのでしょうか?」
姓は貴族しか持たないものらしい。
そうだったのか。
「あぁ……いろいろあってな。あまり詮索されるんのは好きじゃない」
「それは失礼しました。……あら、こちらのお名前はすでに登録されているようです」
「え? そうなの?」
重複不可なのかよ。
ネトゲか?
「はい。先に登録された方が優先になります。なのでギルドでは冒険者ネームとして別の名前を名乗る事も許可されていますが……どうされますか?」
そもそも偽名の使用は許可されていたらしい。
最初に言ってほしかった。
「どうしても本名が良い場合は、これは抜け道的ではありますが……ネームドマークと言うテクニックがあるんですよ。名前に記号を追加する事で同名でも登録できるんです」
なるほど。ネトゲだな。
だが記号まで一緒だと登録はできないらしいので、少し珍しくて普段はあまり使用されない記号がオススメされた。
よし。
だったらこれにしよう。
「これで頼む」
「はい……こちらは重複なしです! ではこの名前で登録しますね」
お姉さんが何か呪文を唱えると、カードの光がゆっくりと消えていった。
「はい、おつかれさまです。これでクラウドさんのギルドカードが出来ました。登録おめでとうございます!」
こうして俺の登録が完了した。
この名前がこの世界での俺の新しい名前になるというワケだ。
これが俺の新しい名前……「†クラウド・ダークネス†」だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます