017:地獄の晩餐
「……私はクモルのクラスメイトの古島。よろしく」
古島が敵ではないとわかったため、俺は古島を連れて小屋に戻った。
ちょうど晩御飯が出来上がった所らしく、サンは狂気のアートをテーブルに盛り付けている所だった。
古島を見てサンが固まる。
クラスメイトと聞いてサンは「敵?」という疑いの目で俺の顔色をうかがってきた。
これまでの経緯を知っていればそう考えてしまうのも仕方ないだろう。
古島が俺の腕にくっついている姿も、俺を連行しようとしているように見えたかも知れないな。
迷うと危険だかららしいが、ここへ戻る間もずっとこの調子だ。
「古島は敵じゃないから安心してくれ。ちゃんと俺の話を理解してくれてる」
「クモル、アンジュで良い。」
「ん? そうか、じゃあアンジュ」
「うん」
ぎゅっと抱き着く腕に力が入る。
「……ク、クモル!」
「お、おう……?」
何を思ったのかサンも反対の腕に絡みついてきた。
なぜくっついた?
「ご、ごはん出来てるから!! 手伝ってよね!!」
良く分からないが、しかし、やっぱりボリュームが違うな。
くっついてきた腕への迫力が違う。
サンは俺たちと同い年らしいのだが、アンジュの立派なスタイルと比べると相対的にかなり幼く見えてしまう。
そこに優劣はないのだがな。
サンに引っ張られ、一緒に食事の支度をする事になった。
アンジュにはテーブルで待機してもらう。
サンにアンジュの事を説明すると、納得したような警戒したような微妙な表情で「わかった」とだけ言う。
なぜかいつもより距離が近い気がするが気のせいだろう。
「とりあえず、食べるか」
今日の夜ご飯は「ブラックベアのケルベロス風ミートスープ~バハムート草を添えて~」だ。
なにがケルベロス風なのかは突っ込んではいけない。
というかバハムート草が好きすぎるんじゃないか?
サンの手料理は相変わらず謎の形状で七色に発光している。
これ絶対バハムート草のせいだろ。
サンは相変わらずアンジュの事を警戒した目で見ているが、それでも別に邪険にするような素振りはしない。
仲間だという俺の言葉を信用してくれているのだろう。
ないよりサンは料理が大好きだ。
創るのも、それを人に振る舞うのも。
料理の概念を破壊する何かが、サンの笑顔の下に俺とアンジュに平等によそわれた。
アンジュが無言の表情だけで「え? これ食べれる? 死なない?」と伝えてくるので、俺は静かに「うん」とだけ頷いておいた。
その視線は俺と虹色スープを四度見くらい往復していたが、最後は観念したように震える手でスプーンを手に取る。
クールなアンジュもサンのキラキラな笑顔の前では無力のようだ。
根はやさしい女の子なのだろう。
意外と断れないタイプらしい。
一緒に地獄を見てもらおう。
「いただきます」
手を合わせてまずは一口。
うむ。今日もすごい威力だ。
素材が良いならワンチャン、見た目以外は問題ない料理に進歩している可能性もあると思ったのだが、それは気のせいだったようだ。
今日もサンの手料理は絶好調である。
もちろん悪い意味で。
だがこの時のために俺は新しい技を編み出していた。
名付けて「口・ドン!」だ。
無言での発動と指向性、そして威力の調整を学習した事で実現した応用技である。
口の中で極小の衝撃波を作りだし、これによってサンが生み出した異形の料理達の食感を破壊するのだ。
これによって口や喉に絡みつくような食感から、なめらかなスムージーみたいな食感に変化させる事ができる。
今回のようなスープタイプ……喉への特攻ダメージを持つ場合に有効だろうと思っていたのだ。
さっそく技を使用して二口目。
よし、喉への被害はかなり減少したな。
これで今夜もサンの笑顔を守れるだろう。
だが、アンジュは無事だろうか。
今日の料理は気合も十分なため、そのぶん威力も絶大だ。
初心者にいきなりこの威力では耐えられない可能性がある。
が、食べていた。
相変わらずの無表情を装ってパクパクとスプーンを口に運んでいる。
(なん……だと……?)
「…………ん」
俺の視線に気がついたのか、アンジュは小さく微笑むと持っていたスプーンを差し出してきた。
するとスプーンに乗せられた何とも言えない物体に冷気が立ち上りはじめ、一瞬にして凍りついた。
食べてみるとカチコチに凍っているわけではなく、フローズンのようになっている。
なるほど、これで味や食感を緩和していたのか。
最初に見た氷の盾といい、アンジュのスキルは氷結系なのだろう。
やるな。
俺が何日もかけて導きだした事を一口で思いつくとは、さすが知的クール風美少女と言ったところだろう。
それでもよく見ると冷や汗がにじんでいるけどな。
「~~~っ! 私も!!」
それを見ていたサンもスプーンを口に突っ込んできた。
やけに積極的である。
「……ど、どうかな?」
サンが期待と不安が入り混じったような表情で聞いてくる。
その視線は俺だけでなくアンジュにも向けられていた。
今日も可愛い。
さり気なくアンジュも少し頬を赤らめている。
サンのこの上目遣いは女子にも効くようだ。
そして俺たちは無言のアイコンタクトの末に、声を合わせた。
「「……お゛、お゛い゛し゛い゛!゛」」
パァっと笑顔が咲く。
口膣から鼻を突く強烈な刺激や舌を焼く辛味なんてものは、このサンの笑顔の前には些細な事なのだ。
これにはアンジュも同じ意見だろう。
「良かったぁ~。今日はまだまだいっぱいあるからね! あ、今日は飲み物もあるわよ。こっちはブラックベアのミートジュース!」
アンジュの静かな目のふちに涙が光る。
地獄の晩餐はまだまだ終わらないようだ。
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