閑話 新たな生活 side翠
「・・・報告は以上です。」
「はい、わかりました翠さん。ありがとうございます。そのまま進めるよう指示を出して下さい。」
「かしこまりました。では、失礼します。」
私は、雇い主である美咲さんの執務室を出る。
そして、仕事用に与えられている部屋に戻る。
「・・・凄いわね、あの子。流石は次期社長と目されるだけはあるわ。」
私は、彼女の手腕に舌を巻いた。
現在、私は彼女に雇われ、専属秘書として従事している。
以前の会社は、あの人がいる事もあり、気を使ってくれた美咲さんが手を回してくれて私を引き抜き、現在は『周防』直轄の秘書となっているわ。
こう見えて、私の実務能力は高い。
一応、『周防』グループの会社で、子会社とは言え、社長秘書を務められるくらいには。
私は、雇い主に対し失礼ではあるものの、最初の報告書を渡した時に、美咲さんを試した。
結果は惨敗。
私が渡した報告書は、簡潔なものだった。
但し、必要な項目は全て網羅されていた。
今までの経緯を真に理解しているのであれば、これほどわかり易いものはないだろうと自負していた。
以前に仕えていた社長も、周防グループの子会社の社長を勤めるだけはあって、少しの補足を添えれば理解出来ていた。
美咲さんは注釈なしでどれくらい把握できるかしら?
なんて甘いことを考えていた。
だけど、美咲さんは違った。
『・・・大変わかり易くまとまっています。予想以上に翠さんの能力は高いようですね。これは、良い契約が出来ました。全てこの形式で構いません。』
にっこりと笑ってそう言った。
そして、事実、全ての報告書をその形式にしても、まったく問題が無く、
『余分な注釈や装飾が無くて助かるわ、で、これですが・・・』
と、二歩、三歩先を行く指示を出される。
・・・とんでも無いわね。
これで、美玖と同じ歳なの?
信じられないわ。
これは、私こそ、仕え甲斐のある雇い主に雇って貰ったのかも、と内心嬉しくなった位よ。
お給料も以前よりも大幅に上がったし、余計な書類を必要とせず、短い報告書で良いし、何より、彼女のサポートをする他の人員も優秀なようで、彼女宛の各種報告書はとても簡潔明瞭な為、まとめるこちらの作業も捗り、前よりも時間が大幅に確保出来ている。
その上、在宅勤務で近くには瞬ちゃんが居る!
素晴らしい職場だわ!
「ミドリ〜?いる〜?」
「あら?ジェミニどうしたの?」
「ちょっとお話しようと思ってね。」
「良いわよ。じゃあ、コーヒー入れるわね?」
「ありがと。」
そして、ジェミニとはとても仲良くなった。
聞けば、ジェミニは魔法と魔道具?で、年齢を若返らせているみたい。
私よりもずっと歳が上で、会話も知的で馬があった。
話してみたら、とても仲が良くなったの。
娘の仲間だけど、それでも仲の良いと言える友達って良いわよね。
「じゃあ、今度ミドリ用のアーティファクト作ってあげるわ。」
「良いの!?ありがとう!」
「何言ってるのよ。お友達でしょ?」
やったぁ!
これで瞬ちゃんと一緒にお出かけしても、変に思われないわ!
「じゃ、あんまり邪魔しても悪いから、また夕ご飯の時にね。」
「ええ。また後で。」
実は、私は皆さんと一緒に食事を取っているの。
最初は、一人で食べようとしていたのだけれど、瞬ちゃんが、
『翠叔母さんだけ一人じゃ可哀想でしょ?』
と言ってくれて、こうなったのよ。
瞬ちゃん!優しい!大好き!!
・・・真面目な話、夫だったあの人につけられた心の傷は、もうほとんど気にしなくなっている。
愛情もすでに冷めているわ。
姉さんは魅力的な人だったから、惹かれるのは仕方がない。
勿論、傷ついたけれど。
でも、駄目。
美玖を傷つけたのだけは、絶対に許せない!
気がつかなかった自分自身にも腹が立つけど、
『ママは気にしないで。わたしママの事は大好きなままだから。』
本当は夫に裏切られていたのがショック過ぎて、数日間、夜に寝室で一人泣いていた私を、美玖が抱きしめてくれたのは、みんなには内緒。
娘に慰められるなんて、恥ずかしくて言えないわ。
まぁ、もう吹っ切れたし良いんだけど。
もうひと踏ん張りしようかな・・・ってあら?
ジェミニからSNS・・・LINが来てる?
何かしら?ってこれホント!?
こうしちゃいられないわ!!
「瞬ちゃんを綺麗に出来ると聞いて!!!キャアアアアア!!瞬ちゃんが・・・瞬ちゃんが・・・まな板の上の鯉に!?美味しく食べなきゃ!!」
浴室に飛び込むと、目の前には全裸で目隠しされて手を拘束されてる瞬ちゃんがいた。
何故か、あそこが光って見えないけど!
「・・・翠さん、早いねぇ。」
「あ!流石は魔王様だわ!とってもいい趣味ね!やっぱり忠誠を誓うわ!!」
「・・・出来れば、私に誓って欲しいのだけど・・・」
後ろから美咲さんの声が聞こえるけれど、それどころでは無いわ!
だって、瞬ちゃんが待ちきれなくなってるんだもの!多分!!
「あら?ミドリ早いわね。一緒にシュンくんを綺麗にしましょっか。」
「ええ!早速ボディスポンジを泡だてて・・・」
「いやあね、ミドリ?そんなの無粋だわ。私達には、立派な洗浄道具が付いてるじゃないの。」
「・・・その心は?ってまさか・・・」
「・・・うふ♡」
「・・・そ、そうね。瞬ちゃんの赤ちゃんの様な玉子肌を綺麗にするのに、スポンジじゃ駄目ね!やっぱり、人の手・・・身体で洗ってあげないと!・・・じゅるり。」
「もが〜!もがが〜!!」
瞬ちゃんが嬉しそうに泣いてる。
こうしちゃいられない!
「は〜い瞬ちゃん、キレイキレイしましょうね〜?」
「シュンく〜ん?そのまま色々スッキリしましょうね〜?」
「・・・待ちなさい、そこの痴女二人。」
「そーだよ!アタシ達にもさせろ〜!」
「・・・ミドリさん、すっかりサキュバスのジェミニと意気投合していますね。・・・恐ろしい人。」
「まったくだね。ジェミニが二人になったみたいだ。」
「・・・ママ、娘よりも先に、何する気なのよ・・・もうっ!」
「・・・これさえなければ、本当に有能で凄い人なのに・・・なんて残念な・・・」
「お嬢様お嬢様、ブーメランかと愚行します。」
ああ、すっごく充実してるわ!
フォーティちゃんには感謝ね!
「翠よ。もうちょっと自重せよ。私の存在感が無くなるではないか。」
・・・てへ♡
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