第35話 納得したようでした

side リリアーヌ


「じゃあ、次はリリアーヌね?・・・ふぅ。」


 ミカさんは、少し疲れたような表情をしています。

 

「・・・大丈夫ですか?」

「ありがとう心配してくれて。でも、大丈夫!さぁ!続きを始めよう!」


 ミカさんは先程と同じ様に詠唱をします。

 表情を見ると、先程よりもきつそうです。 

 やはり、かなりの魔力を使う、制御の難しい魔法なのでしょう。


 そして詠唱を終え、わたくしの額にミカさんの額がくっつきました。


 記憶が流れ込んできます。


 ・・・シュン様に止めを刺された時の記憶。

 生まれて初めての嫉妬。

 シュン様に再会するまでの焦燥や思慕の念。

 こちらの世界で初めて会って・・・シュン様に懺悔した時の記憶。

 シュン様の辛い状況を知った時の憤り。

 シュン様のために、クズのような男共を排除しようと決意した記憶。

 クォンとのやりとり。

 ジェミニとのわだかまりの解消。

 ・・・一生懸命なシュン様を、支えようと懸命になっている気持ち。


 ・・・ああ、これはいけません。

 ラピスがああ言ったのもわかります。

 これほどまでに・・・ミカさんは・・・シュン様を愛しているのですね・・・


 記憶の上書きが終わり、様々な知識と共に、彼女の想いが流れ込んできました。

 目を明けると、そこには疲れた表情のミカさんと、それを心配そうに支えるクォンとジェミニ・・・そして、同じく心配そうに見ているラピスがいます。


 そして、それはわたくしも同じでしょう、ね。


「・・・あなたの気持ちは、よく分かりましたわ。あなたが、どれほどシュン様の事を助けたのかも。」

「・・・そう。」

「シュン様を愛する気持ちが負けているとは思いません。ですが・・・あなたの記憶の中にある、あなたを見るシュン様の目は、おそらく・・・誰よりも信頼が見て取れます。多分・・・わたくし達よりも。」

 

 ・・・悔しいですが、間違いありません。


「ですから、わたくしも認めます。あなたが正妻だと。」


 わたくしの言葉で、ようやくミカさんはほっとしてくれました。


「・・・ありがと。これからよろしくね?リリアーヌ、ラピス。」

「・・・リリィとお呼びなさい。もう、わたくしにはあなたを嫌えません。」

「そっか・・・よろしくねリリィ?」

「ええ、よろしくミカさん。」

「よろしくな、ミカ。」


 それにしても・・・記憶の中で見たみなさんとシュン様の生活・・・なんてはしたない!

 これからはわたくしが注意しないと・・・


「あ、それで、リリィとラピス、どっちが先にシュンと寝る?今日、明日は二人で順番を決めて良いよ?」


 わたくしが注意を・・・


「それでは、ボク「わたくしからです!」姫様!?それはズルいよ!!」

「いいえ!わたくしからですわ!」

「ええ〜・・・」


 だって、これで正々堂々とシュン様と同じベッドで眠れるのですもの!

 うふふ・・・楽しみですわ・・・久しぶりのシュン様の寝顔と匂い♡ 


 こうして、わたくしたちは、ミカさんの軍門に下ることになりました。

 これからは、みんなで仲良くシュン様を愛する事にします。

 とても、楽しみです。



side 瞬


「あ、戻って来たね。」

「ええ、戻って来ましたわ。ミカさんから、常識を教えて頂いていましたの。」

「・・・そうなんだね。」


 そっか・・・しかし、いつも思うけれど、どうやってるんだろ?

 なんか魔力は感じたんだけど・・・


「さて、それじゃ今日は遅いし、明日も休みだし、詳しい打ち合わせは明日にしようよ。リリィ達もそれで良い?」


 ・・・え?

 美嘉はもう、あだ名で呼んでるの!?

 早くない!?


「ええ、よろしくてよ。ラピスも良いかしら?」

「はい、それで良いですよ。」

「ご飯はもう食べてるんだよね?それじゃ、二人でお風呂入ってきて。もうわかるとは思うけれど、一応説明するよ。こっち来て。」

「わかりましたわ。」「ああ。」


 三人がお風呂に向かった。

 その間、僕はクォン達に、どうやって美嘉は常識を教えているのか聞いたんだけど、どうしても教えてくれなかったんだ。


 そうこうしているうちに、二人も戻ってきた。

 

「じゃあ、寝よう。ベッドが足りないから、今日はシュンとリリィが一緒のベッドで、ラピスはクォンと一緒に寝てね?ジェミニはあたしと一緒よ。」

「ええ!?」

「わかりましたわ。」

「わかっちゃったの!?なんで!?リリアーヌはお姫様だよね!?まずいんじゃ・・・」

「あら?シュン様、不味いなんて酷いですわ。わたくしはきっと美味しいですわよ?シュン様だけのお姫様・・・味わってみます?」

「そうじゃなくて!!ていうか、僕だけのお姫様って何さ!?リリアーヌもキャラ変わってない!?みんなこっちに来ると性格変わるの!?それに、旅でもないのに、お姫様が男とそんなに簡単に・・・駄目だよ!」


 本気でなんでそんな話になるの!?

 リリアーヌは別に僕の事は・・・


「・・・シュン様。はっきり申し上げておきますが、わたくしはシュン様の事を愛していますわ。以前より、心から。」

「シュン・・・それは、ボクもだ。ボクもシュン、君を愛している。」

「ふぇ!?」


 リリアーヌとラピスも!?

 

「・・・その様子では、気づいていてくださらなかったのですね。ですが、一緒に旅をしていた頃から、わたくしはシュン様のとりこでしたわ。」

「そうだったの!?」

「勿論、ボクもだ。」

「ラピスまで!?」


 ・・・そうだったんだ。

 全然気がつかなかったや・・・

 ・・・僕ってもしかして、鈍感なのかな?


「だから、一緒に寝るのはご褒美ですわ。ミカさんやクォン、ジェミニと一緒です。」

「そ、そうなんだ・・・」

「ああ、そうだ。だから、シュン?拒否は許さないぞ?」

「・・・」


 こうして、僕はまた、眠れぬ夜を過ごす事になってしまったんだ・・・


「・・・シュン様、失礼します。」

「う、うん・・・どうぞ?」

  

 僕とリリアーヌは一緒にベッドに入った。


「はぁ・・・やっと・・・やっとシュン様にお会いできました・・・わたくし、寂しくて悲しくて死にそうでしたの・・・」

「・・・うん、あんな別れ方だったからね。僕も、寂しかったよ。」

「ですが、これで一緒に居られます。これからは、ずっと!」

「うん、そうだね。」


 僕もそれは嬉しいな。


 少し、無言が続いた。

 すると、腕に感触があった。

 リリアーヌが、腕を絡めてきたんだ。


「っ!?ど、どうしたの!?リリアーヌ?」

「・・・シュン様、お願いがあります。」

「な。何!?」

「どうか、わたくしの事を、リリィとお呼び下さい。・・・シュン様は、わたくしが姫という事もあってか、少しだけ心に距離がありました・・・でも、わたくしはもう姫ではありません。皆様と一緒です!・・・わたくしだけ、そんなに他人行儀にしないで・・・」


 ・・・そっか。

 気にしてたんだね。

 僕は涙ぐんでるリリアーヌに笑いかける。

 

「・・・わかったよ。リリィ。」

「っ!!はい!シュン様♡」

「そ、それはそうと離して・・・」

「嫌です♡」

「あ、あはは・・・」


 ・・・少しだけ、みんなと寝るのに、慣れて来たと思ってたのに、なぁ・・・

 多分、今日も眠れないんだろうな・・・


 スヤスヤと幸せそうに眠るリリィの顔を見て、僕はそっとため息をついた。

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