第18話「迷子の白い子・拾漆」
晴明の言葉に天海は、まだ恋愛ママゴトやってんのかよ、と、呆れた声を出した。すると祐天が晴明の上から身を乗り出そうとした。
「そうだ、晴明。お仕事が終わったら、天海の弟を探す約束をしたんだ。晴明も一緒に探してくれ」
「ああ、構わん」
「え、あっさり過ぎねえか?」
「こちらが貴様に先に手伝いを頼んでいるのだから、貴様の頼みも聞くのが筋だろう」
「ああ、そう。あ、ありがとう、ゴザイマス」
あっさりと承諾した晴明の頭に祐天がしがみ付いて笑っている。
晴明はいい奴だろう?そう言って。
「さて、今日を入れて六日以内に捕縛せねばならんのだ。天海、貴様の鎖を祐天の腕に繋げと命令を出せるか?」
「こいつと意思疎通しろってこと?」
「そうだ、貴様の言うことを聞くような素振りはしなかったか?」
「……あった、言うことを聞いてくれた気がしたこと。会話?したみたいな」
「その要領で命じてみろ」
祐天は晴明に肩車をしながら、髪を結んでいたネクタイを外し、ポケットから取り出した赤い紐で、結い直した。
ネクタイを晴明の目の前に垂らす。それを晴明が受け取った。
「祐天、鎖を繋いで天海を引け。今回は場所の移動が各々かなり離れていてな。厄介で仕方が無い。降りてきた橋と自宅もかなり離れていたし、天海の父親と密会するマンションまでは、高速道路経由の別地だった」
言いながら、祐天を肩から降ろし、地面に足を着かせた。
「そういや。ヒイヒイ言っていたな」
「高速道路を経由して更にあちこち行きやがったもんでな」
「晴明の全力疾走見たかったな。疲れるの治す暇無く、突っ走ったんだろう?」
「黙れ馬鹿ガキ」
多少皺のついたネクタイを晴明が首元へ結び直した。
晴明と祐天が戯れている間に、天海は右手の鎖に触れ、胸の内で言葉にしてみた。頼み事と、それから名前。右手の鎖の名前は。
(祐天に繋がれないか?俺を助けて欲しい、「
胸の内で紡いだ瞬間、鎖は高速で真っ直ぐ祐天の左手首まで伸びた。
「!!」
瞬間、天海はヒヤリとした。
祐天に無理矢理巻きつくかと想像したからだ。
しかし、鎖は手首に触れる前に、そのまま停止した。
「天海とおんなじ、優しいやつだ。大丈夫、さあ、ここに来い」
祐天が左手首をコートの袖を捲って見せると、そっと巻き付いた。
「天海、次は左の鎖をその右の鎖と繋がれと命じろ。一本に集中させれば頑丈になるだろう。祐天は天海と離れるなよ。私の後を着いて来るんだ」
「あいよ」
再び天海が胸の内で願うと、鎖は従い、一本になった。
お互いが不自由の無い距離まで離れる。
「天海、これくらいでいいぞ」
「おう。んじゃあ、えーと、壊色、忌色、この状態のままでいてくれ」
今度は言葉を発して鎖に指示を出してみた。天海の言葉に反応する様に、鎖はある程度の長さを保ち、手首に触れるか触れないかの力加減で巻き付き、固定された。鎖というよりも手錠だ。
二人の間の鎖は垂れて床に着いている。
互いの自由を束縛しないように。
「ちゃんと話がわかるんだな。壊色と忌色は偉いな」
天海が空いた手で鎖を撫でると、嬉しいのか垂れた部分がゆらゆらと揺れた。
◇◇◇
「日が暮れてしまう前に、対象者の自宅へ行かねばな。夜道のビル街は危険極まり無いからな。何か便利な移動手段が無いものか」
晴明が、溜息を吐いて家屋の隙間から外の空を眺めた。
薄暗い空に、うっすらと月が見えていた。
これから早足で日が暮れてしまうことが想像できた。
「そういや、晴明は顔だけで、天海の父親だと思ったのか?俺はちゃんと天海に会ってたけど、晴明は写真の顔見ただけだろ?」
祐天の言葉に、晴明が振り返る。
「二人の会話に「テンカイ」ろいう言葉が出てきたんだ。顔は話を聞いてしまった今となっては似ても似つかん気になってるが。確か、自分の会社の跡を継がないのが気に入らないとか、「テンカイ」目当ての女を遊び相手にしてたとか何とかの面白くも何とも無い武勇伝を喋くっていた。まあ、深い個人情報は制約があるから聞こえなかったが。女の方はどこかの店で天海を見かけたとも言っていたか。…死んでるんだがな。死ぬ直前にでも見かけたのか」
「ああ、そうか。天海の死体はまだ見つかって無いから、誰も死んだこと知らないのか。生きてる
「まあ、上手いこと誰にもバレず、他人を巻き込まずに崖に落ちたみたいだし、見つけて貰わなくて結構だけど、何か微妙な気持ちになるな、……死んでるんですけどって」
「死体が発見されるまでは、世間では生きてることにされてるだろうさ。もしくは行方不明か。直に貴様の直近の生人が不審に思い始めるだろう。……さて、とりあえず行くか」
晴明が大鎌を肩に乗せ、家屋の出入り口へ向かった。
「天海は俺と一緒な、また、来た時とおんなじに、抱っこになるけど諦めてくれ。そうしないと一緒に行けないから。重く無いからな?そういうの心配しないでな?」
「そこは仕方がないから、頼むよ。でも他に俺にできることあったら言って」
「ああ、もちろんだ、兄ちゃん」
「………ああ、うん」
そう言って、祐天は槍を掴んで肩に乗せてから、天海の掌を掴んだ。
鎖で繋がれた互いの手首が合わさる。
自分よりずっと小さな掌を天海は握り締める。
お互いが死人同士だと温かさを感じる事に驚いた。
「…、あったかいな。まるで、生きてるみたいだ」
「ああ、死人同士だと、あったかいんだよ」
祐天が笑うと、天海は何故か嬉しさが込み上げた。
祐天を自分が担いで走れたら良いのに、天海は繋がれた手先を見つめて思った。
そうして晴明を追って家屋を出た。
◇続
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます