久遠の霧

ナイトタイガー

第1話 転職活動

俺はいわゆるフリーター。好きな日に休めて、好きなときに辞められるバイトを転々としている。職場のしがらみに振り回される人生はまっぴらごめんだ。


バイトはうまく選べば自由で気楽だし、最高の仕事だ。その分、給与は少ないがそれはしょうがない。そんな俺ももう28歳。幸せな日々に終わりがきそうな年になってきた。


今の彼女は5歳年下で、カラオケボックスのバイト仲間だ。バイト同士で適当にやっているうちに仲良くなった。彼女も最初は俺と同じで自由気ままなバイトがいいねと言っていたのだが最近風向きが変わってきた。


「仕事をバリバリしている男の人ってかっこいいよね。」

「そうだね。」

「ナオはいつまでこのバイトを続けるの。」

「うーん。今のバイトは結構気に入ってるからしばらくは続けるかな。」

「そうなんだ。」


他の女友達の影響なのだろうか。バイトを続ける俺に対する評価が下がってきている気がする。正直、彼女と相性はいいのでこの先も仲良くやっていきたいのだが、大丈夫だろうか。


そんなある日、俺は大学時代の同級生の部屋で宅飲みをしていた。友人は、新卒で広告系の会社に入ってからいつも忙しくしているので年に数回程度しか飲む機会がない。


「最近、調子どうよ。」

「仕事が忙しくて悲惨さ。安月給のくせに、サービス残業ばかりだよ。」

「大変そうだな。入った時はすごい良さそうな会社って言ってたのにな。」

「ああ。もう転職活動し始めてるよ。」


友人はそう言って転職情報誌を持ち上げて見せた。俺は内心、やっぱりバイトがいいなと思いながら友人に軽く慰めの言葉をかけた。


「まあなんだかんだで大変だろうけど、バイトの俺よりは安定してるんじゃないの。」

「安定しててもプライベートの時間が全くないからね。次はもっとゆったりできる会社にしたいよ。」

「へー。業種は変えるのかい。いい会社あるといいね。どれどれ、ちょっと見せて。」


俺は友人の手から転職情報誌を受け取り、パラパラとめくってみた。運命のいたずらか、たまたま俺が気にとめたページの中にその求人情報はあった。


正社員急募。未経験者大歓迎。ふむふむ。年齢経歴不問。いいね。簡単な事務作業だけのお仕事です。完全週休二日制。福利厚生充実してます。ほうほう。初任給100万円。年二回賞与支給。え、ちょっと待てよ。


初任給100万円ってなんだこれ。めちゃくちゃいいじゃん。友人に見せると、手を振って笑った。


「うさんくさすぎ。こんなのに引っかかる奴いないだろ。」

「そりゃそうだ。いないな。」


俺は一緒になって笑っておいた。だが、内心とても気になり、話のネタという理由をつけてスマホでその求人情報を撮影して帰った。

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