光の洗礼④

 「君達、あまり長居する暇は無いよ。夕方になると神殿に入れなくなるから、急いで出発するぞ」


 セフィーが和やかな雰囲気の中、彼等に向かって言う。一同は出発準備を整えると神殿へと向かう。


 城から少し離れた位置にあるエルテンシア神殿。その神殿は小高い山の頂きにあった。歴代の王となる者は、必ず神殿に行き光の洗礼を受ける義務があった。歴代の全ての王と大神官となる者が、神殿にある聖堂で正式な儀式でを行い、石碑から光の洗礼を受けて、額に紋様を刻まれる。その紋様は光の神が認めた者のみで、それに相応しい者と認められなければ、紋様が刻まれる事は無かった。その為、歴代のエルテンシア国の王と、大神官のみが、正式な光の洗礼を受けた状態で即位していた。


 一般の者でも光の洗礼を受ける事は誰にでも可能だった。しかし……一般の者で光の洗礼を行って、額に紋様を刻み込まれる例は無かった。神殿にいる神官達も、額に光の紋様を刻みこんで居るが、それは光の魔法を最初に7つ覚えた状態で、大神官から光の紋様を授けて貰うと言うやり方だった。


 神官達の間では大神官に紋様を刻み込むやり方を「後天型」と呼んでいた。


 その「後天型」でのやり方では、12の光の魔法のうち、上位5つを覚えられない仕組みとなっていた。


 神殿は小高い山の頂にあった。その場所に辿り着くには数千段ある階段を登る必要があった。階段を登って行く途中、神殿から帰る人の姿もあった。


 まだ若くリーミアと同年代位の少女が、腰に剣を携えて1人歩いて帰る姿もあった。彼女の友人と思われる少女達が追い掛けて来た「アイナどうだった?」と、尋ねると……「ダメだった」と、少女が答える。「えー!なんで?」彼女達は山を降りながら会話をしていた。


 「もしかいて……彼女達も光の洗礼を受けに来たのですかね?」


 傍らで見ていたティオロが言う。


 「その様だな、まあ……神殿に来る少女は、大半がそう言う目的であろう」


 レンティはティオロに向かって言う。


 一同が長い階段を登り終えると大きな神殿が目の前に現れる。神殿入口の門には若い男性と女性の神官が立っていた。彼等は神聖な白色の衣服に身を包み、純白のマントを掛けている。


 「ようこそエルテンシア神殿へ。本日はどの御用件で来ましたか?」


 「大神官に会いに来ました」


 リーミアが先頭に立って言う。


 「かしこまりました。どうぞこちらへ」


 神官が手招きして、一同を連れて中へと案内させる。神殿に入ると巨大な廊下が続いていた。廊下には石灰で造られた柱が続いていた。柱をよく見ると細かな繊細な模様が掘り込まれている。


 その柱に寄って支えられている頭上高くの天井は不思議な色彩に彩られている。長い廊下の先に礼拝堂が現れ、その中央に大神官が座る椅子が見えて来た。しかし…大神官は椅子には腰掛けて居なかった。


 「失礼……少しお待ちください」


 神官が軽く一礼して、別室へと向かう。その場に残された一同は無言のまましばらく待たされた。


 少しして、別室から高齢だが威厳の有りそうな男性の姿が現れた。白髪で長い白ヒゲを生やし、純白の衣に身を包んだ老齢の男性が杖を付きながら、ゆっくりと歩き、椅子に腰を降ろした。


 「大神官アルメトロス様です。皆様平伏を」


 神官の言葉に言われる通りに、一同は深く頭を下げて、その場に片膝を付いて頭を下げる。この様な場面を初めて体験するティオロとリーミアは他の大人達が片膝を付いて頭を下げているのを見て、同じ様な格好をした。


 何とか夕暮れ前までに神殿に辿り着いた一行は、アルメトロスに挨拶をして、彼等を見たアルメトロスはリーミアを見て話をする。


 「ようこそ、お待ちしておりましたリーミア様。貴女の噂は我々の耳にするところです。お会い出来て光栄です」


 「はじめまして、ご挨拶感謝致します」


 リーミアはアルメトロスに向かって深くお辞儀をする。


 「して……本日は、どの様なご用件で、こちらにいらしましたか?同行者も大勢おられますな」


 リーミアの後ろにはティオロ、セフィー、アーレス、レンティが並んでいた。


 「光の洗礼を受けさせて頂きたいと思います」


 「なるほど……分かりました。では、その様に準備致しましょう。少しお待ちください」


 アルメトロスが席を立ち、奥の間へと向かってからしばらくして、女神官が現れてリーミアに「どうぞ、こちらへ」と、手を差し伸べる。


 彼女は女神官に連れ添われて別室へと案内された。

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