過去②

〜現在


 銭湯から出たリーミアは、用意された着替えの衣服を着込み広間へと向かう。広間にはラミウとルナ、そして彼等の子供達2人とがテーブルに食事を並べてリーミアが来るのを待っていた。彼等が席に着いている傍ら…その中に紛れ込んでティオロの姿があった。


 「やあ…」


 陽気な感じで手を振ったティオロを見てリーミアはムッとした表情で彼に近付く。早朝、逃げ出したティオロに対してリーミアは不機嫌そうな表情をする。


 「何処へ行ってたのよ!」


 「何…怒っているのだよ?」


 「私の護衛をするって約束したでしょう!」


 「こっちにも色々と予定があったんだよ…」


 「勝手な行動は謹んでよね、全く…」


 そう言いながらリーミアは椅子に座る。


 「あらあら…2人とも随分仲が良いのね」


 ルナの言葉にリーミアは目を丸くする。


 「冗談じゃないわ…こんな奴と一緒にしないでよね」


 「おい…人を奴呼ばわりするなよ」


 「あら、何か変な事言ったかしら?」


 素っ気ない態度をしたリーミア、それを見ていた子供達が笑いながら言う。


 「ティオロ、お姉ちゃんに嫌われている~」


 その言葉にティオロは反論出来なかった。


 彼女の側に居れば、まず金に困る事は無いのは明白だった…。しかし、彼女の側に付く…と言う事は、つまり彼女の護衛を務めると言う事だった。


 王位継承権を得る為のギルド参加、いわゆる魔物狩りに出ると言う事である。正直ティオロが一番就きたく無い仕事でもあった。身の毛よだつ魔物の群れに誰が好んで行くものか…と、彼は言いたかった。


 レンティ占術師の言う事が本当なら、彼女の側に居れば自分は財で苦しむ様な生活とは無縁になれるが…ティオロは目線をリーミアの腰に向けた。


 彼女が腰に携えている銀色の短剣、リーミアにとっていわゆる護身の様な存在、人の心理さえ見透かす短剣を用いれば、自分の嘘は直ぐにバレてしまう。


 何よりも恐ろしいのは…その剣の形は鞘から出るまで不明で、鉄の剣さえも両断してしまう切れ味である。


 その気になれば自分など蝋を切るかの様な感じで簡単に切られてしまう。ティオロは、まだリーミアの全てを知った訳では無いが…自分を簡単に吹き飛ばす術を見る限り相当な能力の使い手だと考えられる。


 宿に戻った直後ラミウが彼女が魔物狩りして来た…と言う話を聞いた、彼が思うにリーミアは狩り場で何匹かの魔物を退治した…と、考えられる。


 (金を優先するか…命を優先するか迷うな…)


 などと…考えているとリーミアの視線がティオロに向けられている事に気付く。


 「何を考えているのよ?」


 「ん…ちょっとね、人生の事に付いて色々とね…」


 「あっそ…」


 返事をしながらリーミアは顔を他へ向ける。


 「何か言い返さないの?」


 「聞かなくても大体分かるわ…どうせ金の事なんでしょ?」


 「つれないね…僕にも悩みの1つや2つあるのに…」


 「その悩み、1つ目は…お金をどうやって手にいれるかで、2つ目はその金を何に使うか…でしょ?」


 その言葉に周囲は笑いの渦に包まれた。


 「リーミアちゃん、こいつの性格良く分かっているね」


 笑いながらラミウが言う。


 「ちょっとラミウさん、幾ら僕でも少しは考えている事はありますよ。他の事で!」


 ムキになってティオロは答えるが、周囲の反応に抵抗するのは難しかった。



〜翌日…


 「おい、リーミア起きろ!」


 ティオロの言葉でリーミアはベッドから体を起こして、眠たそうに目を擦る。


 「何よ…大声出して、もう…」


 「お前な、もう外は昼だぞ」


 「え…本当?」


 自分が半日近く眠ってしまった事にリーミアは驚いた。しかし…半日寝ても、体が重く、もう少し寝たい気分だった。


 「とりあえず下で食事しなよ」


 「うん…」


 ボサボサの髪をしながら、ふらつく足取りでリーミアは部屋を出る。広間に行き、ラミウにスープとパンを用意して貰ったリーミアはウトウト…しながら食事をしていた。


 不安そうな表情で見ていたラミウは、彼女ウトウト…と寝坊けている時、危くスープの中に顔を漬け込み掛けた処を、ラミウが彼女の顔を救った。


 「危ないな…」


 「あ…ごめん…」


 少し目を覚ましたリーミアは、ラミウに向かって礼を言う。


 「相当疲れてる見たいだな…」


 「ちょっと昨日…はしゃぎ過ぎた見たい」


 「魔物の野営地で?」


 「ま…まぁ…」


 リーミアは愛想笑いしながら答える。


 「もう少し休むわ…」


 何とか食事を済ませたリーミアは、激しい睡魔に敵わず部屋に戻ることにした。

結局その日リーミアがベッドから起き上がる事は無く1日が過ぎた。



 〜その次の日…


 早朝、前日の疲れも癒えてリーミアは元気になった。彼女はティオロを自分の部屋に招くと、彼は地べたに座らされリーミアがはベッドの縁に腰を下ろして、両手を組んで彼を見下ろしていた。


 「今日…貴方をギルド集会所に連れて行き、その後…武器防具屋に行きます。しっかり私と一緒に同行する事良いですね」


 「はいはい…」


 「返事は1回で結構」


 (これじゃあ…どっちが年上か解らないな…)


 ティオロは少し溜息を吐きながらある事を考えた。


 「先に僕に金を用意してくれない?自分で装備を購入するからさ」


 「それは出来ないわ!貴方は昨日そう言って逃げ出したので…」


 今の時点で何を言っても彼女には言い訳にしか聞こえない…と感じたティオロは素直に彼女の言葉に従う事に決めた。


 「じゃあ…出発の準備するために、食事して出掛けよう」


 「そうね」


 相手が素直に自分の意見を聞き入れてくれた事に対してリーミアは少し嬉しそうに振る舞う。


 2人は出掛ける準備を整えた。


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