第40話 魔物の襲撃


「うう〜ん」


「おはようサリア。そろそろ起きれるかい?」


「ふわ〜あ、おはようユウキお兄ちゃん。あれ、なんでユウキお兄ちゃんが起こしてくれるの?それにここはお外?あっ、そうだ、私たちの村に帰る途中だっけ。それで昨日2人で見張りをしていて……」


 頭が少しづつはっきりとしてきたらしい。そりゃ起きたらいきなり外だから驚きもするわな。


「あ〜そうだった!サリア昨日……」


 どうやら昨日のことを思い出して恥ずかしくなったらしい。顔を真っ赤にして恥ずかしがっているサリアも年相応の女の子で可愛らしい。


「大丈夫だよ、誰にも言わないから。それに昨日も言ったけどやっぱりサリアもマイルも両親と暮らせるんだし、一緒に暮らした方がいいよ」 


「違うの!ユウキお兄ちゃん、昨日のことは忘れて!お父さんとお母さんのことを思い出したらちょっとだけ涙が出てきちゃっただけなの!


 それにね、屋敷での生活はとっても楽しいの!ご飯や色んなものを作ったり、勉強を教えてもらったり、魔法を教えてもらったり、村での生活よりずっと楽しいわ!」


 確かに俺も今の生活をとても気に入っている。個人的には農業をしているよりも圧倒的に楽しいだろう。ただそれでも両親と暮らせるというのはそれだけで幸せなものだ。


「う〜ん、確かに今の生活は楽しいかもしれないけどそれでも両親と一緒に暮らすことも大事だと思うな。まあ時間はまだあるんだし、ちゃんと両親と話をして決めるんだぞ。もちろん俺は屋敷に残って欲しいけど数日の距離ですぐに会えるんだからな」


「ユウキお兄ちゃん……。そうだね、お父さんとお母さんとちゃんとお話してみるね」


「うん、それが良いよ。さあ、朝ご飯と昼ごはんの準備をしようか」


「うん!」


 とりあえずこの話は急いですることでもないし、一旦保留にしておこう。2人とも屋敷に残ってくれると嬉しいんだけど。


 その後は2人で朝食とお昼の軽食を作った。朝ごはんのメニューはトマトスープとパンにベーコンと目玉焼きをのせたもの。お昼の軽食はゆで卵とマヨネーズのたまごサンドとベーコンとレタスとトマトのBLTサンドだ。どっちもみんなに好評だった。


 特にサンドイッチはリールさんも売り物にできると絶賛だった。簡単で中身も工夫できて、彩りもよく携帯性に優れていると。まあ帰ったらエレナお嬢様に話してみるか。




 2日目と3日目の旅路も無事に終わった。今のところ問題は特になかった。強いて言うなら尻が痛いくらいか。子供達もみんな元気で、馬車の旅を楽しんでいる。今日で街から出て4日目になる。順調にいけば今日の夕方くらいにサリアとマイルの村に着く予定だ。


 そんな中、お昼前くらいにこの旅で初めての問題が起きた。今はリールさんが馬車を運転していたが急に馬車が停車した。


「おわっと、リールさん何かありました!?」


「う〜ん、どうやら前のほうで馬車が魔物達に襲われているようだね」


「ええっ!!」


 前の方を見ると確かに馬車が見えた。そしてその周りに狼型のモンスターが10体近く群がっている。


「さて、どうするかな。あれくらいの魔物なら倒せることができそうだけど、安全を第一に考えるなら回り道をして回避するのもありだね」


「いや助けましょうよ!」


 まあ確かに安全を第一に考えるならそれも当たり前なのか。安全な元の世界とは違い、一瞬の油断で死ぬ可能性のあるこの世界では1%でも危険があるならそれは避けるべきなのかもしれない。


「まあユウキ君ならそう言うんだろうね。この子達の護衛は僕に任せて向こうは任せるよ。ただし、少しでも危ないと思ったら迷わずに引くこと!そして真っ直ぐにこちらに戻ってくると魔物達がそのままこちらに流れてくる可能性があるから、少しまわり道をして戻ってくること、いいね?」


「わかりました、行ってきます!」


「ユウキお兄ちゃん、サリアも魔法を使えるようになったし一緒に行くわ」


「僕もシェアル師匠に教わった魔法で戦えるよ!」


「いや、2人の気持ちはありがたいけど、撤退のことを考えると1人の方がやりやすい。2人はもしもこっちに流れてきたら迎撃を頼みたい」


 2人ともシェアル師匠から魔法を習い始め、2人とも俺とは違って属性魔法を使えるようになったが、まだ幼いこともあり、身体能力強化魔法や接近戦はまだまだだ。あの狼たちはすばしっこそうだし、2人には相性が悪そうだ。ちなみに俺は反対に遠距離攻撃はナイフを投げるくらいしかできないから、遠距離攻撃ではすでに2人に敵わない。


「わかったわ、気をつけてねユウキお兄ちゃん!」


「うん、こっちに来たら僕がみんなを守るよ!」


「頼むぞ!よし、行ってくる!」


 馬車を降りて前方の荷馬車に向かって走り出す。そして走りながら身体能力強化魔法と硬化魔法を詠唱付きで唱え、自分自身と武器を強化する。


「大気に溢れたる力よ我に力を与えたまえ、フィジカルアップ」


「大地より生まれたる力よ、我に堅牢な守りを与えたまえ、プロテクト」


 厨二全開な呪文を唱えることで無詠唱よりも効果がアップするんだぜ!これ豆な。なんてアホなことを言ってる場合じゃない。みんな無事でいてくれ。




 馬車が近づくにつれて様子が見えてきた。2人の男達が馬車を守るよう狼に立ちはだかっている。だがすでに身に付けている装備はボロボロになり時間の問題に見える。狼たちは統制の取れた動きで順番に男達に襲いかかるヒットアウェイのような戦法を取っている。


 幸いなことにこちらの動きには気づいていない。これなら奇襲ができる!狙うは一際大きなボスのような個体。強化した身体能力で一気に近づき首を狙う。


「いやああああ!」


 狼どもがこちらに気づいたようだがもう遅い!


 ザンッ


 強化された剣が一撃で狼の首を落とす。肉を切る感触が一瞬だけ手に残るが、強化された力と剣がほとんど手応えなく首が落ちる、


「ガゥッ!?」


「ワォッ!?」


 いきなりの乱入者にボスを殺され明らかに取り乱す狼たち。ここでド派手な炎魔法とかでも使えれば更に動揺を誘えるがそんなものは使えないので返す刀でもう一体の狼を両断する。よし、奇襲が成功したこともあるが、こいつらはそんなに強くなさそうだ。これなら1人でもいける!


「ガァッ!」


 魔物ではあるが両断した身体からは赤い血が噴き出る。命を奪う感触が手に残るが躊躇ってはいられない。屋敷にいたころにいろいろと調べたが、魔物の多くが人を襲って人を喰らう。こいつらを見逃して万が一でも俺の周りの大切な人達を傷つけらたらと思うと容赦などいらない。


「な、なんだ!?」


「まさか、助けが来たのか!?」


 よかったまだ話す元気がある。ボロボロだが命に別状なさそうだ。


「旅の者だ!こいつらを殲滅するからそのまま馬車を守ってくれ!」


 馬車の守りは2人に任せて俺はひたすら狼を狩っていく。先程までの連携攻撃をされたらかなり面倒だったが、統制の失われたこいつらなら問題なかった。


 初めのうちはこちらに向かって攻撃してきたが、強化された身体能力により敵の攻撃を簡単に避けることができた。そして勝てないと分かると狼の魔物は散り散りになって逃げていった。


 できれば全て殲滅したいところだったが別々の方向に逃げられてはさすがに追うことはできず、3匹ほど仕留めきれずに逃してしまった。こういうときには広範囲の魔法攻撃を使えればと少し思う。


「3匹ほど逃してしまったな。そちらは大丈夫ですか?大きな怪我とかはありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。おかげで助かった。俺たちだけじゃ守りきれないところだった」


「感謝する、あんたは命の恩人だ!」


「2人とも怪我をしてますね。まずは傷を治しましょう。生命の源たる癒しの力よ、この者達を癒したまえ、ヒール!」


 キラキラとした緑色の光が2人を包み込む。ここらへんは完全にファンタジーの世界なんだよな。シェアル師匠ほどの力はないが軽い切り傷や打撲なら俺でも治せる。というか訓練のために何度も何度も何度も自分自身を治してきたからな。うっ、頭が……


「すげえ、あんな速さで動けるのに魔法まで使えんのかよ!」


「おおっ!傷が一瞬で治っちまった。すげな兄ちゃん!」


「いえいえ、うちの師匠のほうがもの凄いですよ。俺には治せないような傷も一瞬で治しちゃいますからね!」


 ただし凄いのは魔法に限るがな。


「マジかよ、世の中広いんだな。いや本当に俺たちはついていた。おっと俺たちの雇い主を紹介しないとな。お〜い、聞こえていると思うが、もう大丈夫だ!ここにいる兄ちゃんが魔物を追っ払ってくれたから出てきてくれ」


 そういえばこの2人はこの馬車を守って戦っていたな。いやまて、こう言う場合のお約束はどこかのお姫様とか美人のエルフさんを助けたというフラグを立てたわけですね、わかります。そして荷馬車の後ろから……


「いやあ、本当に助かりました!こんな場所で狼の魔物の群れに会ってこれはもう駄目だと思いましたが、まさか助けが来るなんて!まさに捨てる神あれば拾う神ありですね、ははは!」


 うん、知ってた。普通の髭の生えたおっさんだった。大丈夫、期待してたわけなんかないんだからね!ちなみにあの女神は間違いなく捨てる神だな。俺も拾う神に会ってみたい。


「いえいえ、皆さんご無事で何よりです。怪我とかしてましたら治せますが大丈夫ですか?」


「恥ずかしながら私は馬車の中で震えていただけなので大丈夫です、ありがとうございます。私は行商人をやっておりますエドガーと申します。こっちの2人は従業員兼護衛のグレッグとユアンです。よろしくお願いします」


 そう言うとエドガーさんは右手を差し出してきた。そうなるとこちらも失礼はできない。右手につけているグローブを外す。そして俺の右手には黒い六芒星の奴隷紋があらわになる。


「初めまして、ユウキと申します。奴隷の身ではありますがよろしくお願いします」


 一瞬3人ともギョッとしたように驚いていたが、エドガーさんはすぐに俺の手を取って握手をしてくれた。


「ユウキさん、本当にありがとうございました。あなたは我々の命の恩人です!あちらの馬車にあなたの主人がいらっしゃるのでしょうか?主人の方にもぜひお礼を伝えたいのですが」


 おっとまさか奴隷の手を迷わず取るとは思わなかった。どこぞの領主様なら汚らわしいとか言って握手なんか絶対にしない。ランディさんも商人だけどやっぱり商人の人たちはそれほど奴隷の者に抵抗がないのかもしれないな。


「いえ、私の主人は街におります。今は主人の命でこの先にある村に向かっています。あっ、もう大丈夫そうなのでみんなに伝えてきますね。多分向こうからも見えているとは思いますが心配しているかもしれないので」


「承知しました。お礼もしたいのですが、まずは少しここから移動しましょう。血の匂いを嗅いで他の魔物が集まってくるかもしれません。この狼たちの処理はこちらにお任せを。毛皮は売れるので皮を剥いで残りは道から離れたところに埋めましょう。あっ、もちろん毛皮は後ほどお渡ししますのでご安心を」


 なるほど、確かに血の匂いを嗅いで何が集まってきてもおかしくない。


「わかりました、みんなを呼んで移動しましょう。あっ、戻ってきたら狼の処理は俺も手伝いますから」


「いやいやユウキさん、それくらいは俺らに任せてくれ。命の恩人にそんなことさせられねえ!怪我も治してもらったし、それくらいはさせてくれ」


 こっちはグレッグさんだったな。そういってくれるのはありがたいが、魔物とはいえ俺が奪った命で、まだ剣で切ったあとの感触が残っている。自己満足ではあるが最後まで付き合わせてもらいたい。


「ありがとうございますグレッグさん。それなら解体の方法を教えてくれると助かります。毛皮を剥いだことはないので勉強させてください。じゃあ一旦みんなのところに戻って説明してきますね」


 ここまできたら毒皿だ。ワイルドボアやライガー鳥の解体はしたが、毛皮の剥ぎ取りはしたことがない。いずれ役に立つことがあるかもしれないかもしれない。まあ多分ないだろうけど。


 そうして狼の魔物との戦闘を終えてリールさん達のいる馬車へ戻った。

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