第37話 社交会デビュー


 煌びやかなホール、一目見るだけで高級感溢れる絵画や美術品、華やかに盛られている料理、美しく着飾った紳士淑女達。そんな中に何故かたたずむいつもの執事服な俺。なんなんだこの状況……


 俺は今、何故か貴族たちのパーティに参加している。当然招待されたお客様はエレナお嬢様でアルゼさんと俺が同行しているという状況だ。しかし場違い感が半端ないな。


「アルゼ様、なぜ俺もこんな豪華なパーティに参加しているんでしょうか?」


「ふむ、今日は隣の領主の誕生日だ。いつもは私だけエレナお嬢様のお供をしていたが、そろそろお前もこういった雰囲気に慣れておくべきと思ってな。エレナお嬢様にお伝えして参加させてもらったのだ」


 ええ〜正直に言ってこういう雰囲気のパーティとかすごい苦手なんだけど。誰も彼も高価そうな装飾品で着飾ってるし貴族みたいなお偉いさん達とご飯を食べてもなんにも面白くない。


「アルゼもユウキもお待たせ。シェアルが張り切っちゃって時間がかかっちゃったわ。今日は新しいドレスを新調したのだけどどうかしら?」


「はっ、とてもお似合いです。エレナお嬢様」


 エレナお嬢様は普段の屋敷でもドレスを着ているが、今日着ているドレスは普段のドレスとは異なっていた。


 美しい純白のドレスに身を包み、色とりどりの宝石のような装飾品で着飾っている。はっきり言って周りの貴族令嬢とは比べものにならない。これこそが物語や童話などで登場するお姫様の見本のようであった。思わずしばらくの間見惚れてしまうくらいには圧倒的なオーラを出していた。


「……おい、ユウキ」


 はっ!

 アルゼさんに肘を突かれてようやく正気に戻った。


「すみません、いつも以上に美しくて言葉を失ってました。いつものドレス姿も大変素敵ですが、本日のドレス姿は格別に似合っております!」


 やべ、なんだか思いっきりお世辞を言っているように取られてもおかしくはない。ただ思ったことがそのまま口から出てしまった。


「ち、ちょっと、さすがにそれは褒めすぎよ。もう、ユウキったら!」


 顔を赤くして恥ずかしがっているエレナお嬢様もいと可愛ゆし!まあこれを見れただけでもここに来た価値はあったな。


 本当はドレスとか服も元いた世界の知識チートを使いたかったんだが、オシャレとか全くわからんからな。部活に燃えている男子なんてそんなもんだ。


「いえ、つい思ったことが口から出てしまいました。そういえばシェアル師匠はどちらに?」


 シェアル師匠は来てないところを見ると控室かな。


「……シェアルにはエレナお嬢様をこちらに連れてきてから控室に控えるよう命じてある」


 まあここで何かドジをやらかしたら大問題になる可能性もあるから正解な気がするが、少し可哀想なシェアル師匠である。


「なるほど。そういえばこちらの領主様は確かフローレン=スミス=ローラン様でしたっけ。どのような方なんですか?」


 さすがに領主の名前くらいは勉強していたが、写真とかもない世界だからどんな姿をしているのかまでは知らない。


「そういえばユウキはまだ会ったことがなかったな。ローラン様はアルガン家の左隣の領地の領主様に、わずか18歳でなられたとても聡明な女性だ。また、容姿もとても美しいお方でこの国一の美女と称されているほどだ」


 まじかよ。若くしてそんなすごい人がいるのか。今の説明だと実力を認められてってことだろうしな。くそう、俺もそんな才能が欲しい!


「すごいですね。そんなに若くて美しくて賢い女性がいるとは思いませんでした。さぞ優しくて慈悲のある素晴らしい領主さまなのでしょうね!」


「「………………」」


 あれ、2人から返事がない。もしかしてそんなにすごい人なのに性格はやばい感じなのか。


「ほっ、ほらユウキ、ちょうどローラン様が来たわよ」


 エレナお嬢様の指差す方向には数人の人集りがあった。遠目からははっきりと見えないがあの真ん中にいる金髪の女性がローラン様なのだろう。向こうもエレナお嬢様に気付いたのかこちらの方に向かってくる。


 ローラン様が近づいてくるにつれてその姿が次第とはっきりと見えてくる。


 ローラン様は女性にしては背が高くすらっとした綺麗な足が長いドレスの下から見えている。シャンプーもリンスもないこの世界でも美しく輝く金髪のロングヘア。そしてシェアルさんほどではないが大きな胸、かなりスタイルの良い女性である。そしてなんといってもその美しさたることや、元の世界のトップアイドルやトップモデルと言われても信じられるくらいの美しさだ。


 ……あれおかしいな。確かつい最近コピペじゃないかと思うほど全く同じ感想を抱いたことがある気がする。ていうかあれだよなあ、休日にあったあの御令嬢様なんだよなあ。


 そういう悪い方のフラグはいらないんだよ。やばいな、頭叩いちゃったし泣かせちゃったし大問題になる可能性しかない。いや待て、まだ慌てる時間じゃない。今の俺の格好はあの時と違ってパーティ用の最高級の執事服で髪もしっかりと整えている。さすがにあんなお嬢様がいち奴隷である俺のことなんて覚えているはずがない。……と信じたい。


「これはこれはスミス=ローラン様。本日はお招きいただきましてありがとうございます。お誕生日おめでとうございます」


 2人の付き人を連れてやって来たローラン様に対してドレスを少し持ち上げながら会釈するエレナお嬢様。よく見る貴族の挨拶だけど実際に見ると様になってて格好いい。


 2人の付き人の右手に奴隷紋があるところを見ると2人とも奴隷なのだろう。ガチムチな男とケモミミのついた獣人でおそらく戦闘能力に長けた護衛なのかもしれない。さすがに領主同士との会話ということもあって、先ほどまで近くにいた人集りはいつのまにか遠くに離れていた。


「これはこれはご丁寧にアルガン=エレナ様。本日は妾の誕生日パーティにわざわざお越しいただきましてありがとうございます」


 同じように会釈を返すローラン様。エレナお嬢様の挨拶も様になってはいたが、長身で絶世の美女であるローラン様が同じように挨拶をすると美しすぎて目が離せなくなってしまう。……決して胸元の開かれたドレスあたりを見ているわけではない。


 それにしても話し方もあの時とは別人のようだ。こいつ、だいぶ猫をかぶってやがるな。


「それにしてもローラン様のお屋敷は素晴らしいです。外見もとても美しく、屋敷の中に置いてある絵画や調度品などもすべて素晴らしいものですわ」


「お褒めに預かり光栄ですわ!とくに屋敷の中の物は全て妾が自分で選んだ物ですの。わかっていただけてとても嬉しいですわ」


 「まあ、通りで素晴らしい物ばかりあると思いましたわ!さすがローラン様ですね」


 「お褒めに預かり光栄です。そういえばこの前初めてアルガネルのケーキと言うものをいただきましたわ!とても甘くて美味しくて驚きました。フルーツの入った飴もとても美味しかったですわ!」


 「ふふっ、ありがとうございます。私も毎日食べたいくらいなんですけど、砂糖やミルクをふんだんに使用していて太りやすいようなので週に一度の楽しみにしておりますわ」


 どうやら完全に雑談モードに入ったようだ。領主2人の、しかも女性同士の会話ということでギスギスしてるのか思ったけど仲はそれほど悪くないように見える。まあ裏ではバチバチやってるのかもしれないけど、その辺りは男である俺にはよくわからん。

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