【第9話】番外編・ボク、女の人の『ピーッ』の擬人化みたいな気がするんです

 勇奈の保健室には、実にさまざまな変態……もとい、性に悩む生徒が訪れる。今日もまた、一人の可愛らしい男子生徒が保健室のドアをノックした。


 その、控え目に顔を赤らめた小柄な男子生徒が、椅子に座る勇奈に向かって言った。

「ボク、もしかしたら女性の股間にある、『ピーッ』の擬人化かも知れないんです」


 素数に数えて落ち着く間もなく、動揺した勇奈は座った医療椅子をクルクルと回転させて、天井に飛び上がって、頭をぶつけてド派手にコケた。

(つ、ついに。セルフレイティングギリギリの、最凶最悪下品で、デンジャラスな、竜崎の嫌がらせが来たぁぁぁぁ!)


「ボク、どうしたらいいでしょうか? 西日本なら●●●の三文字、東日本なら●●●●の四文字の……擬人化」

「わぁ! わぁ! わぁ! それ以上言ったらダメ! 削除される! ピーッにしなさい、黒く塗りつぶした文字の上に、白抜き文字でピーッで」


「なにを言っているのかわかりません? 削除?」

「わかる人には、わかるから。男性のオチ●チンの対義語だと言えば、ピーッで通用するから……とにかく、これから先はピーッって言いなさい」

 勇奈は顔の汗を手の甲で拭う。


(危ねぇ、危ねぇ、さすがに異世界前世の記憶でも、ピーッの擬人化は想定外)

 勇奈は、擬人化だと言っている男子生徒に質問する。

「どうして、自分がピーッの擬人化だと思ったの?」

「ボク、すぐ濡れて……今でも見てください、この手の平」

「多汗症なのね」

「触られると、くすぐったくて、ピクッピクッしちゃうし」

「肌が敏感なのね」

「ボク、どうしたらいいんですか? ボクは誰のピーッの擬人化なんですか?」

「落ち着きなさい……あ、落ち着くのは、あたしの方か」

「ボクの体のコトを、詳しく教えてください……知っておきたいんです」

「はぁぁ?」

「お願いします」


 男子生徒を凝視する勇奈。

(男性の体のコトを詳しく知りたいって意味? それとも女性のピーッの擬人化だから、女性のピーッのコトを詳しく知りたいって意味? どっちを教えればいいのよ)


 勇奈は本棚から、イラスト付きの医学書を取り出して、男子生徒に手渡した。

「その本を見れば、イラストの図解が載っているから……イラストに添えられた説明文も読めば、だいたいわかると思う……たぶん」


 男子生徒は開いたページを、食い入るように見る。

「ほーっ、こうなっているのか……なるほど、なるほど」

 本を閉じた男子生徒が勇奈に言った。

「参考になりましたけれど……やっぱり、イラストだけだと。勇奈先生が実際にリアルピーッを見せて、説明してくれませんか?」

「できるか!!」


 その時、保健室のドアが開いて、いつものお嬢さま生徒が飛び込んできた。

「勇奈先生、たいへんですわ! わたくしのピーッの擬人化した人間が行方不明に……一緒に探して……あっ、保健室で見つけましたわ」


 お嬢さま生徒は、自分がピーッの擬人化だと主張している、可愛らしい男子生徒の手を握る。

「居なくなって心配しましたわ。さあ、屋敷に帰りましょう」

「ボク、お嬢さまのピーッだったんですか?」

「そうですわ、わたくしの高貴なピーッですわ」


 男子生徒の手を引いて保健室から出て行こうとする、お嬢さま。

「また屋敷で、頭や首筋を優しくナデナデして差し上げますわ……おヘソがある、お腹や胸も円を描くように優しく愛玩して撫でてあげますわ」

「はい、お嬢さまの手で優しく撫でてください」


 保健室のドアを閉めて出ていった二人に向かって、疲れきった勇奈はドリンク剤を飲みながら。

「二度と来るな!」

 と怒鳴った。


  ~おわり~

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