第177話 グレイべア村侵攻1

 セイジュウ神聖帝国軍の存在を最初に知ったのは、女神クエストの発生によるものだった。


(ココロ:緊急クエストが発生しました!)

(シリル:本当に本当の緊急です!)


≫ 緊急女神クエスト:妖異軍団を撃破せよ!

≫ ここから北西50キロに多数の妖異が確認されました。

≫ これら妖異を狩猟してください。

≫ クエスト参加資格:転生勇者、召喚勇者、神命勇者、一般転生者

≫ クエスト報酬:

≫ 深淵の黒い腕 5体

≫ (討伐一体につき)EON 98万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ (捕獲一体につき)EON 90万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ 森の黒山羊 10体

≫ (討伐一体につき)EON 64万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ (捕獲一体につき)EON 62万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ ショゴタン 5体

≫ (討伐一体につき)EON 50万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ (捕獲一体につき)EON 40万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ 夜鬼 80体

≫ (討伐一体につき)EON 18万ポイント(支援精霊ボーナスあり)

≫ (捕獲一体につき)EON 16万ポイント(支援精霊ボーナスあり)


「えぇぇええええ! 何だこの数はぁぁああ!?」


 グレイべ村の村長宅(兼旅館)で食事中だった俺は、口の中のものを吹き出しながら叫んだ。吐き出された食べ物が、目の前に座っているルカの顔面に直撃する。


「のわっ!?」

「うーっ! シンイチ、どうした! うーっ!」


 ルカが俺を叱りつけようと睨みつけてきたが、続く俺の言葉でその表情は驚愕へと変わる。


「凄く沢山の妖異が出たよ! えっと……100体!」

  

「なっ!? 100体じゃと!?」


 呆然とするルカの口元に張り付いていた、俺の食べかけの焼き魚の欠片がポロリと落ちた。




~ 緊急統括者会議 ~


 その日の夜、地下帝国にある王の間には、各村の統括責任者とその補佐が集ままった。ダークエルフのミリアも同席している。


 会議は玉座の前に置かれたテーブルを囲んで始められた。


「まずは女神クエストの内容なんだけど……」


 俺は目の前に居並ぶひとり一人の目を見ながら、緊急クエストの内容を話した。


 俺の説明が終わった後、最初に口を開いたのはフワデラさんだった。


「深淵の黒い腕……もし、私が知っている神話に登場するような化け物だとしたら、一匹で国の軍隊を崩壊させるほどの強者ということになりますね。神話での名前は地獄腕虫。人間の前腕が巨大化したような姿の怪物です」


 そんな怖い話、聞きたくなかったよ。


「そんな恐ろしい奴が5体もいるのか……しかも、夜鬼が80体……」


 ステファンがボソッとつぶやいた。


「ステファン、夜鬼って知ってるの?」

 

 俺の質問に、ステファンではなくミリアが割って入って答えた。


「夜鬼は、蝙蝠獣人に似た不死の吸血鬼です。闇の魔術に手を染めた暗殺者が、使役しているのを見たことがあります。1体でもとてつもなく危険な敵ですよ」


 ミリアの言葉を聞いて、俺は思わずため息を吐いた。


「それが80体か……戦争でもおっぱじめるつもりなのかな」


 俺の独り言にシュモネー夫人が静かに答えた。


「つもりなのでしょうね」


「北西から現れたことといい、間違いなく神聖帝国でしょうね。とうとうアシハブア王国の攻略に乗り出したということでしょうか。なら王国に知らせますか?」

 

 ステファンの言葉を聞いたルカが、俺の方を向いた。


「ステファンの言う通り、神聖帝国で間違いないじゃろうな。さすがにこの規模ともなると見ぬ振りもできぬ。ミチノエキ村経由で王国に知らせるのが良いじゃろう」


「んっと、俺たちは知らせるだけ? 今回は討伐しないの?」


 俺の問いにルカが呆れ顔で答えた。


「当たり前じゃろうが! 妖異は100体もいるのじゃぞ。これはもはや戦争じゃ。我々だけで相手など出来るわけなかろう」


「まぁ……そうだよね。さすがにね」


「いざ戦いが始まったら王国軍に協力して、その一部の戦力を削ぐくらいのことはしてもよいじゃろ。王国に恩を売っておいて、我らに損はないからの」


 神聖帝国軍と人類軍との戦争ということであれば、妖異100体を丸々相手にする必要はない。


 他の面々も俺と同じ考えなのか、その顔には少しだけ安堵の色が浮かんでいた。


 そして、その安堵は一分も続かなかった。 


 バンッ!


 王の間の扉が音を立てて開かれ、そこにはグレイベア村の村長が、息を切らせて立っていた。


「ヴィルフォファング村長!?」


 思わぬ人物の、突然の来訪。


 そして、かつて勇名を馳せた白狼族の元戦士は、俺たちが予想もしたいなかったことを告げた。


「シンイチ殿! 神聖帝国軍が、グレイベア村を襲うために進軍している!」


 はっ!?


「数多の妖異と一千の魔族兵が、ここに押し寄せてくるぞ!」


 はぁぁぁぁぁ!?


「それだけじゃない! 岩トロルも沢山連れているらしい!」


 神聖帝国がグレイベア村を狙っているだと!?


 しかも、大軍勢を率いてやってくるだと!?


「王国狙いじゃないのかよぉぉおおお!」


 俺の頭が真っ白になった。


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